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5分シリーズ

おかえり

作者: 理春


「おかえり」 小夜香編


その日は何度も何度もスマホの画面を確認していた。

何度見たって同じ、連絡が来てる通知はない。


「はぁ~・・・。」


「どうしたの、小夜香」


「え~?何でもな~い」


私は机に突っ伏したまま答えた。


「そんなあからさま溜息つかれたら、誰だって聞くでしょ。」


前の席で同じく課題をやっていた茜は、そう言って振り返った。


「ん~ごめん・・・。あのさ、ちょっと家の人と喧嘩しちゃってさ・・・連絡来ないかなぁって待ってるの。」


私はいわゆる父子家庭。小さいころに母を亡くした。

でも喧嘩をしたのは父ではなく、家族同然のうちの使用人だった。


「ふぅん?・・・自分から何か送ればいいんじゃない?」


「そうだけどさぁ・・・送って既読無視とか未読無視とかだったら嫌じゃん・・・。」


「あ~まぁ・・・」


私は課題である問題集の上に、頬杖をついた。

くだらないことで気を落としてる自覚はある。

でも喧嘩なんてしたこともなかったから、なんて言えばいいのかわからなかった。

煮え切らない私に、茜は苦笑して言った。


「何か小夜香らしくないけど、自分にも非があるって思うなら、謝ってもう一回話したい、みたいなこと送れば?それでダメならさ、しばらく距離置くしかないよね。」


詳細を聞かず、アドバイスしてくれる友達に、なんだかだらしない自分が情けなくなった。

だけどそうしてまた落ち込む前に、私は背筋を伸ばして、深呼吸して言った。


「そうだね!そうする。」


すると茜はニンマリ笑ってくれた。

意を決して、何度も見た真っ暗な画面のスマホを取り出すと、ちょうどいつもの通知音がなった。


「え・・・?」


すっと画面を開いてみると、癒多からだった。

そこにはこう書かれていた。


『昨日はごめん、小夜香の気持ちも考えずに、酷い言い方しちゃって。もう一度ちゃんと話したい。』


ただ喧嘩しただけ、そう思いながら話していたけど、その言葉を見て、不覚にも涙が溢れた。


「小夜香・・・大丈夫?」


茜にそう言われて、こぼれそうになった涙をぐっとこらえた。


「大丈夫!ちょうど向こうから連絡来て・・・ごめん、私課題家でやるね。」


「そっか、わかった。よかったね」


「うん!ありがとう。」


私は急いで帰り支度を済ませ、スマホを掴み、走って教室を出た。

昇降口までたどり着いて、靴を履き替えながら返信を打つ。

するとすぐに既読がついて、また返信がきた。


「ん?・・・今から帰るよ・・・と」


すると今度は急に、それが着信画面に変わった。


「わっ!え?」


慌てて電話のマークをタップする。


「もしもし?」


『もしもし、小夜香、あの・・・まだ学校なら迎えに行こうか?』


「え・・・いや、いいよ。面倒でしょ・・・。今家にいるの?」


『いや、外なんだ。そんなに遠くないから・・・職務放棄してたのは俺だし・・・。』


私は少し考えたけど、周りの目が気になるし断ることにした。


「いいよ、家で話したい。」


『そっか、じゃあ急いで先に帰って待ってるね。』


「ふふ、別に急がなくていいよ。」


そしたら癒多は、いつもの優しい声で私に言った。

その時初めて、彼がいつも、私より早く帰宅している理由を知った。


『ううん、俺はさ、小夜香におかえりって、毎日言いたいんだよ。』


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