Congiura della Cappella. 礼拝堂の陰謀 i
聖十字架教会。礼拝堂の天井まで高く伸びるステンドグラスを、マルガリータは見上げた。
心臓の音が速い。
パオロ司祭の無実を確かめに来たが、失礼な質問を口走ったりはしないよう、自身を落ち着かせる。
カルロたちのことは、以前よりは信じているし好意的に見ている。
だがパオロ司祭は、貧しい人々を助けている信頼もある方だ。
カルロたちの調べたことが間違っている可能性もあると思う。
「ソレッラ・マルガリータ」
聖堂の横。
教職の居住棟につながる扉を開け、パオロ司祭が礼拝堂に入る。
「お時間をいただきありがとうございます、司祭」
背筋をピンと伸ばし、マルガリータは挨拶をした。
「いやいや……」
パオロ司祭がゆっくりと近づく。
「今は聖カテリーナ修道院にはいらっしゃらないとお聞きしましたが、どちらに」
「えと」
なぜ知っているのかしらとマルガリータは思った。
実家の破産や嫁入りで修道院を出る修道女など、ちょくちょくいる。
いちいち伝わるものなのか。
「いまは……知人のところに」
「ほう。知人」
パオロ司祭がそう返す。
「そうそう。今度サンタ・クローチェ地区の路上生活者の方々の診察に行くのですが、いつも手伝ってくれる者が都合が悪くて」
パオロ司祭がこちらを見る。
「手伝ってくれませんか、ソレッラ・マルガリータ」
「え……」
マルガリータは目を丸くした。
やはり善い方じゃない。
カルロは誤解している。人々のためにこうして尽くしている方なのだ。
司祭の慈善行為のお手伝いができるなんて。
「喜んで」
マルガリータは笑顔で応じた。
「では、今いらっしゃる場所を教えていただけますか。ご連絡を差し上げますので」
「えと。サン・ガッロ門の近くの……」
「言ってはだめです! ソレッラ・マルガリータ!」
礼拝堂の入口の扉が開く。
入って来たのは修道院長だった。靴音を立ててこちらに歩みよる。
「パオロ司祭ですね。聖カテリーナ修道院の修道院長、マリア・ロレイナです」
修道院長がそう告げる。
「とある伯爵家のお手を借りて、あなたの周辺を調べさせていただきましたわ。まあ、不正行為が次々と」
「修道院長」
マルガリータは修道院長の顔を見つめた。
とある伯爵家とは、モリナーリ家のことだろうか。
カルロが話していたことは、本当なのか。
「教会裁判所に証拠の資料を提出済みです。じきに迎えが来るでしょう。あきらめて裁定を待ちなさい」
パオロ司祭が顔をしかめる。
「修道院長、なぜここに」
「あなたが勝手に出かけたようだとカルロから聞いて」
変だわ。ベッドに毛布を丸めて入れて、寝ているふりの工作をしてきたのに、なんでこんなに早くバレたのかしら。
マルガリータは眉をひそめた。
「彼に来させるとまた雑な方法を取りかねないから、わたくしが」
修道院長が言う。
「さ、これで分かったでしょう、ソレッラ・マルガリータ。せっかくわたくしが安全な場所に行くよう計らったのに」
修道院長がマルガリータの手を取る。
「カルロが教会の屋根まで来てます。一緒に帰りなさい」
教会前じゃなくて、教会の屋根なのね……。マルガリータはどうでもいいところに突っ込んでしまった。
「ごきげんよう、パオロ司祭」
修道院長が振り向き、そう挨拶する。
「誰か!」
パオロ司祭は突然さけんだ。
「誰か来てくれ! 怪物と契約をした悪魔の修道女が二人も!」
居住棟に通じる扉を開け、パオロ司祭が声を上げる。
「なにを……パオロ司祭!」
マルガリータは戸惑った。
「そりゃ、否定はできませんけどねえ……」
修道院長がポソッと呟く。
居住棟から教職の者たちが駆けつける。続けて修道院に現れた異端審問所の役人が駆けつけ、二人を取り囲んだ。
「あらあら……先日の」
修道院長が懐に手をやるが、すぐに出す。
「礼拝堂の中で発砲は危ないわね……」
ステンドグラスを見上げる。
「神に仕える者が、神の家に穴を開ける訳にはいかないわ」
「修道院長、逃げてください! 外にカルロがいるんでしょう?」
マルガリータは修道院長の前に立ちふさがって庇った。
「あなたを連れに来たのよ? 置いて帰るわけにはいかないわ」
「でも!」
マルガリータは修道院長の手を取り、出入口に向けて駆け出した。
だが役人たちに立ちふさがれる。
「わたしはともかく、修道院の長の方にそんなことをしていいと思っているんですか!」
マルガリータは叫んだ。
「パオロ司祭! 立派な方だと思っていたのに!」
教職の者たちが当惑した顔をする。彼らは役人たちとは違って事情を知らないのだとマルガリータは察した。
「このパオロ司祭は数々の不正行為を働いて、いま教会裁判所に証拠を精査されているところで……」
「二人を捕まえなさい!」
パオロ司祭が声を上げる。
役人たちが棒を突きだしマルガリータと修道院長を取り囲む。そのまま手を縛り拘束した。




