殻
「災厄の王復活......?」
妖精からは衝撃の言葉が出てきた。災厄の王って本当にいたのか。
[えぇそうです。私たちは災厄の王を復活させようとしてます。その為には、あなたが必要なんですよ]
「どういうことだ」
災厄の王復活に俺が必要? そういえばシルド家は昔、災厄の王を封印してたな。でもなぜ俺? 俺より父さんの方が復活に必要だろう。
[昔からあなたを観察していました......あなたはシルド家に不満を抱いていたでしょう? シルド家内にいる間はあの封印士やその他の人間もいるから、あなたを連れ出したりするのは大変危険です。しかし、あなたが我慢できずに逃げ出す時に、適当な理由つけてここまで連れてきてから、封印士だけ呼び出せば......ここからはあなた一人でもわかるはずです]
なんとなく理解できた気がする。こいつらは、災厄の王の封印を俺の父さんの手で復活させようとしている。俺がシルド家に不満を抱かずあの家にいたら、父さんと他の人間がいるから俺を人質として利用するのは、殺そうとした時に阻止される可能性があるし少し厳しい。
しかし、俺が不満を抱いてるなら話は別、俺が脱走する時に彼女の病気を治すためだとか適当な理由つけて、タイラントのいるヘイノス森林に連れてきて、いつ何時でも殺せる、決して誰にも阻止されない人質として機能する状態にして父さんだけ連れてくる......こういうことか。
「俺を人質として使うのか。だからこんなタイラントの住むヘイノス森林に連れてきた......村の時お前が、俺がタイラントを倒すことに固執していたのはこのためか」
[そうそう、あなたは人質、あの封印士と複数人の人間がいた場合、あなたを殺そうとする時に阻止される可能性があるからここまで連れてきたのです]
こいつらが何がしたいのか、理解することができた。しかし、俺の脳裏にはひとつの疑問が浮かんでいた。
あいつは「村の人たちはヘイノス森林に行ってから帰ってきてない」と行っていた、じゃあ村の人たちはいったい......。
!?
俺は今気がついた。こいつらは根が腐りきってる最悪な奴らだと。
「お前らまさか......村の人たちを」
[すぐ気づくと思っていました......結構な人数の、しかも戦闘に慣れている人たちの集まりなので少し手こずりましたが、なんとか全員......成功しました。あと、これ見てほしいんですが]
妖精がそういうと、タイラント達は彼女の服を無理やり引き剥がした。
綺麗なその背中には、大きな傷があった。
「お前ら......最低だな」
こいつらはクズだ。俺を人質にするためにわざわざ少女に死の呪いをかけ、彼女の病気を治すためにヘイノス森林に向かった村の人を全員殺したんだ。
村で少女を看病してる人はいなかった、おそらくヘイノス森林でタイラント達と殺した後、残りの人達も......。
俺の脳内は怒りで支配された。シルド家で生きていた時にも、ここまでの不快感と怒りは感じなかった。
「お前......クズじゃねぇか」
[クズで結構、私は災厄の王復活のためにならなんだってする]
妖精がそういうと、タイラントは彼女を殴り始めた。何度も何度も鈍い音が聞こえる。
「なにやってんだ!」
[知ってます? タイラントは1人1人がとてつもなく強く、どんなに訓練を積んだ人間でも倒すのに苦戦する。そして弱い動物を痛めつけるのが大好きなんです。村にいる時に言ってませんでしたっけ?]
彼女を殴る鈍い音が響く。どんなに殴られても彼女は叫ばなかった。もう病気で叫ぶほどの体力もないのだろう。
どうすればいいか、俺は考え続けた。しかし、俺1人でどうこうできる話ではない。
......封印魔法、俺にできるか? 一か八か、やってみるか?
