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怪物のお茶会においで  作者: 路明(ロア)
Festa di tè 4 天使と拐われた子羊

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Angelo e agnello rapito. 天使と拐われた子羊 i

 悪魔と闘うなら、ロザリオが必要。

 マルガリータは急ぎ自室へ戻り、怪物(モストロ)の兄弟から取り戻したロザリオを手にした。

 不意に修道服に何かが触れる。

 腰の辺りだ。目線を下に向ける。

 幼子が駆けるような靴音が聞こえた気がして、室内を見回した。

 五、六歳ほどの金髪の少年が、マルガリータの寝台に両手を付き脚をかけて登ろうとしている。

「え」

 突然のことにマルガリータは目を丸くした。

 悪戯で紛れ込んだのだろうか。服装は、どちらかといえば裕福な家の子に見える。

「えと……どこの子?」

 マルガリータは問うた。

 少年は構わず寝台に這い登り、ぱふんと音を立てて腹這いになった。

「ああ疲れたあ。(ほうき)持って追いかけられたのなんて、百年ぶり」 

「え?」 

「ね、ちょっと休んでいい?」

 少年が無邪気に尋ねる。

「え……どうぞ」

 ついそう答えてしまう。

「ええと……どなたか大人の方は」

「僕ね、ガリーって人に会いに来たの」

 質問にはまるでお構いなく、少年がそう答える。

 自分にと一瞬マルガリータは思ったが、この子に心当たりはない。

「別名、ペタ胸っていうんだって」

 マルガリータは無言で顔を歪ませた。

 高確率であの兄弟の関係者の予感がする。

「ガリーって人いる?」

 少年は腹這いのまま顔を上げ、毛布に頬杖を付いた。

 サラサラとした金髪と大きな薄青の目。無邪気で可愛らしい様は、宗教画の天使のようだ。

 だがおそらくは、あの兄弟の関係者だ。そして多分、人間ではない。

 あの二人にはもう関わらない方がいいと思う。修道女と怪物がそうそう関わって良い訳がない。

「ガリーなんて人はここにはいないわ。ちなみにわたしの名前は、マルガリータ。マルガリータ・ディ・ジョヴァンニ」

 マルガリータは一気にそう自己紹介した。

「ガリーじゃないね」

「そうよ。ガリーじゃないわ」

 次の瞬間。

「ガリー」

 甘いテノールの声が聞こえる。

 上部の明かり取りの窓から(はやぶさ)が顔を出した。

 するりと室内に入ると、床に着地して身形(みなり)の良い青年の姿に変化する。

 カルロだった。

「な……」

 マルガリータは口元を歪ませた。このタイミングで呼ぶとか嫌がらせなのか。

「あっ、カルロ!」

 少年が上体を起こし、脚を投げ出して寝台に座った。お尻を上下させ、ぱふぱふと音を立てる。

 カルロは寝台に近づくと、屈んで少年に鼻先を寄せた。

「やっぱりここに来てた」

「カルロも休んでく?」

 少年が無邪気に言う。抱っこをせがむようにカルロの首に両手を回した。

「ファウストは来てないの?」

「お昼寝の最中だよ」

 カルロが少年の背中をぽんぽんと叩く。

 見かけだけは麗しい。天使のような可憐な少年と甘い美貌の青年貴族といった感じだ。

「僕、ファウストの方が気が合うんだけどなあ」

「そうだね、君は」

「あの」

 マルガリータは口を挟んだ。

「保護者の方がいらしたなら、早々に連れ帰って欲しいんですけど」

 カルロが少年の顔を見る。

「保護者ではないよね」

「保護者ってなに?」

 少年が天真爛漫に問う。

「レオナルドの方が歳上なんだ。混乱するかもしれないけど」

 品の良い仕草で少年を指し、カルロが言う。

「レオナルド?」

 マルガリータは記憶を辿った。どこかで聞いた気がする。

「で、こいつはマル何とかなの? それともガリーなの?」

 少年がマルガリータを指差す。

「マルガリータよ」

