おかえり
「おかえり」 小夜香編
その日は何度も何度もスマホの画面を確認していた。
何度見たって同じ、連絡が来てる通知はない。
「はぁ~・・・。」
「どうしたの、小夜香」
「え~?何でもな~い」
私は机に突っ伏したまま答えた。
「そんなあからさま溜息つかれたら、誰だって聞くでしょ。」
前の席で同じく課題をやっていた茜は、そう言って振り返った。
「ん~ごめん・・・。あのさ、ちょっと家の人と喧嘩しちゃってさ・・・連絡来ないかなぁって待ってるの。」
私はいわゆる父子家庭。小さいころに母を亡くした。
でも喧嘩をしたのは父ではなく、家族同然のうちの使用人だった。
「ふぅん?・・・自分から何か送ればいいんじゃない?」
「そうだけどさぁ・・・送って既読無視とか未読無視とかだったら嫌じゃん・・・。」
「あ~まぁ・・・」
私は課題である問題集の上に、頬杖をついた。
くだらないことで気を落としてる自覚はある。
でも喧嘩なんてしたこともなかったから、なんて言えばいいのかわからなかった。
煮え切らない私に、茜は苦笑して言った。
「何か小夜香らしくないけど、自分にも非があるって思うなら、謝ってもう一回話したい、みたいなこと送れば?それでダメならさ、しばらく距離置くしかないよね。」
詳細を聞かず、アドバイスしてくれる友達に、なんだかだらしない自分が情けなくなった。
だけどそうしてまた落ち込む前に、私は背筋を伸ばして、深呼吸して言った。
「そうだね!そうする。」
すると茜はニンマリ笑ってくれた。
意を決して、何度も見た真っ暗な画面のスマホを取り出すと、ちょうどいつもの通知音がなった。
「え・・・?」
すっと画面を開いてみると、癒多からだった。
そこにはこう書かれていた。
『昨日はごめん、小夜香の気持ちも考えずに、酷い言い方しちゃって。もう一度ちゃんと話したい。』
ただ喧嘩しただけ、そう思いながら話していたけど、その言葉を見て、不覚にも涙が溢れた。
「小夜香・・・大丈夫?」
茜にそう言われて、こぼれそうになった涙をぐっとこらえた。
「大丈夫!ちょうど向こうから連絡来て・・・ごめん、私課題家でやるね。」
「そっか、わかった。よかったね」
「うん!ありがとう。」
私は急いで帰り支度を済ませ、スマホを掴み、走って教室を出た。
昇降口までたどり着いて、靴を履き替えながら返信を打つ。
するとすぐに既読がついて、また返信がきた。
「ん?・・・今から帰るよ・・・と」
すると今度は急に、それが着信画面に変わった。
「わっ!え?」
慌てて電話のマークをタップする。
「もしもし?」
『もしもし、小夜香、あの・・・まだ学校なら迎えに行こうか?』
「え・・・いや、いいよ。面倒でしょ・・・。今家にいるの?」
『いや、外なんだ。そんなに遠くないから・・・職務放棄してたのは俺だし・・・。』
私は少し考えたけど、周りの目が気になるし断ることにした。
「いいよ、家で話したい。」
『そっか、じゃあ急いで先に帰って待ってるね。』
「ふふ、別に急がなくていいよ。」
そしたら癒多は、いつもの優しい声で私に言った。
その時初めて、彼がいつも、私より早く帰宅している理由を知った。
『ううん、俺はさ、小夜香におかえりって、毎日言いたいんだよ。』