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怪物のお茶会においで  作者: 路明(ロア)
Festa di tè 6 モリナーリ家の令嬢

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23/54

Figlia della famiglia Molinari. モリナーリ家の令嬢 ii

 修道院長室の扉が開く。

 四人の修道女が入室した。

 一人はポットを持ち、残りの三人はカップと皿を一人分ずつ手にしている。

「チェルトーザ子爵閣下の、お、お口に合うか分からないですが」

「ありがとう」

 カルロがそう告げると、入室した修道女たちは花が咲いたような笑顔になった。

 マルガリータと修道院長が渋い表情でカルロを睨む。

 修道女たちが一礼して去った後、修道院長は扉の方を眺め溜め息を吐いた。

「一人で充分でしょうに。誰が運ぶかは何で決めたのかしら。(くじ)かしら」

 言いながらポットを手にし、紅茶を注ぐ。

 修道院長の注ぐ手つきが、マルガリータには何となくカルロの手つきに似ている気がした。

 カルロの方を見やると、やはり修道院長の手のあたりをじっと見詰めている。

 五十年間、去って行った令嬢を想いながら、彼女のしていたようなお茶会を続けていたのかしらとマルガリータは想像した。

「あの」

 マルガリータは切り出した。

「チェルトーザ子爵って。カルロがモリナーリ家ご当主の長男か弟君ということになってしまうのでは。なりすまして大丈夫ですか?」

 修道院長が三人分を注ぎポットを置く。

「大丈夫でしょう。いま家を継いでいるのはわたしの甥だけど、弟のチェルトーザ子爵は大陸中を放浪しているとのことだから」

「成程。その弟君がふらっと帰っていたという(てい)で通せばいいんだ」

 カルロがしれっと言い紅茶を口にする。

 こういうこと慣れてそう……とマルガリータは眉を寄せた。

「ちなみにその弟君のお名前は」

「ヴィターレだったかしら。ヴィターレ・モリナーリ」

「いざとなったら、お名前も拝借させてもらおうかな」

 カルロが平然と言う。

「それは調子に乗りすぎじゃ……」

 マルガリータは困惑した。

「ともかくあなたが乱暴なことをするから、あちらが一気に動き出した感じね」

 修道院長がそう話を切り出した。

 カルロが肩を竦める。

「不正の調査なんて専門でやってる訳じゃないからね。定番のやり方なんて知らないし」

 何をしたのとマルガリータはカルロに目で問うた。

「この前ガリーに見せた積み荷の数と実際の数を調べた書き付け。あれをパオロ司祭に匿名で送り付けた」

 カルロがもう一度、肩を竦める。

「その途端にこの騒ぎ」

「五十年ぶりに会いに来たと思ったら、騒ぎがあるかもしれないからよろしくと言われて」

 修道院長が眉を寄せる。

 カルロがくすくすと笑った。

「この際、手を貸してもらおうと思って」

 マルガリータと目が合うと、カルロは微笑んだ。

「正確に言うと、書き付けは郵便を使ったんじゃなくて、(はやぶさ)の姿で教会の窓から投げ込んだんだけど」

 そこの説明、必要なのかしらとマルガリータは思った。

「ソレッラ・マルガリータの兄上方は大丈夫? パオロ司祭は兄上方の誰かが投げ込んだと思うんじゃないの?」

「ミケーレ氏たちか」

 カルロが呟く。

「確実なことは言えないけど、ガリーの兄上方は積み荷を運んでもらうのに必要な人たちだからね。少なくとも拘束されることは無いんじゃ」

 カルロが紅茶を口にする。

「人質にするなら一番使い道のないガリーが……」

 「いや……」とカルロは口籠った。

「一番人質として使えるガリーを」

 カルロの台詞に引っ掛かりを覚え、マルガリータは目を眇めた。

 言いたいことは分かるけど、カルロって案外うっかりと失礼な本音を漏らすときがあるわよねと思う。

「ソレッラ・マルガリータ、当分彼らの所にいなさい。女ばかりのここより安全だわ」

 修道院長がそう告げる。

「え」

 マルガリータは声を上げた。

「彼らって」

「先ほど役人が来た折、裏口からこっそり出てそちらに向かってもらうつもりだったのだけれど」

 修道院長はカルロの方を見た。

「よろしくお願いするわね。カルロ」

 そう言い上品な仕草で紅茶を口にする。

「い、いえ。彼らはいえあの、べべ別の危険がありませんか」

「大丈夫です。ファウストは発情期以外は、寝ることしか興味ありません」

 修道院長が淡々と答える。

「いえっ、じゃ、カルロ」

 マルガリータはカルロの方を向いた。確か発情期が人間の男性と同じとか何とかレオナルドが。

「彼は、合意が無い限りは何もできない人です」

 カルロが苦笑する。

 五十年前に一体なにがあったの。

 修道院長への服従は修道院の決まりでもある。マルガリータは戸惑いながらも受け入れざるを得なかった。





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