♭1 『わたしと友達と教室で』
今日はとても暑かった。先日この天川私立百武高校に転入を済ませ
この3年D組に在籍したわたしは、前の学校の授業が少し進んでいたので
こうして、皆が必死にノートをとっている中
少しだけ、余裕を持って暑さに身を任せられる。
本当に暑い……。
先生が黒板にチョークで書く音と
皆がノートにカリカリとシャーペンで書く音が
わたしの脳内でハーモニーを奏でる。
あれ、あはは。 なんか詩人っぽいなぁ~。
心の中で笑うものの、わたしは表情を崩せなかった。
やっぱり、わたしはまだ自分が立ち直れていないことを知る。
改めて思い知らされる。
そんな自らの過ちを延々と責めていると、一通の手紙が回ってきた。
「…?」
「(読んでみて!)」
隣の席で転入早々わたしに声をかけてくれた
ここの初めてのお友達である一縷駕亜美さんが
小声でその手紙を指す。
言われた通りに中を開けると、
そこには、女の子らしい可愛い字で
『合コン行かない?』
「……………。」
心中でせっかく可愛い文字なのに、内容が濃いよぉ…。
と、思った。
「(で? お返事は?)」
「(え、あの、う~ん……。)」
わたしはとても複雑だった。
ここに来る時に車の中で誓いを立てたことを思い出しているからだった。
―もう、恋はしない―
確かに誓った。
なので、恋がしたい人たちが集まる場所にわたしがいることが
周りにとって迷惑と思った。
「(わ、わたし。 その、合コン初めてだし…。 あの………)」
「(人数合わせに来てほしいの。 ダメかな?)」
本当に困っている亜美さんを見て、わたしは……。
「(う、うん。 でも、わたし今は彼氏は……)」
「(OK。 ありがと、音姫!)」
途端に笑顔になる亜美さんを見て、自分の事のように嬉しくなる。
「(明日だからね)」
「(え、え? あ、明日!?)」
「(そうよ。 あ~、よかった。 ちゃんと人数揃って)」
なんで、そんなにギリギリなんだろう…。
苦笑しながらも、とりあえず放課後話す。
ということで、会話をきる。
合コン……か。
人数合わせならいっても大丈夫……。 だよね?
わたしは友達の誘いを断れないのを、心の中で正当化して
誤魔化す。 今のわたしは素直になんかなれない……。
素直になんか………………。
そして、放課後。
「う、う~ん…。 あ~……」
長いHRが終わった後、体をのばしながらわたしの方向を見る亜美さん。
「ふぅ~…。 やっぱ、あの担任の話長いわ……。
なんというか、こう、かったるい……」
「あははは……」
苦笑でスルーするも、わたしも同感。
ちょっと、長いの域を超えていて、しかも退屈なので
亜美さんの気持ちはスゴクわかる。
「で、合コンの話なんだけど…。
もう一人はここから汽車で2ついったところの高校あるでしょ?」
「え、えっと……。 同じ私立校だよね?」
「そ、天川私立水実高校の私たちと同じ3年生の子なんだ」
もしかしたら、わたしが行っていたかもしれない高校の名前を聞いて
少しだけあせってしまう。
「それで、時刻と日時はさっきのHRの時間に書いておいたので
読んでおいてね」
手渡された紙をカバンにしまう。
カバンにしまったのを確認してか、亜美さんが一冊の本を差し出してくる。
「音姫は合コン初めてでしょ? これ、貸してあげる」
本のタイトルは『合コンでモテる必勝法厳選ベスト10girlsver.』
と書かれていた。
なんて、ピンポイントなんだろう……。
「それで明日ゲットよ!」
「あ、亜美さん。 わたし、彼氏とかは~……」
「わかってるって。 でも、読んでおいたほうがいいよ。」
笑顔で走りだす亜美さんをぎこちなく送ると
教室でぽつんと一人になる。
亜美さんはテニス部で今年に賭けているといっていた。
最後だもんね。
わたしは、校庭を見降ろす。
気づけば、暑いという感情はどこへやら……。
涼しい風が吹き抜けていた。
簡単な人物紹介 ※補足程度
天河 音姫
『星天シリーズ』のヒロイン。
『あの星に願う天』では主人公。
3年D組所属。
一縷駕 亜美
3年D組所属。 音姫の友達。
実は、『あの天に届く星』でも出てきている。
テニス部にも所属。
用語紹介 ※補足程度
天川私立百武高校
主人公やヒロインたちが通う高校。
天川市の百武町にある。
部活がさかんで、特に強いのはテニスとサッカー
最近では空手も強い。
創立記念日は、6月30日。
天川私立水実高校
近隣の私立校。 百武高校からは
汽車に2本乗ったところにある水実市にある。