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優しい魔物

 オセロは裁判所の隣にある郵便局の前で倒れていた。身体の至る所に傷が付いており、かなりダメージを負っているのが見て分かった。

「オセロ、降参したら?」

「だ、誰が降参なんかするかよ……」


 オセロはゆっくりと立ち上がった。敵ながらすごい根性だと思ったが魔物には容赦するつもりはない。

 ネギを振りかざすとさすがにオセロはビビったのか、シロの姿に変わり、私から距離を取った。

 私は逃すものかとオセロに掌を向け、マジカルキャノンを放とうとした。


「わー! 見てママ。おっきなネコさんがいるよ」

 反対側の歩道で親と共に歩いていた小さな子供がオセロに向かって道路に飛び出した。

 しかし、最悪のタイミングで大型トラックが子供に迫り来る。

「きゃー! 危ない」

 親が叫んだ。まずい、助けなければ。この位置、果たして置間に合うか? 

 私が子供を救おうと動き出そうとしたその時だった。

「全く、世話が焼けますね!」

 なんと、オセロは道路に飛び出すと子供を抱きかかえ、そのまま親元へ返した。

「あ、ありがとうございます」

「全く……親ならちゃんと子供を見てなさい」

「ネコさん、またねー」


 子供はオセロに手を振る。オセロは「ふん」と呟き、親子に背中を向けた。

 こいつ……魔物なのにどうして子供を助けたんだ?


「思わぬ邪魔が入りましたね。魔法少女。では、勝負再開と行きましょうか」

「ねぇ、オセロ。どうして子供を助けたの?」

「ど、どうしてって……そ、それは! あそこで子供に死なれたらあなた、責任を感じて実力を発揮できなくなるでしょう。それでは勝った意味がありませんからね」

 オセロがしどろもどろに説明する。本当だろうか。

 私の中でオセロは良い魔物なんじゃないかという考えが浮かんでしまった。

「オセロ……あなた」

「さぁ、掛かってきなさい。返り討ちにしてあげます!」

「見つけた」

 この声は……振り返ると私が昨日出会ったもう一人の魔法少女がやってくるのが見えた。

「あなたは魔法少女オカリ……」

「昨日ぶりね、魔法少女サキ。ニュースを見て駆けつけてやったわ。感謝しなさい」

 魔法少女オカリは私が止める間もなく右手に持つ西洋剣でオセロを斬りつけた。

 オセロは何とか致命傷は避けたようであるが、肩から血が飛び出る。

「ぐわぁ!」

「へぇ……やるじゃない。結構速いのね。けど、これはどうかしら?」


 魔法少女オカリは何度も壮絶な斬撃を放った。オセロの素早い身のこなしでも避けきることはできず、たくさん負傷してしまっていた。

 このまま私が何もしなくても勝手に魔法少女オカリがオセロを倒してくれるだろう。

 だが――


「はぁ!」

 気づけば身体が勝手に動いていた。女神から譲り受けたド○パッチソードで魔法少女オカリの西洋剣を受け止める。

「ちょっと……魔物を庇うなんてどういうつもりかしら?」

「さぁ? ただ、あなたに手柄を渡すのがどーにも我慢できなくてね!」

 私と魔法少女オカリは互いに武器をぶつけ合った。やはり、魔法少女オカリの攻撃力は高く、武器がぶつかり合うたび、手がジーンと痺れる。

「な、何ということでしょう! 魔法少女サキに加えてもう一人、新たな魔法少女が現れたー! 彼女は一体、何者なんでしょうか?」

 めんけぇテレビのアナウンサーがやってきた。さらにゾロゾロと野次馬達が集まってくる。

 魔法少女オカリはなぜかめんけぇテレビのカメラマンに詰め寄った。

「岩手県民の皆さん! よーく覚えておいてください。私は魔法少女オカリ。憎き魔物と日夜戦う魔法少女よ。そして、私はこの魔物にトドメをさそうとしたところ魔法少女サキが邪魔をしてきたわ! これは一体どういうことかしら?」

「何と、魔法少女サキは魔物と繋がっていたのでしょうか?」


 野次馬達が私に疑惑の目を向けてきた。まるで二千十四年に不正疑惑を掛けられた某議員の気分である。

 ダレがてぇ、ダレにトウヒョウしてもおんなじやおんやじやオモテー!

