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怪物のお茶会においで  作者: 路明(ロア)
Festa di tè 5 ケーキは甘いけれど

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Anche se lo torta è dolce. ケーキは甘いけれど  i

「……話」

 また何か揶揄(からか)うつもりだろうか。マルガリータは何気にファウストの方に目線を移した。

 話とやらの内容を知っているのか定かではないが、我関せずという感じでミルクティーを飲んでいる。

「言いたいことがあるなら今聞くわ。どうぞ話して」

「じゃ、僕の部屋に」

 カルロがカップが置いて立ち上がる。姿勢の良い歩き姿で出入口の扉に向かった。

 僕の部屋。

 そう頭の中で復唱して、マルガリータは一気に顔が熱くなった。

「何考えてんだ。いくらカルロでもペタッ、スルスルーなお子様に何かする訳ないだろ。普通に話だ」

 ファウストが呆れた顔をする。

「べ、別にそういうことを考えた訳じゃ」

 マルガリータは懸命に自身を落ち着かせた。

「僕は兄さんと違って発情期は無いから大丈夫だよ」

 カルロがにっこりと笑い廊下に促す。

 マルガリータはホッとした。カルロに従い部屋まで付いて行こうとする。

「発情期が無いってさ、人間の男の人と同じってことなんだよね。一年中いつでも発情期っていうか」

 ケーキをはむはむと咀嚼(そしゃく)しながらレオナルドが口を挟む。

 マルガリータは無言でカルロの顔を見上げた。ゆっくりと後退る。

「残念」

 カルロがおかしそうに含み笑いをした。




 カルロの部屋はファウストの部屋と同じ二階にあるものの、あまり陽の当たらない部屋だった。

 奥のカーテンの向こうにベッドがあるのが目に入る。私室なので当然だが、ふしだらな気がしてマルガリータは戸惑った。

 燦々(さんさん)と陽の当たるファウストの部屋と比べると薄暗い。

 書斎の感じに似ているとマルガリータは思った。あえて直射日光を避けている感じだ。

 本が置いてあるのだろうかと思い見回す。

 小部屋の方に本棚があるのが見えたが、書斎というほどではないようだ。

「本?」

 マルガリータの視線を追いカルロがそう尋ねる。

「読みたいのがあったら持って行っていいよ」

 部屋の一角には小振りのテーブルと長椅子。長椅子に座るようカルロが勧める。

 マルガリータは困惑して長椅子を見つめた。

「別にガリーみたいな子供に何も……」

 いや、と言ってカルロは咳払いをした。

「……淑女におかしなことはしないので」

 どうと返したものかしらとマルガリータは眉を寄せた。

 平静を装い長椅子に座る。

「本なんて読むの?」

 カルロに尋ねる。

「屋敷の前の持ち主のものだよ。後で許可取ってあげるから持ち帰っていいよ」

 言いながら、カルロは暖炉の上から書き付けのようなものを取った。

「前の持ち主って?」

「聞いたことない? モリナーリ家のご令嬢」

 マルガリータは目を見開いた。

 ここがモリナーリ家先代当主が娘のために建てた屋敷だというのは聞いている。

「モリナーリ家のご令嬢に……許可を取るということ?」

「たぶん持って行って悪いとは言わないんじゃないかな。いまだに取りに来てないし」

 マルガリータはカルロを見つめた。

「モリナーリ家のご令嬢って……生きてるの?」

「元気だよ」

 カルロが答える。

「あなたたちに食べられたとかじゃ……」

「何故かそういうことになってるみたいだけどね」

 カルロがおかしそうにクスクスと笑う。

「どうしてこんな人の多い街に住んでるの? 人のいない荒野とか森の中とかの方が、おかしな騒ぎにもならなくて楽じゃないの?」

「退屈でしょ、そういう所は」

 書き付けを確認するように見ながら、カルロが(ひじ)かけ椅子に座る。

「ファウストも同じ考え?」

「もともと一心同体だからね」

 カルロの答えに、マルガリータは軽く眉を寄せた。

「二人で一セットなんだ」

 三位一体のようなもだろうか。よく分からない。

「兄さんが “肉体” で、僕が “精神” なのかな。僕が姿を変えても服が破れないのは、そういうことかと思ってるけど」

 まあ謎だけどね、と続けカルロは肩を竦める。

「兄弟ってそういうこと?」

「人間の兄弟もそういう感じじゃないの?」

 だいぶ違うんだけどとマルガリータは頭の中で返答した。

怪物(モストロ)ってそういうものなの?」

「さあ。レオナルドは違うし、他はあまり会ったことないし」

 肘をつきカルロが答える。

「それよりこれ」

 カルロが書き付けを差し出す。

 いくつかの品目と、アラビア数字が並んでいる。

 マルガリータは受け取った。

「君の家が積み荷として運んだと記録している薬の数と、実際の積み荷を開けて数えたもの」

 突然なんの話。マルガリータは数字を見た。比較するように数字が二つずつ並べて書いてある。

 ある一枚だけは、あまりにも違いすぎる数字が並んでいた。

「とある客のものだけは、大幅に数が違っていた」

「……うちの積み荷よね?」

 マルガリータはそう確認した。

 なぜカルロがそんな書き付けを持っているのか。

 薬の買い付けは許可された者しかできない。しかも法的に量も決められている。

 この書き付けは、つまり密輸の証拠ということなのだろうか。 

 本当に実家の積み荷だとしたら大変なことなのだが。

「なんでカルロがこんなこと」

 マルガリータはかさかさと音を立て、何度も手元の紙を入れ換えた。

 商売のことをいくらか聞いているとはいえ、兄達ほど詳しい訳ではないが。

「知り合いの魔女から、最近いくつかの薬の値段がやたらと上がってるから何か知らないかと言われて」

「……魔女」

 マルガリータは眉を(ひそ)めた。

「その……ドイツの方でよく火炙りにされてるとかいう」

「ああいう集団ヒステリーじゃなくて」

 カルロが答える。

「超古代文明の時代から生きてる薬学とか医学とかの専門家が、まあ何人かいるんだよ」

 超古代文明ってなに。マルガリータは眉を寄せた。

「うちの死体の使用人を造ったのもそういう魔女さんで」

 身を乗り出してマルガリータの持った書き付けの反対側を摘まみ、カルロは書いてあるものを確認するように見た。

「アンジェリカって魔女さんなんで、うちの使用人にも同じ名前つけてるんだけど」

 無言でマルガリータは眉を寄せた。どうリアクションしたらいい話かしら。

「……まあ、それはどうでもいいんだけど」

 カルロはそう付け加えた。





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