犯行予告
「この雑誌の場所が分かりました。どうやら舞型のブックオフ跡地だそうです」
「舞型のブックオフ跡地……部長、よく場所が分かったね。占い師の人が突き止めたの?」
「その通りです魁斗君。明日、みんなで調査に行きたいと思うんですがどうでしょうか?」
「俺は構わないよ」
「僕もです!」
「ありがとうございます。二人は聞きこみ調査で何か手掛かりは掴めましたか?」
魁斗さんはズボンのポケットから黒いメモ帳を取り出すと、報告内容を話し始めた。
「昨日、学校で魔物を見たって生徒が何人かいたね。あと、二人の少女とマジシャン風の男が魔物と戦っているのを見たって人が一人いたよ」
「あの魁斗さん。魔物と戦っていたというその三人は魔法のような力を使っていたんですか?」
「うん。マジシャン風の男が手から炎を放出したのを見たってさ」
マジシャン風の男……バーニング・プリンスか。彼の正体も気になるところであるが、やはり魔法少女オカリが何者なのか私は気になる。
「そうですか。その二人の少女のことについて他に詳しい情報はありますか?」
「いや、残念だけど……ちらっとしか見てないってさ」
魁斗さんは首を横に降った。もう一人の魔法少女の手掛かりを得られなかったのは少し残念だが、また魔物と戦う機会があれば会えるかもしれない。
その時には必ず正体を掴んで見せる。そうすれば、私の正体を明かすこともなく、オカルト部は存続。ハッピーエンドまっしぐらだ。
「あと部長! さっき、こんなニュースを見つけたんです!」
鎌田君はスマホを私と由奈さんに見せつけた。それは岩手新報のサイトであり、『魔物が石割桜を狙う』という大きく題名が表示されていた。
「ちょっと、貸してもらってもいいでしょうか?」
「はい」
由奈さんは鎌田君からスマホを受け取ると、マジマジと画面を見つめた。
ニュースの内容は岩手県の観光課宛に岩手県有数の観光スポットである石割桜をちょん切るという内容の手紙が送られてきたとのことであった。
そして、その手紙の差出人の名前が『魔物』らしい。県では愉快犯による犯行と考えられているようであるが、一応警備を配置するとのことであった。
「魔物が石割桜を……もしもこれが本当ならとんでもないことですね」
「けど、なんかやることがしょぼくないですか?」
「何言ってるんですか!? 咲さん!」
「え!?」
由奈さんが急に詰め寄ってきて、私はとても驚いた。こんなに興奮した様子の由奈さんを見るのは初めてである。
「石割桜は盛岡市の偉大なる観光スポットなんですよ! 石を割って生えている樹齢360年の名物桜を切るだなんて……きっとその魔物はとんでもない悪に違いありません!」
「そ、そうですね。はい……」
それにしても、わざわざ犯行予告をするなんて、そんな魔物は今までいなかった。
やはり、愉快犯による犯行だろうか……いずれ、今は推測の域を出ない。
「ニュースによると犯行日時は手紙に記載されていなかったようですね」
「はい。なので、やっぱり悪戯の可能性が高いと思います」
「けど、興味深いニュースですね。私も今日からニュースを注意して見ておくことにします」
その後、部員のみんなと楽しく雑談し、解散した。明日、みんなで舞型のブックオフ跡地に行く予定である。
帰り道、人気の無い場所を歩いていた時、ミルフィーが姿を出した。
「咲! 近くに魔物の気配を感じるよ」
「魔物の気配? えっと、どこらへん?」
「僕が案内するから着いてきて!」
「分かった、分かった」
ミルフィーに導かれ、五分程時間を掛けて辿り着いたのは盛岡地方裁判所であった。
この場所こそ石割桜が置かれている観光スポットである。
「石割桜……まさか、あの犯行予告は本当だったっていうの?」
石割桜の前で二名の警察官が立っていた。一応、警戒はしているようであるが、魔物は一般人が到底敵う相手ではない。
今のうちに変身しておくべきか。すると、何かが私の前で何かが凄まじい速度で通り過ぎていった。
「お、お前……何者だ!」
警察官が銃を構える。私の視界の先にいたのは白い毛並みをしたネコか虎のような獣人。毛並みは白く、見た目からして素早さそうな魔物であった。
「私の名はオセロ。お手紙、気に入ってくれましたか?」
「お前か。あのふざけた手紙を送ったのは」
「ええ、そうです。ほら、そのおもちゃ。使ってみたらどうですか?」
「く……!」
やはり、撃てないか。盛岡地方裁判所の前は人通りが多く、発砲したら何事かと思うだろう。いや、それだけなら良いが、車や通行人に当たりでもしたら偉いことになる。
「いい気になるなよ! この愉快犯が!」
警察官の一人が警棒を振り上げた。しかし、オセロは目にも止まらぬ速さで警察官の背後に回り込むと、膝カックンで警察官を転ばせた。
「うわぁ!」
「あららら、情けない。まぁ、魔法少女が来るまでここで待ってあげましょうか。ほら、速く応援を呼びなさい。なんならめんけぇテレビあたりにでもテレビ中継でもしてもらったらどうでしょうか」
わざわざ犯行予告をしたのは魔法少女を呼び出すためか。
しかし、オセロという魔物……よくめんけぇテレビを知っているな。魔物もテレビを見たりするのだろうか。
「咲、変身して戦おう」
「しょうがないね」
ここでは人目につくと思い、私は少し離れた先にある公園の樹の陰で変身を行なった。
「魔法少女サキ、変身完了!」
変身が終わり、意気揚々とオセロの元へと向かう。なお、ここまで戻ってくるのに結構時間が掛かってしまった。
信号などに引っかかってしまい、遅くなってしまったのである。清く正しい魔法少女は道路交通法をしっかりと守るのだ。
裁判所の敷地内ではやられてしまったのか地面に倒れている警察官が何名かいた。
さらにはテレビ局がバッチリとオセロのことを写している。果たしてこれで魔物が世に知れ渡ってしまうのだろうか。
「あらあら、もう終わりですか? このままだと盛岡市の観光スポットが一つ無くなってしまいますよ」
私はオセロの前に向かおうとした――その時だった。
「騒ぎがあって来てみれば随分とひどいことをしているじゃないか、魔物め!」
あの黒いハットに暑そうなスーツは……何とバーニング・プリンスが現れた。
丁度良い。バーニング・プリンスが代わりにあいつを倒してくれたら儲けもんである。