3話 神に愛された男(5)
おれはレンガ製の凹凸になった、狭間胸壁の凸の部分を足場にして勢いよく飛び上がった。
おれは柚葉のいる狭間胸壁の屋上の内側へと着地する。背中を曲げて前のめりになった姿勢から上体を元に戻すと、柚葉に声をかけた。
「おまえこんなトコにいたのか」
柚葉は振り返ることもせず、動くこともない。そんな様子に、あいかわらずの柚葉だとおれは思いながら続ける。
微かな風に吹かれて、おれと柚葉の髪が揺れた。
「聖がおまえを探してたけど」
「……それで」
そのあいかわらずの反応の薄さに、おれは切り込んだ話題を出した。
「おまえのことだから、全部気づいててこんなトコにいるんだろ?」
切り込んだ話題を出しても、柚葉の様子は変わらない。城の屋上から見える国の景色や、青々として所々雲のある空を視界に映しているだけだ。
「――何を」
そう反応するその言葉も淡々としていて、ひっそりとした様子で。
「香花さんのことだよ。魔力が同じなんじゃないわけ?」
「……――生物っていうのは転生すれば別の自分になる。当然魔力も変わる」
――なら、魔力が同じっていうのがどういうことか解る? と柚葉は口にする。
「おれらの場合は契りじゃないわけ」
「じゃあアイツは?」
「宿命の証か?」
「それもそう。でも違う」
――アレは呪い。誰がなんと言おうと。柚葉は静かにそう話す。
柚葉がどんな想いでその言葉を口にしたのか、おれには想像しかできない。
「たとえ、聖花さんが、香花さんが否定したとしても――ってわけ?」
柚葉は何も言わない。
おれは笑んだ。
普段、柚葉は何にも興味がなさそうなヤツだ。それでも、あの人のことになると少なからず感情が現れる気がしたからだった。
「大切なら、メンドがらずに導いてやれよ。困った時は助けてやれ。古今東西、魔道の鬼才ならな」
「……」
おれは予想通り反応のない柚葉に構うことなく、狭間胸壁を飛び越えて。そのまま、下へ落下していく。
下へ下へと落下していけば真下にあるバルコニーが近づいてきて。おれはそこに着地した。