フォイス村
1000年。ロイ大陸、フロイド山。ここに住んでいるシルド家の一員として、俺は生まれた。シルド家の男子として生まれた人間には、役目ができる。それは、封印士として国のため人のために働くこと。
封印士というのは、危険人物や、国王に指定された人物を拘束、封印をする役職のこと。とても有名なものだと、昔から言い伝えられている、災厄の王の話。封印士がこの世界を支配した災厄の王を封印したという話だ。まぁただの言い伝えだし、本当に災厄の王がいたと証明できるものは未だに俺自身の目で見てないので半信半疑で聞いていたが。
このシルド家に生まれた男子は、立派な封印士となるため、厳しい教育をされる。四六時中、厳しい勉強をさせられ封印士としての責任について説かれる。そして、1番大変なのは、封印士になるために最も重要なもの、封印魔法を学ぶことだ。
そもそも魔法というのは、人間の体内にある魔力というものを使用し、発動することができる......特殊能力のようなもの。342年ごろに人間の体内に魔力があるということが発覚し、それから魔法へと発展していった。まぁこの魔法の歴史についても習い立てだから少ししかまだわからないけど。
封印士の学ばなければならない魔法は封印魔法というもの。名前の通り何かを拘束したり封印するのに特化した魔法だ。
この魔法の勉強はとても大変だ。他の炎とか氷とかいった魔法より使用難易度がとても高いらしく、何年やっても発動することができない。
そんな生活が10年、12歳の俺は退屈していた。今の生活に楽しいとかそんなものはない。成長しても父の封印士の跡を継がなければならない。
俺は何度も考え続け、家を抜け出すことに決めた。
真夜中、父の監視がない時に俺は自分の部屋の窓から抜け出した。
俺の家は山の中にあるので、普通なら子供である俺1人で抜け出すなんて無謀なんだけど、その時の俺は自由になれないなら死んだほうがマシという極端な思考に陥っていた。
しかし、俺は死ぬことはなかった。山の中を歩いている最中、空中を漂う光が、俺を導いてくれた。
下山するのには何時間も要した。本来ならば途中で体力が切れて倒れるけれども、光が時折川まで導いてくれたり、安全に休める場所を教えてくれたので、なんとか下山に成功した。
フロイド山脈から南に進むと、平野にフォイス村がある。俺は下山してからも光に従って進み続け、このフォイス村にたどり着いた。
俺は生まれて初めて村というものにきた。石造りの家と、畑がポツポツの並んでいて、見応えはなかった。しかし、やっと俺はシルド家から解放され、自由になったんだという実感を、村を見ることで感じ、感動した。今の感動やこの村については老人になってボケても忘れない自信がある。
俺が村に感動していると、光はとある一軒の家へと俺を導いてくれた。中からは誰かが咳をしている音が聞こえてくる。
光は扉をすり抜け、家の中に入った。そして1分も経つことなく家から光は出てきた。
光は扉の前でなにかを主張している様子だった。光は人間のような手や、声を持っていないから一見してみると扉の前で暴れ始めてるように見えるが、おそらく扉を開けて中に入れと言いたいのだろう。
俺は扉を開けた。すると、家の隅のベッドで女の子が寝ていた。家の中には女の子以外誰もいない。さっきの咳は女の子のものだったのか。
「......あなたが、私の病気を治してくれるの?」
女の子は家に入ってきた俺に気づくと早々にそんな事を言ってきた。
「治すために来たっていうか......この光に導かれてここに」
「あなたの言っている光は、妖精よ。私の友達......」
彼女は光......妖精のことを友達と言った。なんのためにこの光がここまで導いてくれたか、なんとなくだけどわかった。
「このひか......妖精が俺をここまで導いたのって——」
[彼女の病気を治してほしいのです]
俺の言葉を遮るように、妖精のいるところから声が発さられた。
「......喋れるんだ」
[一応喋れます。でも喋るのは体力を多く消耗してしまうので、必要な時以外はしゃべりません]
「そうなんだ。所でなんで彼女の病気を治すために連れてきたのが俺なんだ? 俺は病気に対しての知識もないし、してやれることはないよ。大人しく大人を呼んだ方が良かったんじゃないの?」
[それが......私の姿は子供にしか見えないんです。しかもこの家まで導くことや、話しかけるなどの干渉が不可能でして]
「でも俺病気の知識ないよ? やっぱりほかの人をお連れてきたほうがよかったんじゃ......」
子供である俺を連れてくる理由は理解した。でも病気に関する知識が全くと言っていいほどない俺がこの子にできることは大人に事情を説明し、何とかしてもらうことだけだ。
でもなぜこの妖精は大人を連れてきてくれとかじゃなくて、子供である俺に「彼女の病気を治して」なんて言ったんだ?
[彼女の病気はタイラントという魔物によって発症してます]
「タイラント?」
[はい、タイラントとは人型の魔物の事です。一匹一匹はそこまで強くなく子供でも訓練さえ積んでれば難なく倒せます。しかし、彼らは集団で生息しているので対処が厄介です。そのうえ彼らに噛まれる、傷口に彼らの血や唾液がかかるということがあると、死の呪いという病気にかかります。この死の呪いは感染してから30日後に死亡してしまうという凶悪な病気です。治す方法はただ1つ。彼女に病気を感染させたタイラントを倒すのみ。ここの村の大人たちはみな彼女を助けるためにヘイノス森林にいるタイラントを倒しに行きました。しかしそれ以降、何日たっても大人は戻ってこないし彼女の死の呪いは治りません......。そして、私が何とかしようとしていた時に、あなたを見つけました]
「俺にタイラントを倒してもらおうと......」
[シルド家の子供は幼いころから封印魔法を発動させれるように教育されていると聞きました。ほかの子供よりはよっぽど可能性があると思って......お願いします。彼女を救ってください]
はっきり言って無理だ、俺は封印魔法は使えない、ただの子供だ。そんな子供が魔物、しかも集団のやつらを倒す......? だめだ、不可能だ。お父さんに頼むか? だめだ、きっと取り合わない。あきらめるしか......。
俺は考えた。子供なりにどうしたらいいか考えた、しかし何も思いつかない。俺単身は不可能だし、お父さんに頼んでも、わざわざ家出した俺の願いを聞いてくれるとは思えない。
「俺にはできない、封印魔法なんて使えない......ごめん、力になれない......」
力になれないといった。妖精の願いを断った、彼女を見捨てた俺がこの家にいる意味、資格なんてものない。
俺はドアノブに手をかけた。
その瞬間、背後の妖精が眩く光った。
[何を言っているのですか! 懇願ではありません! 命令です!]
妖精の声はとても荒々しくなっており、光がさらに強くなった。
そして、部屋全体は光に包まれた。
目が覚めると、俺は森の中で横たわっていた。周りはとても鬱蒼としている。
[目覚めたな、封印士の息子]
後ろから妖精の声が聞こえてくる。後ろを振り向くと、妖精のとなりに、病気の女の子がおり、近くには何体もの、人の形をした魔物、タイラントがいた。
[さぁ、始めようか、災厄の王復活を]




