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バーニング・プリンス

「大丈夫ですか? お嬢さん」

「は、はい……」


 私を抱きかかえていたその男は黒いハットを被り、この時期には暑そうなスーツを着ている。さらに両手には白い手袋、そして大きな黒いサングラスを付けていた。

 彼の服装はさながらマジシャンのようである。

 男は私を地面に下ろすと魔物に近づいた。


「お前、一体何者だ?」

「私はこの街を守るバーニング・プリンス。学校内で暴れるおぞましい魔物よ! とっとと自宅に帰りなさい!」

 何だそのセリフは。キュ◯ブラックかよ。そうこうしているうちに魔物はバーニング・プリンスだかに触手で攻撃をしてきた。

「は! は!」

 しかし、バーニング・プリンスは鮮やかな側転で魔物の攻撃を回避した。ものすごい運動神経である。

「小癪な! ほれ、ほれ!」


 魔物が高速で振り回す触手をバーニング・プリンスはギリギリのところで避けていった。

 私も参戦したいところであるが、もはや身体を動かすことが全くできない。

 これはもう仕方がないよね? 人生、諦めが肝心。


「バーニング・プリンス……彼は一体何者なんだ?」


 ミルフィーはバーニング・プリンスに興味津々のようであった。丁度良い。

 今日を持って魔物と戦うという役目をバーニング・プリンスに譲ることにしよう。

 そして、さりげなくバーニング・プリンスの正体を暴いてオカルト部は存命。

 よし、これでいこう。


「ミルフィー、今日からバーニング・プリンスに魔法少女を代わってもらったらどうかな? 強そうだし!」

「いや、それはできない!」

 あっさりとミルフィーが私の提案を否定した。何でやねん。

「はぁ? 何で?」

「一つ、魔法少女の条件は女性であること。『魔法少女』だからね。性差別だなんて言わないでよ。二つ、一度契約すると解約は基本できません。そして、三つ……魔物と戦うなら人数が多い方がいいと思うんだ」


 解約できないってそんなの詐欺も良いところだぞ。例えるならそうだな……よし、やっぱりやめておこう。何だか怒られそうだもん。


「その通りだ、妖精さん!」

 ミルフィーの言葉にバーニング・プリンスは反応した。

 一方、魔物は疲れたのか触手を振り回すのを止めた。

「ば、バーニング・プリンス……もしかして僕のことが見えるのかい?」


 ミルフィーは嬉しそうにビュンビュンとバーニング・プリンスの周りを飛び回った。

 そういえば、忘れかけていたけどミルフィーは魔力を持つ者にしか視認できないんだった。

 バーニング・プリンスがミルフィーのことを見えるということはつまり、彼は魔力を持っているということになる。


「勿論。そして、お互い魔物と戦う者同士、これから協力していこうではないか!」

「うん、そうだね。よろしく頼むよ。バーニング・プリンス!」

 あかん。意気投合して勝手に話が進んどる。助けてくれたのはとても感謝しているが、あんな妙にテンションが高く、痛いファッションをしている人とはあまり一緒には戦いたくない。

「お前ら、何をくっちゃべってやがる!」

 魔物は触手をバーニング・プリンスに振り下ろした。激しい地鳴りと共に砂埃が舞い、たちまち視界が塞がった。

「ば、バーニング・プリンス!」


 流石に死んだのではないかと心配になった私は思わず声を上げる。砂埃が晴れると触手の横でプルプルと震えながら地面で腰を抜かしているバーニング・プリンスが見えた。

 良かった、無事みたいだ……かなりビビっているようだが。

 私の視線に気づいたバーニング・プリンスはすぐさま起き上がり何事もなかったかのように振舞っていた。


「それじゃ、今度は私の方からいこうか。いでよ、魔炎『バーニング・フルフレイム』!」

 驚くことにバーニング・プリンスの両手から炎が放出された。

 メラメラと赤く燃え盛る炎の熱さが私のところまで伝わってくる。

「ぐわああああ! 熱い!」

「焼け死ねーーーー!」


 魔物は最後の抵抗のつもりか四本の触手でバーニング・プリンスの抹殺を試みたが、彼は炎を出しながらもアクロバティックな動きで攻撃を避け続けた。

 よし、これなら何とかなりそうだ。

 しかし、魔物は大ジャンプするとバーニング・プリンスの真上に移動した。


「潰れて死ねー!」

「あああああ! む、無理ー! 魔法少女サキーーー、助けてーーー!」

「咲! 早くバーニング・プリンスを助けてあげて!」

「ま、マジカルキャ……」


 急いで魔法を発動しようとしたが、地面が大きく揺れ動き、先ほどよりもさらに砂埃が高く舞い上がった。

 遅かった……私のせいだ。絶望に打ちひしがれ、ソウルジェムが濁り、魔女になってしまうのではないかと思うくらい落ち込んでいると魔物が真っ二つに斬り裂かれていく光景が目に映った。


