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怪物のお茶会においで  作者: 路明(ロア)
Festa di tè 6 モリナーリ家の令嬢

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20/54

La Santa Inquisizione. 異端審問所 ii

「ソレッラ・マルガリータ!」

 修道女たちに追われながら、マルガリータは玄関ホール手前の回廊まで来た。

「ソレッラ・マルガリータ、修道院長がああ仰っているのですから、なにかあるんですわ。指示に従って!」

 いつもは淑やかに歩く良家出身の修道女たちが、口々に「お待ちになって」と叫び慌ただしく追って来る。 

「大丈夫です! 異端審問所の方が何故いらしたのか知っています! わたしも確かめたいことがあるんです!」

 玄関ホールに出ると、扉に嵌められたステンドグラスに何人かの男性らしき姿が透けて見える。

「修道院長!」

「お帰りください」

 扉を開けた途端、落ち着いた年配女性の声が響く。

 修道院長マリア・ロレイナの前に立つ数人の役人にマルガリータは目を止めた。

「あの! 異端審問所の方々ですか! わたくし確認したいことが!」

「マルガリータ・ディ・ジョヴァンニだな」

 役人の一人が声を上げる。

「まあ。よく一目で分かりましたこと」

 修道院長が笑う。

「同じくらいの年頃の女性が何人もいる女子修道院で。ケープで髪の色も分からないのに」

 マルガリータはつい頭にかぶったケープに手をやった。

「訴えた方は、ソレッラ・マルガリータの細かい特徴まで言えるような方ね」

 チッと役人たちが舌打ちする。

「早く連れて来いと言われているし」

 そう言い、役人たちは顔を見合せた。

「どうせ女ばかりの所だ」

 大柄な役人がそう言い、マルガリータに手を伸ばす。

「きゃっ!」

 とっさにマルガリータは後退る。

 轟音がした。

 あまり聞いたことのない重々しい音に、マルガリータは思わず肩を竦める。

 辺りに真っ白い煙が漂った。

 強く香る火薬の匂い。

 マルガリータの腕を掴もうとしていた役人が、手を引き両手を上げた。

 音源を探して辺りを見ると、修道院長が薔薇の模様の入ったフリントロック銃を空に向けている。

 チャッと音をさせ、役人たちに銃口を向けた。

「しゅ、修道院長……」

 今のは銃の音、撃ったのは修道院長。

 ようやくそう認識し、マルガリータは思わず「かっ、格好いい」と感激してしまった。

「二発目の連射は出来ない。ハッタリだ」

 役人の一人が修道院長の銃に手を伸ばす。

 修道院長は、もう片方の手に持った銃を顔の横に掲げた。

「いま撃ったのはこちらの銃よ。連射が出来ないくらい知っています」

 ほおぉとマルガリータは溜め息を吐いてしまった。感心している場合ではないが、惚れ惚れとしてしまう。

 修道院に入る前のお話はほとんど聞いたことがないが、もしかして名の知れた女騎士でいらしたとか。

 大きな影が上空を横切る。

 ダークブラウンの翼を大きく広げた、一羽の(はやぶさ)だ。

 頭上を旋回したかと思うと、凄まじい速さで降下し、刃物のような爪で役人たちに次々と深い傷を負わせた。

「カル……?」

 カルロと呼びかけようとして、マルガリータは口を(つぐ)んだ。

 役人たちは片手で傷口を押さえ捕まえようとしたが、隼は(かわ)して上空に舞い上がる。

 役人たちは空を睨んだ。

 玄関扉の方から「まっ」「(たか)ですの?」と女性の話し声がする。

 修道女たちが扉の隙間からこちらの様子を伺っていた。

「これでは本当に魔術でも使ったのかと言われてしまいますわねえ」

 上空で羽ばたいている隼を見上げ、修道院長が軽く溜め息を吐く。

 隼はしばらく旋回しながらこちらを見ていたが、やがて大きく羽ばたくと修道院の門の向こう側にある糸杉の林の方に飛び去った。

 役人たちは何が起こったのかという風に動揺していたが、とにもかくにも体勢を立て直し再びマルガリータの方に手を伸ばす。

 マルガリータは後退り逃れた。

 修道院長のように勇ましく戦うべきだろうか。わたしにも使える武器はと周囲を横目で伺う。

 玄関口にいる修道女たちが、「まあ」「きゃ……」と声を上げる。

 悲鳴ではない。嬉しそうな声に近い。

 一斉に正門の辺りを見詰めた修道女たちの目線を追い、マルガリータは同じ方向を見た。

 正門の方から、身形(みなり)の良い青年がこちらに歩み寄る。

 カルロだった。





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