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鉄パイプ

「えーと、前に近くで変わったコスプレをしていた子を見た気がする」

「丸太! 丸太を持ってた。あれはハッキリと覚えてるよ。そのまますぐどこかに消え去ったけど」

「何か一人でブツブツと話していたコスプレイヤーみたいな子を見たかな。やばいから話しかけなかったけど」


 結構、他の人に見られているものだな。それにしても……

「全っ然、美少女って話題になってない! どうしてなの!」


 私はひとり屋上で叫んだ。総じて私の評価は一人でブツブツと丸太を持ってうろついているコスプレイヤーである。

 こんなんじゃ不審者扱いも良いところだ。何とか汚名返上したい。


「咲、しょうがないよ。僕は普通の人には見えないんだからさ」

「それはそうだけど……」

 ミルフィーは私や魔物といった魔力を持つ者にしか視認できないのである。だからこそ、他の生徒から独り言を呟いていたと思われたのだろう。実に良い迷惑である。

「あの佳織って人に魔法少女の存在を認めさせないといけないんでしょ? 随分メンドくさいことになったねー」

「そんな他人事みたいに言わないでよ。私が魔法少女だってことがバレてもいいの?」

「僕は別に構わないよ。魔法少女がバレることについて、ペナルティとかあるわけじゃないし」


 ミルフィーの言葉を聞いて、一瞬オカルト部のみんなに自分が変身しているところを見せてみようかと考えたがすぐに考えを改めた。

 さすがに自分が魔法少女だということを知られれば、間違いなく今後の学校生活に支障をきたす。


「ミルフィーが良くても私がダメ。いっそ、学園内で魔物でも出てくれれば佳織さんも認めてくれるかもしれないんだけどなぁ」

「あははは。そんな都合良く出るわけないよ」


「キャー! 誰か助けてー!」

 突然、グラウンドから悲鳴が聞こえた。私はフェンスに近づき、下の様子を確認すると、何とグラウンドで巨大なタコのような魔物が墨を撒き散らし、生徒に襲いかかっていた。

「まさか本当に学校で魔物が現れるなんて……」

「咲! すぐに魔物を倒しに行くよ」

「そ、そうだね!」


 私はすぐさま変身をしてグラウンドへと向かうことにした。

 向かう途中、逃げ惑う生徒達と何度かすれ違ったが誰も私には全く目もくれず、慌てて逃げていく。少し寂しい。

 生徒の中には墨を掛けられたのか真っ黒くなっている者もいた。

 魔物は触手を使って、グラウンドに置いてあるサッカーゴールを破壊していた。


「ぐははは! このオタコパス様がこの学園を滅茶苦茶にしてやるぞー!」

「やめろ! そこの魔物。この魔法少女サキがお前を粛清してやる! 覚悟しろ」

「魔法少女? そうか、お前が。こんなところで会えるとはラッキーだ。お前は逃さないから覚悟しろよ。全ては偉大なる魔王様の為に!」


 魔王様ね……ミルフィーから何度か話を聞いたことがある。

 魔王はこの世界のどこかに潜んでおり、魔物を統括しているそうである。


「魔王の居場所、あなたは知ってるの?」

「残念ながらこの俺様も知らない。もっとも、知っていても教えないがな。それじゃ、お喋りはこれくらいにしていくぞ!」

 魔物は墨を発射してきた。横にジャンプし、墨を避ける。さらに、真上からは触手が迫りくる。

「とう!」

 後ろにバク転して何とか回避する。すると、腕や足から鈍い痛みを感じた。

「あた、あたたた……」

「咲! どうしたの?」

「筋肉痛が……今朝、マジカルキャノンを使った影響っぽい」

 朝の時よりは多少マシになったとはいえ、本来はマトモに戦えるような状態ではない。

 短時間で決着を決めなくてはならない。

「いでよ、魔法の武器」


 真横に発生したピンク色の魔方陣に手を突っ込み、武器を取り出す。来い、レア武器!

