このように、全てプラズマで説明できる。(ショートショート)(旧作復活版、朗読向け)
※本作品はSF作品(科学的根拠に基づいた空想作品)です。
頭を空っぽにして読んでいただけたら幸いです。
突っ込みたい衝動に駆られると思いますが、ぐっと抑えていただけると幸いです。
――この世界は極めて奇天烈、奇想天外な事象にあふれている。
幽霊を見たとか、UFOを見たとか誰しも一度は聞いたことがあるだろう。荒唐無稽だ、幻想だと馬鹿にする者も多い。
しかしプラズマ現象学の第一人者である私からすれば、これら怪異は全てプラズマで説明できると考えている。
今日は、私がこれまでに直面した摩訶不思議な事例とそれに対する私の的確な対応を、とくと味わっていただきたいと思う。
◆◆◆◆
「私が祖母のお墓参りに行った時なんですよ。お墓の周りに、白い人魂のようなものが集まっているのが見えたんです。少し怖いと思ったんですけど、あれは何だったんでしょう?」
大学時代のこと。たまたま昼食で一緒になった女子が、少し不安そうな面持ちで私に話しかけてきた。どうやら、お墓の周りで人魂に会ったと思い込んでいるようだ。
「別に何ということはない。恐らくそれはプラズマだ。プラズマは気体が高エネルギー状態になったもので、放電して発光することがある。実際、墓場で確認される怪奇現象は、プラズマに起因することが多いという報告がある。だから気にしなくていいと思うぞ」
「なるほど~」
一緒に昼食を取っていた女子は、プラズマに関する説明を聞くなり、ほっと胸を撫で下ろした様子だった。そして頬を少しだけ赤く染めながら、私の方をマジマジと見つめてきた。
しかし私はというと、彼女からの視線を無視し、プラズマのことを考えながら食事を続けた。
ちなみに彼女とは、大学を卒業して以来一度も会っていない。今思えば、彼女もプラズマだったのかもしれない。
◆◆◆◆
「ミイラ男を見たんだよ」
私がプラズマ現象学の准教授に昇進した頃、お祝いと称して友人が私の元を訪ねてきた。
怪奇を体験したという彼は、少なからず興奮した様子だった。
「一応聞くが……君の見間違えということはないか?」
「ないね。絶対にない。あの包帯グルグル巻きは、間違いなくミイラ男だ。カメラ撮影している奴までいたから、目撃者は大勢いるぞ」
友人は私の言葉を真っ向から否定した。
「なるほど。それはプラズマが原因だな」
確かに人間である以上、怪奇現象には惹かれるものだ。
しかしあえていわせてもらおう。それはプラズマなのだと。
「ん? それはどういうことだ?」
「ミイラ男は元々死んだ人間だ。その死体にやんちゃなプラズマが取り憑いて動いていると考えれば、全て説明がつくだろう?」
「そういうことか! なるほど! いや、これは新しい発見だ! 論文の一つでも書けるかもしれない! 悪いがこれで失礼させてもらう!」
友人はそういうなり、疾風が如くこの場を去って行った。
なるほど。言葉には気を付けなければならないようだ。思わぬところでライバルが増えてしまった。
◆◆◆◆
「お酒が手放せなくなったんです」
私が論文を書いてる時、一人の男子学生が、栓の開いた一升瓶を持って私の前に現れた。
平衡感覚が怪しいらしく、まっすぐ立つこともできないようだ。チラリと目をやれば、体が右側に傾いているように見える。
「気がつくと、いつもいつもお酒のことばかり考えてしまって……。先生! 一体どうしたら良いでしょう!?」
鬼気迫る勢いで私に近寄ってくる男子学生。
おいふざけんな! 一升瓶開けた状態で急に近づいてこられたら、書類に酒が飛び散るだろうが!
「大丈夫です。それはプラズマが原因です。実際貴方は、時々黒い点のようなものが、空を飛んでいるように見えたりしないですか?」
「ああ……ああ! そうです! あります、あります! どうしてわかったんですか!?」
だから近づくなといってるだろ! 研究結果が全部おじゃんになったらどうするんだ!
「まず落ち着いてください。もしそうならば大丈夫です。私から専門家の方に推薦状を書いておきます」
私は一旦彼を落ち着かせると、以前私とミイラ男の話をした友人宛の推薦状を書き始めた。
「え……? でも、貴方が一番こういったことに詳しいって聞きましたけど……?」
「推薦状を書いておきます」
私の説明に対して全く腑に落ちていない男子学生に推薦状を押し付けると、私は彼をそのまま強引に部屋からしめ出した。
それにしても、プラズマの脅威は留まることを知らないらしい。本当に侮れないものだとつくづく思う。
◆◆◆◆
「好きな人ができたんです」
私が論文作業を終えて一休みし始めた頃、一人の少女がやってきた。
その少女は右手に包丁を持ち、両腕に白い包帯を巻いていた。また、瞳孔が開いており、よくよく見れば、薄ら笑っているようにも見える。意識があるのかないのか分からない彼女の表情は、私から見ればどこか狂気的にも思えた。
「大丈夫です。それはプラズマです」
「実は……私の好きな人は、今、私の目の前にいるんです」
彼女は自分の頬を朱色に染めながら、意思を感じさせない虚ろな瞳で私を見つめてきた。
「全てプラズマで説明がつくんです!」
内心舌打ちしながら、私は魔法の呪文を繰り返す。
論文をようやく書き終えたこともあり、正直早く休みたいという気持ちが強かった。
「それは……私の愛が受け入れられないということでしょうか?」
「何しろプラズマですからね。そういうこともあるかもしれません」
「ひ、ひどい! うわああああああああん!」
彼女は私の説明を聞くなり、目に涙を浮かべながら、脱兎の如くこの場から去って行った。
恐らくこれで、彼女もプラズマの呪縛から解き放たれたことだろう。
さらばだ。二度と来るな。
◆◆◆◆
いかがだっただろうか。
このように、あらゆるものは全てプラズマで説明ができる。実際、私の論理には何の問題もなかったはずだ。
しかし今回紹介したケースは、私が体験している現象のほんの一部に過ぎない。私達の日常の中に何食わぬ顔で同化しているそれらは、時として牙を剥き、襲い掛かってくる。
現在私は、それらの猛攻を軽やかなステップで巧みに避けながら、日々プラズマの研究を一意専心に行っている――。
薬剤師のやくちゃん様がイラストを作成してくださいました。
ご意見、ご感想、評価等々何卒宜しくお願い申し上げます。
※ちなみに、プラズマで何でもかんでも説明がつくわけではありません。
この作品はあくまでフィクションです。宜しくお願い申し上げます。