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怪物のお茶会においで  作者: 路明(ロア)
Festa di tè 3 隼の瞳

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Porto c'è una strega. 魔女のいる港

 潮の匂いが強くなってきた。

 いくつかの運河が通る海の近くの街をカルロは(はやぶさ)の姿で見下ろした。

 前方を海鳥の群れが飛ぶ。

 港の上空に差しかかると、大きな商船が見えた。積み荷下ろしの人夫たちが十数人ほど船のタラップを行き来している。

 翼を大きく広げ旋回すると、カルロは人の姿に変化し港に降り立った。

 上着の(えり)を両手で軽く整え、桟橋から商船を眺める。

 少々場違いな身形(みなり)の良い青年を、人夫たちがチラリと見た。違和感を覚えたらしいが、構わず作業を続ける。

 不意に桟橋の係留柱からジャンプした何物かがカルロの肩に飛び乗る。

 「うっ」と声を上げてよろめいたものの、乗って来たものが白い猫だと分かりカルロは微笑した。

「アンジェリカ」

 そう呼びかけると、猫はすっと船の方に顔を向ける。

 屋敷にいる死体の使用人を作った魔女だ。この猫は身体の細胞配列を変え変化(へんげ)した姿だが、決まって白い動物に変化するので分かりやすいのは幸いだ。

 薬の異常な値上がりが続くと相談してきたのは彼女だった。

 長い付き合いなので知らんふりする訳にもいかず調査に協力していたのだが。

「あの船に間違いない?」

 猫がこくこくと首を上下に振る。船の名盤と特徴を遠目で確認し、カルロは前髪を掻き上げた。

「最近知り合った子の実家の船なんだよね……」

 「だから?」という風に猫が目を細める。基本、自分以外の人間の利害はどうでもいいという性格だ。

「彼女の家まで罪に問われることは無いようにしてあげたいんだけど。脅されて協力させられる流れみたいだし」

 関係ないという風に猫が尻尾を左右に振る。

 カルロは積み荷を手に行き来する人夫たちを眺めた。

 まずは、と呟いて腕を組む。

「必要なのは積み荷の記録だね。あとは規定以上の薬を、何に偽装しているのか。積み荷を一つ一つ開いて記録と照らし合わせてからかな」

 カルロは尻尾を揺らす猫を見た。

「アンジェリカがいてくれてちょうど良かった。死体の使役人たちは連れて来てる?」

 にっこりと笑うと、猫はおもむろに肩の上で立ち上がった。元からそのつもりだったのか、軽く脚を踏ん張り甲高い鳴き声を上げる。

 船の付近の海水が渦を巻き、ザバッと大きな音がした。

 海中から次々と筋肉隆々の男達が現れる。

 目は虚ろで黒目が無く、動きもどこかぎこちない。猫がもう一度鳴き声を上げると、素早い動きで波止場に這い上がり、件の商船に近づいた。

 アンジェリカが使役する死体の下僕たちだ。海水を滴らせ、運ばれている最中の積み荷に飛びつくと、力尽くで奪おうとする。

 「ひぃっ」と声を上げ、人夫たちが身体を強張らせた。叫び声を上げ、銘々に船内か離れた場所に走って逃げる。

「積み荷の記録は船の中かな。アンジェリカいける?」

 カルロがそう言うと、猫はもう一度甲高い声を上げた。

 死体の男が二、三人ほど船のタラップを駆け上がる。

 船内から叫び声が聞こえた。

 酷いパニック状態のようだ。「ジーザス!」「マミー!」と絶叫する声がいくつも響く。

「ごめんね、船員さん達。アンジェリカ、危害は加えないであげて」

 カルロは何となく胸元で十字を切った。猫が肩を竦める。

 商船の甲板を逃げ惑う船員と人夫たちが見える。絶叫する彼らに構わず目的の場所に黙々と向かう死体の男たちの様子がシュールだ。

「僕は本業の密偵って訳じゃないし、人間社会の事件解決なんかしたことないからね。この後も少々粗いことするけどいい?」

 猫が肩の上でこくこくと頷く。

「やりようによっては、ガリーに(とばっち)りが行くかもしれないけど、まあ、あの性格なら大丈夫でしょ」

 カルロはそう独り言を言い苦笑した。

「最低限は、僕が守るよ」





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