「え……ど、どういうこと?」

 真っ二つに割れた魔物の死体の前に立っていたの黄色を基調とした可愛らしいコスチュームに身を纏う銀髪ツインテールの少女であった。彼女の右手には魔物の返り血が付いた西洋剣が握り締められている。

 ちなみにバーニング・プリンスは地面に倒れて気絶しているようであるが、とりあえずは大丈夫そうである。良かった。

「魔法少女……」

 ポツリとミルフィーが呟いた。魔法少女だって? そんなバナナな、いやバカな。

「ちょっと待ってよ、ミルフィー。魔法少女って私以外にもいたの?」

「そうみたい。僕も知らなかったんだけど」

「そうみたいって……そんな無責任な」

 すると、銀髪ツインテールの少女はツカツカと私に近づいて来た。

「どうやら魔法の使いすぎで動けなくなっているみたいね。あの程度の魔物に苦戦するなんて、超弱い。邪魔だし魔法少女辞めた方がいいんじゃない?」

「な、何だって!」

 辞めれるものなら辞めたいがそんな喧嘩腰で言われれば流石に頭に来る。

 私だってこれでも命がけで戦っているのである。

「本当のことを言っただけよ。魔物は凶暴な奴ばかり。甘い覚悟で戦おうっていうならいずれ痛い目を見るわよ。それじゃ」

 銀髪ツインテールの少女はその場から立ち去ろうとした。

「待って! あなたの名前、教えてよ」

「魔法少女オカリ。あんたは確かサキだったかしら? もし、この先も魔物と戦うつもりならせいぜい足手まといにならないようにね」

「く……」

 オカリという魔法少女はその場から立ち去っていった。何とまぁ、腹の立つ言い方をするのだろうか。どこぞの風紀委員長みたいだ。

「咲。とりあえずは魔物を倒せたんだし、良かったじゃん」

「そうだね。帰りましょうか」

「く、喰らえー……バーニング・ファイナル・バーニング……」

 バーニング・プリンスは気絶しながら寝言を呟いていた。起こそうかとも考えたが、面倒くさそうなのでそのまま放置しようと思った。

「ねぇ、せっかくだしサングラス取ってみたら? 誰なのか分かるかもよ」

「そうね、せっかくだし……」


 興味本心でバーニング・プリンスのサングラスに手を伸ばす。一体、誰なのだろう。やっぱりこの学校の生徒なのかな? 

 背丈は魁斗さんに近いけど、こんなハイテンションな人がいつも冷静沈着な魁斗さんであるはずがない。


「は!」

 バーニング・プリンスは突然勢いよく起き上がった。私はびっくりして思わず「ひ!」と悲鳴を上げた。

「ま、魔物は一体どこだ?」

 バーニング・プリンスは周囲をキョロキョロと見渡した。あれだけ激しい戦闘をしていたのに随分と元気そうである。そのスタミナは一体、どこから来るのだろうか。

「ま、魔物なら死んだよ。もう消滅してる」

「そうか。魔法少女サキ。君がやったのかい?」

「いえ、別の魔法少女が倒してくれました」

「別の魔法少女? そうか、君以外にも魔法少女がいるのか……」

 バーニング・プリンスは自身の顎を触り、何やら考え事を始めた。

「ねぇ、あなたは一体何者? どうして魔法を使えるの?」

 バーニング・プリンスは地面に落ちていた黒いハットを拾うと無駄にカッコつけてそれを被る。

「私はバーニング・プリンス。生きとし生けるもの全ての味方さ!」

「そ、そう……」

 バーニング・プリンスは全く答えになっていない説明をした。つーかなんだよ、生きとし生けるもの全ての味方って。反応に困る返答、やめてくれよ。

「魔法は何ていうのかな……小さい頃から使えたんだ。最初はライターくらいの火しか出すことが出来なかったけど今は強い炎を出すことができるようになったんだ」

「ほうほう、それは興味深いね。ちなみに少女だったりしない?」

「残念ながら僕は男さ。妖精君、そして魔法少女サキ。また会おう!」

「あ……ちょっと!」

 私が呼び止める間も無くバーニング・プリンスは立ち去ってしまった。

「咲、今日はもう帰ろう」

「うん、そうだね」


 人気の無い場所で変身を解いた私は帰宅することにした。

 次の日、いつも通り登校するとクラス内は昨日の魔物騒動で話題となっていた。

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