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怪物のお茶会においで  作者: 路明(ロア)
Festa di tè 8 礼拝堂の陰謀

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Congiura della Cappella. 礼拝堂の陰謀 i

 聖十字架教会。礼拝堂の天井まで高く伸びるステンドグラスを、マルガリータは見上げた。

 心臓の音が速い。

 パオロ司祭の無実を確かめに来たが、失礼な質問を口走ったりはしないよう、自身を落ち着かせる。

 カルロたちのことは、以前よりは信じているし好意的に見ている。

 だがパオロ司祭は、貧しい人々を助けている信頼もある方だ。

 カルロたちの調べたことが間違っている可能性もあると思う。

「ソレッラ・マルガリータ」

 聖堂の横。

 教職の居住棟につながる扉を開け、パオロ司祭が礼拝堂に入る。

「お時間をいただきありがとうございます、司祭」

 背筋をピンと伸ばし、マルガリータは挨拶をした。

「いやいや……」

 パオロ司祭がゆっくりと近づく。

「今は聖カテリーナ修道院にはいらっしゃらないとお聞きしましたが、どちらに」

「えと」

 なぜ知っているのかしらとマルガリータは思った。

 実家の破産や嫁入りで修道院を出る修道女など、ちょくちょくいる。

 いちいち伝わるものなのか。

「いまは……知人のところに」

「ほう。知人」

 パオロ司祭がそう返す。

「そうそう。今度サンタ・クローチェ地区の路上生活者の方々の診察に行くのですが、いつも手伝ってくれる者が都合が悪くて」

 パオロ司祭がこちらを見る。

「手伝ってくれませんか、ソレッラ・マルガリータ」

「え……」

 マルガリータは目を丸くした。

 やはり善い方じゃない。

 カルロは誤解している。人々のためにこうして尽くしている方なのだ。

 司祭の慈善行為のお手伝いができるなんて。

「喜んで」

 マルガリータは笑顔で応じた。

「では、今いらっしゃる場所を教えていただけますか。ご連絡を差し上げますので」

「えと。サン・ガッロ門の近くの……」

「言ってはだめです! ソレッラ・マルガリータ!」

 礼拝堂の入口の扉が開く。

 入って来たのは修道院長だった。靴音を立ててこちらに歩みよる。

「パオロ司祭ですね。聖カテリーナ修道院の修道院長、マリア・ロレイナです」

 修道院長がそう告げる。

「とある伯爵家のお手を借りて、あなたの周辺を調べさせていただきましたわ。まあ、不正行為が次々と」

「修道院長」

 マルガリータは修道院長の顔を見つめた。

 とある伯爵家とは、モリナーリ家のことだろうか。

 カルロが話していたことは、本当なのか。

「教会裁判所に証拠の資料を提出済みです。じきに迎えが来るでしょう。あきらめて裁定を待ちなさい」

 パオロ司祭が顔をしかめる。

「修道院長、なぜここに」

「あなたが勝手に出かけたようだとカルロから聞いて」

 変だわ。ベッドに毛布を丸めて入れて、寝ているふりの工作をしてきたのに、なんでこんなに早くバレたのかしら。

 マルガリータは眉をひそめた。

「彼に来させるとまた雑な方法を取りかねないから、わたくしが」

 修道院長が言う。

「さ、これで分かったでしょう、ソレッラ・マルガリータ。せっかくわたくしが安全な場所に行くよう計らったのに」

 修道院長がマルガリータの手を取る。

「カルロが教会の屋根まで来てます。一緒に帰りなさい」

 教会前じゃなくて、教会の屋根なのね……。マルガリータはどうでもいいところに突っ込んでしまった。

「ごきげんよう、パオロ司祭」

 修道院長が振り向き、そう挨拶する。

「誰か!」

 パオロ司祭は突然さけんだ。

「誰か来てくれ! 怪物(モストロ)と契約をした悪魔の修道女が二人も!」

 居住棟に通じる扉を開け、パオロ司祭が声を上げる。

「なにを……パオロ司祭!」

 マルガリータは戸惑った。

「そりゃ、否定はできませんけどねえ……」

 修道院長がポソッと呟く。

 居住棟から教職の者たちが駆けつける。続けて修道院に現れた異端審問所の役人が駆けつけ、二人を取り囲んだ。

「あらあら……先日の」

 修道院長が懐に手をやるが、すぐに出す。

「礼拝堂の中で発砲は危ないわね……」

 ステンドグラスを見上げる。

「神に仕える者が、神の家に穴を開ける訳にはいかないわ」

「修道院長、逃げてください! 外にカルロがいるんでしょう?」

 マルガリータは修道院長の前に立ちふさがって(かば)った。

「あなたを連れに来たのよ? 置いて帰るわけにはいかないわ」

「でも!」

 マルガリータは修道院長の手を取り、出入口に向けて駆け出した。

 だが役人たちに立ちふさがれる。

「わたしはともかく、修道院の長の方にそんなことをしていいと思っているんですか!」

 マルガリータは叫んだ。

「パオロ司祭! 立派な方だと思っていたのに!」

 教職の者たちが当惑した顔をする。彼らは役人たちとは違って事情を知らないのだとマルガリータは察した。

「このパオロ司祭は数々の不正行為を働いて、いま教会裁判所に証拠を精査されているところで……」

「二人を捕まえなさい!」

 パオロ司祭が声を上げる。

 役人たちが棒を突きだしマルガリータと修道院長を取り囲む。そのまま手を縛り拘束した。





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