 ダメだ、落ち着け。そもそもあれは疑惑も何もれっきとした不正だろう。


「なぁ、どう思うよ?」

「だが、さっきまで魔物と戦ってたわけだし……」

「そりゃあ、演技だったんだろ。じゃなきゃ、トドメを刺すのを邪魔するか?」

「だよなー。俺は魔法少女オカリを信じるぜ。見た目も魔法少女オカリの方が好みだし」

 野次馬達は次々と勝手な憶測を始めた。全く腹立たしいことこの上ない。

 特に魔法少女オカリの方が好みとか言ったやつ、死の忘却を迎い入れろ。

「サキ、まずいよ……みんな、サキのこと疑ってるよ」

「ねぇ、ミルフィー。なんか上手くごまかす方法はない?」

「ない!」

 即答である。全くもって役に立たんなこの妖精は。

「ふん。お前の魔法少女、そうとう愚かだな。ミルフィー」

 私達の前に翼の生えた猫みたいな生き物が現れた。見た目こそミルフィーに酷似しているが、毛並みは茶色の配色が多い。

「チャリー……君がその魔法少女と契約していたのか」

「その通りだ。オカリはお前のところの魔法少女と違って超優秀な魔法少女だ。魔物なんざ全てオカリが滅ぼしてやるからお前らはとっとと失せるんだな」

 チャリーとかいう妖精。ご主人様に似てとても腹立たしい態度であった。

「ちょっと、何なのこいつ。むっかつくんだけど!」

「チャリーは僕の幼馴染なんだ。悔しいけどものすごく優秀な妖精なんだよ」

「おっと。おしゃべりはこのくらいにしてそいつ、速いところ倒させてもらえるか?」

 チャリーは私の後ろにいるオセロを指差す。私はオセロのことを何とかして逃がしてやろうと思った。

「オセロ。私が時間を稼ぐ。あなたはそのうちに逃げて」

 オセロは立ち上がると、クラウチングスタートの構えを取った。

「ふん。礼は言いませんよ。次会うときは必ず倒しますから」

「ちょ……待ちなさい!」


 オセロに斬りかかろうとする魔法少女オカリを喰い止めた。

 このネギ、見た目によらず超強い。これならオカリにも勝てるかもしれない。

 私の目論見通り、オセロはロケットスタートでこの場から逃げ出した。


「おっとー! 魔物がものすごいスピードで逃げていきました。魔物の逃亡を手伝う魔法少女サキ。やはり彼女は魔物の手先なのか?」

「みんな聞いて!」

 私は大声で叫んだ。野次馬達は「なんだ、なんだ」などと呟きながら私に注目する。

「何? まさか言い訳でもするつもりかしら?」

「そこの魔法少女と名乗る人は……実は魔族の幹部なんです! そしてさっき逃げた魔物は ただのニャンコだったのです! こいつに操られていただけなんです。そのうち戻ります!」

 私は迫真の演技で説明した。ミルフィーは驚きの表情で、魔法少女オカリとチャリーは若干呆れた様子である。

「はぁ? そんなの誰も信じるわけが……」

「な、なんとー! 魔法少女オカリと名乗る少女は魔族の幹部とのことです! これは衝撃ですね。つまり、操られていた猫を魔法少女サキが庇った模様です!」

「え、えぇーーー!?」


 めんけぇテレビがあっさりと私の主張を信じたことに対し、魔法少女オカリはまるでマ○オさんのような声を出して驚いた。

 おばあちゃんが言っていた。世間というのは声の大きい人を信じると。


「そ、そうだったのか……」

「確かに魔法少女オカリって奴、悪女っぽい顔だもんな」

「けど、俺はタイプだぞ」

 くそ、やっぱりタイプなのかよ……ってか、誰か私のことをタイプだと思っている人はいない? まぁ、いたとして私は魁斗さん一筋だけどさ。

「はぁ……どいつもこいつも馬鹿ばっかりで本当に嫌になるわ。ついてきなさい、魔法少女サキ。誰もいないところで勝負よ。その方があなたも都合がいいでしょう?」

「まぁね」


 私と魔法少女オカリはその場から離れ、めんけぇテレビのアナウンサーや野次馬達を置き去りにした。

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