しかし、とても無謀だ。俺はシルド家にいる時は全くもってできなかった。だから、封印魔法を一か八かなんて危険すぎる。
でも、やるしかない。このまま何もしなければ、女の子は死んでしまう。
俺は、立ち上がった。
女の子を助ける。それだけを考えろ。他の方は何も考えるな。
俺は目の前の女の子を救う。このことだけを考え、村の人全員やられた恨みだとかを考えるのをやめた。
そして、俺は手を前に突き出した。
タイラントが大きな右腕を振りかぶり、女の子を痛めつけようとした瞬間、唱えた。
「拘束」
自分自身の体の力が全て、突き出した腕に集まり、外に放出される感覚が俺を襲った。今まで、魔法を練習したりしていた時にはない感覚だ。
俺の傍の空間が歪み、裂けた。そして、そこから鎖が出てきた。
その鎖は女の子を殴ろうとしたタイラントの腕目がけて進み、タイラントの腕を縛り、拘束した。
魔法は成功したのだ。
[馬鹿な!? 封印魔法......!? 使えないはずでは]
妖精の声は明らかに焦っていた。そりゃそうだ、せっかく俺を人質にとり、父を呼ぼうという段階まで行っているのに、使えないはずだと思われていた魔法を使われている。誰であろうと焦る。
「捻り切る(トゥウィスト)」
タイラントの腕を拘束している鎖がタイラントの腕を捻るように動く。ブチブチと肉が切れる音がし、最終的には骨が砕ける音と共に腕を捻り切った。
[封印魔法......こんなことまでできるのか、お前ら! 油断するな! やれ!]
妖精の声と共に、その場にいるタイラントが全てこちらに向かってきた。
「拘束捻り切る(トゥウィスト)」
俺は向かってきたタイラント全てを拘束し、胴体を捻り切った。
全てのタイラントの目から、光が消えた。
「お前もだ、拘束捻り切る(トゥウィスト)」
俺はすかさず、妖精も拘束し、捻り切ろうとした。
しかし、拘束はできたが、妖精を捻ってもゴムを捻っているような感じで、どんなに強く捻っても、捻り切ることはできなかった。
[私はいかなる物理攻撃でも傷つかない]
「そういうことか、なら話は簡単だ」
俺はより一層集中した。もはや何も考えてないと言っていいほど、目の前に集中した。
「封印」
俺がそういうと、さっきと同じ全身の力が腕に集中し放たれる感覚がまた襲ってきた。
妖精を拘束してる鎖は白く光り始めた。そして、拘束されてる妖精自身もまた白く光り始めた。まぁ元が光ってるからわかりづらいけど。
発光していた鎖は光そのものとなり、拘束されている妖精も光そのものとなった。そして、その光は空高くに上がり、勢いよく地面に衝突した。
そして、光は消えた。妖精も鎖も消えた。残っているのは、光の衝突した地面にある紋章のようなもののみだった。
女の子を背中に背負い、俺は森林を抜けだした。どうちゅう、妖精が従えていたタイラントとは別のタイラントが襲ってきたりもしたが全員拘束することで、事なきを得た。
森林を抜け出した俺は、どこにたどり着くかもわからないまま、歩き続けた。
何日も何日も歩き続けていると、たまたま俺たちの近くに馬車が通りかかった。
「そこの子供達、大丈夫か? そんなボロボロで」
俺たちはここまで少ない休みとたまにしか取れない食糧でやってきた。心配されても仕方がない。今の俺たちは誰が見ようとみすぼらしい子供達だ。
「よかったらのってくか?」
馬車に乗っていた男は俺たちにそう言ってきた。
「いいんですか......!」
「あぁ、いいとも」
俺達は馬車に乗ることにした。
馬車に乗っている間、当たり前のことだが男に素性を聞かれた。俺は自分がシルド家の一員である形を隠すために適当に考えた偽名、アラン・メルキュラムと名乗った。
女の子の方は、死の呪いはもうないので苦しんでいる様子はなかった、がタイラントから救ってからずっと眠っていた。食糧も食べやすく咀嚼したものをあげたり、少しづつ水を飲ませているので、衰弱死する心配はない。
「ところで君たち、なんであんな所にいたんだ? 住んでいる所は?」
俺は自分がフォイス村に住んでいたことにし、女の子の病気を大人達が治そうとしたがみんな殺されてしまった。俺たちは逃げていたと説明した。
「そうか......そんな事が......よし! 君たち俺の家に住め!」
「え......いいんですか?」
「いい! 大丈夫! よーし、ぶっ飛ばすぜ!!」
「え、いや安全に——」
俺の言葉を聞く前に、男は馬に鞭を打った。男の想いに応えるかのように、馬は速度を一気に出した。




