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怪物のお茶会においで  作者: 路明(ロア)
Festa di tè 6 モリナーリ家の令嬢

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19/54

La Santa Inquisizione. 異端審問所 i

 カルロの話には動揺したが、商売のことなど一切教わっていないマルガリータにできるのは、せいぜい兄たちに注意を促すことくらいだ。

 長兄がもう知っている内容なら、わざわざ(しら)せるまでもないだろう。

 女子修道院の私室。

 マルガリータはベッドに座り、床を見詰めた。

 (ひざ)の上で開いた本は、先程からパラパラとページをめくっているだけで、全く頭に入って来ない。

 子供の頃から尊敬していたパオロ司祭が不正をしているなんて、信じられなかった。

 もしかして手の込んだ嘘で揶揄(からか)っているだけなのかもしれない。

 守ってあげると提案されたが、断って女子修道院に帰って来た。

 それから二週間。

 怪物(モストロ)たちのちょっかいは、ここのところぱったりと無い。

 麗しい貴公子に恭しく礼をされ「守って差し上げる」と言われるのに憧れたことはあるが、生まれて初めてそれを言われたのが、敬虔なる修道女をオモチャにする怪物とは。

 確かに見た目だけは麗しいけど。そう考えたところで、はたとマルガリータは考えを止めた。

 修道女が。

 神にこの身を捧げ、仕えると誓った修道女が男性の容姿について考えるなんて。

 胸元のロザリオを握り締める。

 動揺して信仰の道を見失っているのかもしれない。

 パオロ司祭が不正なんて、絶対に嘘。

 父の代からお世話になっていた司祭で、医学の知識を活かして貧しい人々を助けている高潔な人物で。

 信じられない。

 サァァと窓の外から音がする。

 朝から曇りがちな空だったが、雨が降ってきたようだ。

 修道院の裏庭から、何人かの修道女の慌てる声が聞こえる。

 洗濯物を干していたのだろうかとマルガリータは思った。

 ドンドンドンと激しく扉を叩く音がする。

「ソレッラ・マルガリータ!」

 先輩の修道女の声だった。いつもは淑やかにノックをする方なのに珍しい。

「ソレッラ・マルガリータ! 早くお出になって!」

 他の修道女たちの声も聞こえる。

「寝ていらっしゃるのかしら」

 おろおろと話す声が聞こえる。

 マルガリータは立ち上がり、扉へと駆け寄った。

「何ですの?」

 そう尋ねながら扉を開ける。

 数人の修道女が、非常に焦った表情でそこにいた。

 確か今日は、食事当番でも洗濯当番でもないはず。それとも何か家事の手落ちでもあったのか。

「ソレッラ・マルガリータ! ああよかった!」

「いまから逃亡の手引きをいたしますわ。ついていらして」

 修道女たちが服の(すそ)をからげて踵を返す。

 マルガリータは目を丸くした。なんのこと。

 訳も分からないうちに、修道女の一人がマルガリータの部屋に入り、聖書とロザリオと手近にあったショールを手に取る。

「ともかく必要なものだけをお持ちになって。皆に紛れて裏口から出ますわ」

「あの……なんですの?」

 修道女たちに背中を押され、マルガリータはつんのめるようになりながら尋ねた。

「異端審問所の役人方がいらしてますの」

 修道女の一人が答える。

 ドキリとマルガリータの心臓が跳ねた。

 パオロ司祭が手を回すかもしれないとカルロが言っていたが、まさか。

「ソレッラ・マルガリータに、神に背く交流の疑いありと言っていらして」

「そんなものありません。お話しして来ます」

 マルガリータは迷いなく玄関の方へと向かった。

 異端審問所は、きちんと調べをする所だと聞いている。ろくな裁判もなく火炙(ひあぶ)りにするような、野蛮な国の役所とは違う。

「待って。お待ちになって。ソレッラ・マルガリータ」

 修道女の一人がマルガリータの背後に駆け寄り止める。

「いま修道院長が対応してますの。その間に逃がしてくださいと。修道院長のご指示ですわ」

「なぜ修道院長がそんなことを」

 マルガリータは、困惑して玄関口に通じる廊下の先を見た。

 自身の信仰に、疑われるところなどあるはずがない。

 仮にあったとしても、そんな背信者を修道院長が(かば)う理由はどこにも無いはず。

「ともかく、お話をすれば分かるはずですわ」

 マルガリータは、修道服をたくし上げて駆け出した。玄関口へと向かう。

 慌てて引き留める修道女たちに向けて声を上げる。

「大丈夫です皆さま! わたくし、お話して来ます!」





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