4話 王族(6)
聖くんを見れば聖くんは頷いて。あたしは聖くんが用意してくれた、箸の練習ができる子供のトレーニング用の箸の穴に指を通した。
光陽王国の王都にやってくる前から練習していたけど、まだまだ慣れない様子で親子丼の鶏肉を取って口に含む。
「おいしい……! おいしいです」
「なら良かった」
聖くんはそう言って自分の箸を手に取った。するとレイちゃんが口を開く。
「……アメリア、一応いっておくけど敬語外していいんだぞ?」
「けいご……?」
あたしは言葉の意味が解らず繰り返す。
「丁寧にしゃべんなくていいぞってことだよ。おいしいなら、おいしいですじゃなくて、おいしいよとかでいいんだぞ」
そのレイちゃんの言葉に聖くんが説明する。
「王族だから慣れてないんでしょ。満瑠だって誰にでも敬語じゃん」
「は? 王族?」
「言わなかった? アメリアは魔族の姫だけど」
「魔族の姫……! いや、魔族に追われてる時点で魔族に近い種族なのは予想してたけど、魔族の姫とかきいてねえぞ!」
「姫だったら何か悪いの」
「いや悪いわ! 何度でもいうけどおまえはだれに対しても頭が高いんだよ!」
「何。満瑠みたいに100歳以上年下に敬語使えって言うの。年上は敬うべきでしょ」
「それはそうだけどな! 立場があるだろ!」
「光輝が許してるんだから別にいいでしょ」
「陛下が心広いだけだわ!」
あたしは会話の内容を理解していなかったけど、光輝というのは光陽王国の国王のことだった。あたしはというと、会話を聞きながら一生懸命慣れない箸で夕飯を食べている。
聖くんはレイちゃんの言葉を全然気にしてない様子で味噌汁に口をつけた。そんな聖くんに対して、ったく。聖はこれだからな……! と不満げなレイちゃん。
「きよさんと、えっと……レイちゃん、は仲よくないんですか?」
子供のあたしは空気というモノを読まずに疑問をただ口にする。レイちゃんの動きだけが止まって、聖くんはご飯を食べていて。
「……べつにふつうだな。仲よくもなく、べつに悪くもなく」
そうレイちゃんが話せば、聖くんも答える。
「別に悪くない。いつもこうだけど」
「大体原因おまえのせいだわ」
聖くんはレイちゃんのその言葉を聞き流してご飯を食べ続けている。
「ケンカしてたのでわるいのかなって思いました」
そうあたしが話せばレイちゃんは考える。
(子どもから見たら言い合いとかはケンカに見えるのか)
レイちゃんは口を開く。
「アレはただの言い合いだから。ケンカじゃない」
「? ケンカじゃないんですか?」
あたしはレイちゃんの言葉が腑に落ちなくて不思議そうな顔をする。
「あー説明するってなるとムズいな」
そう呟いて考えようとするレイちゃんに向かって、そんなことどうでもいいからレイは飯食べて。と聖くんが口にした。
「……そうするわ」
レイちゃんはそう口にして丼を手にした。
「ねえ」
「? はい」
聖くんがあたしの方を見て言うから、あたしは返事をする。
「レイがレイちゃんなら、俺も聖くんが良いんだけど」
「きよ……くん、ですか?」
「そう。そう呼んでよ」
「きよさんはイヤですか?」
「我慢してただけ。聖さんは他人行儀でヤダ」
「たにんぎょうぎ?」
あたしが言葉が難しくて腑に落ちないとレイちゃんが説明してくれる。
「仲よくないみたいでヤダって言いたいんだよ」
あたしはレイちゃんの説明になんとなく聖くんの言った言葉の意味が解る。
「きよ、くん……」
「なに?」
「きよくんってよぶのは……仲よしなんですか?」
「そうだけど? レイみたいに聖でもいいけどね。──でも、聖は呼びにくいでしょ? 俺年上だし」
あたしはその言葉に頷く。
「聖くんって呼ぶのヤダ?」
あたしは聖くんの言葉に首を横に振る。
「きよくんと私は……仲よし?」
「俺とあんたは仲良しだよ」
「きよくんと私は仲よし……きよくんってよぶのは仲よし……」
あたしは口を動かして難しそうな顔で言われた言葉を整理する。あたしの呟きに聖くんは頷く。そして聖くんが言った。
「だから聖くんって呼んで」
「……きよくん」
あたしがそう零すと、うん。って聖くんは言う。聖くんの反応にあたしは言うんだ。
「なら、私とずっと仲よくしてくれますか」
「そんなの当たり前じゃん」
あたしはその言葉に嬉しくなる。
「よかったな、アメリア」
レイちゃんの言葉に、あたしは頷いて。そうして、食事の時間が過ぎていったんだ。
◇◇◇
玉座の間に掛けられた比較的大きい掛け時計が20時数分を刻む。
夕食を終えた王の元へ、報告書やら資料やらを持ってやって来る臣下達。
そのような中に、無礼を知らない最たる男、佐倉聖が現れる。部屋の入り口に佇む番人が迎え入れず、勝手に入って来た所を見るにノックもせずに入ったのだろう。
玉座の方へ歩いて来る姿に、王は嬉しそうな表情で立ち上がった。
いつもの如くなんです、王よ。アラサー男性がその様な顔をしたところで誰も得は致しませんよ。と思った言葉は胸の内に留める。
「聖様……! 戻られたというのは本当だったのですね!」
そのような王にすかさず諫める言葉を放つのは、側近である私だ。
「王よ! 何度も申し上げますが、いかに佐倉様と言えども貴方は一国の王、立場をお考えなさい。貴方様も、ここが王の間だと解っているならノックをされませい」
「礼離はいつも同じことを言うね? 聖様は僕の親も同然なんだから良いんだよ?」
そう同じ主張を話す王。実際、不老不死である佐倉聖は、王が子供だった頃、王太子で有らせられた父君を亡くした王の父親代わりだったのは確かで、それは今も変わらない。だが、それはそれだ。佐倉聖は太上王でも無いし、王族でも無いのだから。
「ですが、貴方は王! お立場を考えて下さい」
「まあまあ。そんなに怒らなくても良いと思うよ? それで、聖様は帰りの挨拶に来てくれたのですか?」
王はいつも通り私を宥める。そして佐倉聖に向き直ると訊ねた。