4話 王族(3)
「そう。古代英語。大昔に使われてた英語のことだよ」
「おしろの人はオースティン英語です」
そう、魔界の城の人が使う英語のことを答えれば、透くんはオースティン? と零して眉をひそめる。
「オースティンって、あのオースティン? 〈種族戦〉が起きた原因の魔王オースティン?」
あたしはその言葉が腑に落ちずに、訊き返す。
「〈しゅぞくせん〉の原因って、人間のまじょがまおうローをゆうわく? したのが原因じゃないんですか……?」
あたしは誘惑っていう言葉の意味もよく解らずに口にした。ただ母さんから聞いた伝承の言葉を、子供だったあたしはそのまま話したんだ。
透くんを見つめているあたしは、聖くんがあたしの言葉に眉を寄せたのには気づかない。
「そっちの昔噺はそうなんだ」
そう反応する透くんが、魔族らしいね。と思っていたことなんて、あたしは知りもしなかった。
「……あの」
今まで黙って話を聞いていた満くんが声を漏らす。満くんに視線が集まった。
「〈しゅぞくせん〉って、あの〈しゅぞくせん〉ですか?」
満くんの言葉に、透くんが説明を始める。
「そう。聖族、魔族、人間を中心にあらゆる種族が争った大昔の戦いのことだよ。――その末に、人間は争いがイヤになってこの世界にやって来た。そう謂われてるね」
あたしはその言葉に目を見開いた。
「たたかいがイヤになって……? 魔族とあの聖族を捨てて逃げたんじゃないんですか……?」
疑問を投げかければ、透くんは答える。
「まあ見方によっちゃ逃げたとも言えるね。……〈光の御子〉の話は知ってる?」
透くんが話せば、その話はやめろ。とでも言うように、透琉。と聖くんが透くんの名を呼んだ。あたしは聞き覚えのない単語に、光のみこ……? と呟く。
「アメリアには関係ないんだから、話したっていいでしょ聖」
透くんが聖くんに顔を向けてそう口にして。
「……」
聖くんは何も言わない。更に止めない聖くんの様子を見て、透くんは話を続ける。
「〈光の御子〉。聖族と人間の間に生まれたハイブリット、奇跡の子。――本来、2つの種族の間に生まれても、その力は半減するだけ。純血じゃないからね。それぞれの血脈が薄くなることで、力、つまり魔法は弱くなるんだよ。だから同種族で純血を重んじる」
でも、〈光の御子〉は違った。その力は絶大だった。そう透くんは語った。
「そんな難しい話、しても解んないと思うけど。それに何が言いたいの」
幼いあたしが話を理解できずにいると、聖くんがそう言った。すると、透くんがあたしに訊ねる。
「ごめん。アメリアはいくつ?」
「えっと、5歳です」
そう言えば、透くんは謝る。
「ごめんアメリア。てっきり満瑠と同い年位かと思ってた。背、高いんだね」
「そうですか……?」
自分では身長が高いことなんて判らなかったから、あたしはそう反応する。
「まあ何が言いたいかというと、〈光の御子〉には魔族を滅ぼす力があったんだよ」
あたしはその言葉に耳を疑った。魔族を滅ぼす力、とても信じられる話じゃなかったんだ。透くんは構わず続ける。
「でもそれをしなかった。その代わり、2度と争いが起きないよう、聖界と魔界を隔て、人間をこの世界に移住させたんだよ」
だから、人間は逃げたわけじゃない。平和に解決出来る方法を実行しただけなんだよ。そう透くんは話した。
「まあね、信じられないと思うけど、これがこっちの言い伝えだよ」
そう口にする透くん。あたしは透くんの話に一驚してしまって。信じられない……そう思った。
「な、なんで……そんなウソがあるんですか」
「ウソ?」
透くんがあたしの言葉にそう訊き返す。
「だって、それが本当なら、母上が教えてくれた話がウソになっちゃいます!」
あたしは感情が高ぶって、そう泣きそうになりながら口にした。自分の国の言い伝えがウソなんて、そんなことは幼かったあたしが受け入れられるわけもなくて。母さんに教わった話が正しくないだなんて考えたくもなかったんだ。
そんなあたしに満くんは近づいてハンカチを差し出す。あたしは、……すみません。と口にしてハンカチを受け取った。目元を拭く。
「事実は1つ。でも真実は星の数ほどあるものだよ」
透くんはあたしを見ながら口を開くとそう話す。
「……どういうことですか……?」
あたしは透くんにそう言う。