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怪物のお茶会においで  作者: 路明(ロア)
Festa di tè 6 モリナーリ家の令嬢

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22/54

Figlia della famiglia Molinari. モリナーリ家の令嬢 i

 修道院長が自室の扉を開ける。

 カルロが勝手知ったるような雰囲気で平然と入って行ったのを、マルガリータは眉を寄せ睨んだ。

 修道院長に促されマルガリータも入室する。

 中庭に面した窓から、満開の野薔薇が見える広い部屋だ。

 中央に応接用のテーブルとソファ、壁際に事務机と書棚。

 奥にある扉は、修道院長の私室に通じている。

 この修道院に入る際にも何度かここに通された。修道女になる決意が本物か、修道院長とたびたび面談をし尋ねられた。

 カルロが至極当然のような顔でソファに座る。

「お座りなさい。ソレッラ・マルガリータ」

 修道院長が促した。

「あの、わたし異端審問所に疑われるような心当たりは」

「そんなことは言っていません」

 修道院長がそう答えて座る。

「さっそく来たね、マリア・ロレイナ。異端審問所」

 カルロがゆっくりと脚を組んだ。

「あなたが乱暴な方法を取るから」

 修道院長が眉を寄せる。

「銃を二つ用意していたのは驚いた。相変わらずお転婆だな」

「軍隊に入った次兄に手解きを受けましたもの。連続で撃つ時には、弾を込めた銃を後ろに用意しておく。戦のコツですわ」

 修道院長が品良く笑う。

「……あの」

 マルガリータは口を挟んだ。

「お二人とも……お知り合いなんですか? いつから」

「五十年前からです」

 修道院長は淡々と答えた。

「五十年前……」

 扉をノックする音がする。

「修道院長」

 扉の向こうから、先輩修道女の声が聞こえた。

 「何です」と修道院長が返事をする。

「チェ、チェルトーザ子爵にお紅茶を」

 修道院長はカルロの顔を見た。ただ紅茶を運んで来ただけにしては、扉の向こうからは何人もの衣擦れの音がする。

「ありがとう。いただきます」

 扉の向こうに向けてカルロが言う。

 修道女たちの間から「きゃあ」と浮かれた声が上がった。

 何なのかしら皆さまとマルガリータは顔を(しか)めた。

 敬虔であらねばならない修道女が、そろってこんな偽貴公子に浮かれるなんて。

 いえ。

 皆さまが悪い訳ではない。

 この怪物(モストロ)(たぶら)かしの術かなにかが秀逸なだけなんだわ。

 マルガリータは横に座るカルロを睨んだ。

「相変わらず女性を(たぶら)かす腕は見事ね、カルロ」

 修道院長が全く同じことを言う。

 五十年前からこうなのねとマルガリータはもう一度睨んだ。

(たぶら)かしてるつもりはないんだけどね。どの女の人も可愛いなあと思って笑いかけると、向こうも好意を持ってくれるだけで」

 カルロが答える。

 ただそれだけで、修道女のベッドの上のブランケットまで知ることになるのはどういうことなの。マルガリータは頭の中で突っ込んだ。

「でもたいていの女の人は、始めは僕に興味を持ってくれても、結局はファウスト兄さんの方に行っちゃうんだよね」

 カルロがクスクスと笑う。

「残念」

「あなたは何だかんだ言って、ファウストが一番だからでしょ。女の人はみんなそれに気づくのよ」

 修道院長がそう答える。


「マリア・ロレイナ、君もだったよね」


 カルロが微笑する。

 マルガリータは目を丸くした。どういうこと。

「あの、話がよく」

 修道院長とカルロ、つい二人を交互に見る。

 カルロがすっと手を差し出し、修道院長を指した。

「五十年前の一時期、僕らと暮らして、その後あの屋敷を譲って去って行ったモリナーリ家のご令嬢。フルネームは、マリア・ロレイナ・モリナーリ」

「え」

 マルガリータは声を上げた。

「政略結婚から逃げてここに入ったので、姓はモリナーリのままね」

 修道院長がクスクスと笑う。

「酷いよね。僕らに食われたことにしちゃうんだから」

 カルロは苦笑した。

「あなたたちも協力してくれたじゃない。特にファウストなんか、大はりきりで」

「兄さんは面白い遊びってつもりでやってただけだよ。後先は考えてない。いつもだけど」

 カルロが肩を竦める。

 なんだかんだ楽しそうに話す二人を見詰めながら、マルガリータは目を見開いたまま固まっていた。





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