「ガリーだよ」

 二人同時にそう答えた。

 眉を寄せ、マルガリータは改めて答える。

「マルガリータよ」

「略称がガリーね」

 カルロが被せて言う。

「僕の持ってくるケーキに文句言いたいのはこいつ?」

 レオナルドはマルガリータを指差した。

「ケーキ?」

 そういえば。

 カルロたち兄弟の屋敷に、しょっちゅう甘ったるいケーキを持ち込む人物の名がレオナルドと言っていなかったか。

「いつもケーキを持ってくるレオナルド」

 カルロがそう言い、改めて少年を指す。

「……なんでここに」

「ケーキの文句を直接言いたいらしい人がいると言ったら、じゃあ聞いて来るって」

「……なに余計なこと言ってるの」

 マルガリータは顔を歪ませた。

 カルロが耳打ちする。

「この前も言ったじゃないか。僕たちじゃ言いにくいんだ」

「なぜ言えないの。歳上だから? 怪物にも年功序列みたいなものがあるの?」

 マルガリータも声を潜めて問う。

「単にあの雰囲気」

「ねえねえ、ケーキって美味しいでしょ? 好きでしょ? 嫌いな人いる訳ないでしょ?」

 寝台に座ったレオナルドが愚図るように言う。

 可憐な天使のような様子に、さすがにマルガリータも逆らい難いものを感じた。

「え……えと、わたしはケーキは元々嫌いでは」

「ガリー……」

 カルロが額に手を当てる。君もかと言いたげだ。

「あの。後日ではだめなの?」

 マルガリータはそう切り出した。

「自室に男性がいるなんて問題なんですけど。とりあえず帰って」

 カルロはぽかんとした。室内を見回す。

「……ここガリーの部屋なの?」

「そうよ。早く帰って」

「……殺風景すぎるから空き部屋かと思った」

「僕も」

 レオナルドがお尻で寝台の上を跳ねる。

 何を言われているのかマルガリータはよく分からなかった。 

「女の人の部屋って、大抵カラフルな小物なんかがあって、お菓子とか香水とかいい匂いがしてたりするんだけど」

 カルロが改めて室内を見回す。

「ファウストだったら、色気ねえーって一刀両断にしそう」

 レオナルドが笑って同調する。

「大きなお世話よ」

 マルガリータは眉を寄せた。

「修道女の部屋は質素なものなの!」

「前に仲良くなった修道女さんは、寝台に可愛らしいピンクのブランケット掛けてたっけ」

 カルロが言う。

 仲良くなった修道女さんてなに。マルガリータは眉間に皺を寄せた。

 寝台の上のブランケットを知ってるってどんな仲よと思う。

「わたしは、あなた達と仲良くなる気はないわ」

「僕は仲がいいつもりだけど」

 カルロが笑う。

「さっさと帰って」

「しょうがないね、レオナルド」

 カルロがレオナルドの方に歩み寄る。

 寝台から降りさせ、手を引いて出入口の扉の方へと連れ出した。

「ちょっと待って。どこから帰るの?!」

 マルガリータは焦って駆け足で後を追った。

「廊下を通って玄関から」

 カルロが当然のように答える。

「窓からは帰れないの?! 空を飛んでとか」

「黒い牡山羊(おすやぎ)が空飛んでたら、街に戒厳令が出ちゃうねえ」

 カルロが声を上げて笑う。

「ここの人たち、お祈りするとこ見てただけで(ほうき)持って追いかけて来るんだもん」

 レオナルドが面白そうに笑う。

「牡山羊……?」

 マルガリータは目を見開いた。

 先ほど皆さまが言っていたサバトの牡山羊って、もしかして。

「じゃ、ガリー、邪魔したね」

 カルロがドアノブに手をかける。

「ちょっ、ちょっと待って!」

 マルガリータは引き留めようとした。

 サバトの牡山羊が自室から出るところなんて見られたら。

 いえ、レオナルドは今は天使のごとき少年の姿なので、まずいのはカルロの方。混乱する。

「待って!」

 混乱している間に、カルロは扉を開けた。





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