 出てきたのは鉄パイプだった。鉄パイプ、鉄パイプねぇ……


「うっわ微妙……」

 ハリセンよりかは幾らかマシという程度である。もっと良い武器が欲しかった。だが、今はこれで何とかするしかない。

 膝を大きく曲げ、高らかに跳躍する。振りかぶって鉄パイプを魔物の脳天にぶち込んだ。

「くたばれ!」

 魔物の頭はムニュッと凹むが全く痛そうな素振りを見せず。奴は触手を私の身体に巻きつけてきた。

「は、離せ!」

「ふはははは! こんなんが数多の魔物を打ち破ってきたっていう魔法少女の力かよ。弱くてがっかりだなぁ」

 力を振り絞って何とか抜け出そうとするも抜け出せなかった。締め付ける力が徐々に強くなる。

 まずい、これは……今まで一番ピンチかもしれない。

「咲、大丈夫か?」

「ミルフィー、助けて……」

「え、えぇっとその……それじゃ、応援します!」

「はぁ?」

 応援しますって何だよそれ。助けろよ。アホかよ。応援しとる場合ちゃうやろ。物理的にこの状況を何とかしろや。

「フレ、フレ、咲! 頑張れ、頑張れ、咲! 負けるな、負けるな、咲!」

「お前、うるさい!」

「うわああああ!」

 魔物はミルフィーに墨を吐くと、そのままミルフィーは遠くに飛んで行った。全くもって役に立たない。

「ミルフィー……」

「さてと、そろそろトドメを……」

 ちくしょう……武器は使えない。ミルフィーは無能。怒りで頭に血が上りそうだ。

「ふん!」

「何!?」


 私は力づくで触手を脱出した。怒りを感じたおかげでどんどん魔力が漲ってくる。地面に落ちた鉄パイプを拾い、魔物に向けた。


「さーってと……それじゃ。第二ラウンドと行こうか。それとさ、一つ聞いていい?」

「な、何だ?」

「あなたが吐き出しているその墨、身体に浴びると何かやばいことってあるの?」

 馬鹿正直に答えてくれるとは思っていないが、試しに魔物の能力について訊いてみることにした。

「うふふふ……よくぞ聞いてくれた! この墨はな、洗ってもなかなか落ちないのだ! 一度白い服に付いたら最後、超一流のクリーニング店に出しても落ちることはない。どうだ、滅茶苦茶困るだろう?」

「あははは! なるほど、要するに何も無いってことね。安心した」

「うふふふふ!」「あはははは!」

「何がおかしい! この魔法少女がぁ!」


 魔物が墨を闇雲に撒き散らす。あーあ、グラウンドが滅茶苦茶になっちゃうな。

 ま、か弱い乙女だし? 汚い墨はとりあえず避けておく。

 さらに左右と上空から計三本の触手が迫ってきた。斜め上方向にジャンプし、避ける。触手の上に乗り、それを伝って、魔物に接近する。


「逃すか!」

 正面に来る触手を鉄パイプフルスイングで捌く。衝撃に耐えることが出来なかったのか、鉄パイプは思いっきり曲がってしまった。

「けど、これで王手。一気に決める!」

 魔物の目の前まで接近することが出来た。掌に体中の魔力を集中させる。魔物は危険を察知したのか、墨を吐いてきた。

「マジカルキャノン!」

 大爆発が巻き起こる。マジカルキャノンが墨とぶつかり、私は飛び散った墨を浴びることになってしまった。

「うわぁ……最悪」

 魔物を倒すことには何とか成功したが、今朝以上の筋肉痛とさらには倦怠感まで感じた。しかも、腕や脚といった至るところに墨が付いてしまった。

「咲! 何とか倒したんだね!」

 真っ黒くなったミルフィーが私の元にやってきた。おお、黒い方がカッコいいじゃないか。

「まぁね。それじゃ、帰ろうか」

 早く帰って休みたい。しかし、煙が晴れると生きている魔物の姿が見えた。魔物の触手は四本無くなっていた。

「う、嘘……!? 咲のマジカルキャノンをまともに受けたのにまだ生きてる?」

「や、やばい……逃げないと」

 しかし、足が痙攣して上手く動かすことが出来ない。

「絶対に逃がさないと言ったはずだ、魔法少女。だが、正直危なかった。お前の強さに免じて敬意を評して、すぐにトドメを刺してやる!」

「咲ー! 逃げてーーー!」


 上空から降り注ぐ触手を受けることを覚悟した――その時だった。誰かが私を抱きかかえ、助けてくれた。

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