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伊藤咲は魔法少女

「いっけなーい! 遅刻、遅刻!」


 私の名前は伊藤咲いとうさき。どこにでもいる高校一年生! 恋に部活にどれも一生懸命な乙女である。

 けど、そんな私にも誰にも話せない秘密があった。


「大変だよ咲! 魔物が、魔物が近くにいる!」

「……」

「ちょっと、咲! おーい、聞いてる!?」


 私の耳元で喚き散らしているのはミルフィーという翼の生えた白い猫みたいな生き物である。

 ひょんなことから私は魔物と呼ばれる恐るべき生き物と戦う生活を送るハメになった。


「ねぇ、ミルフィー。私ね、今日遅刻したらマジでやばいの。略してマジやばなの。今月でもう三回遅刻してるの。今日も遅刻したら本当に担任の熊谷に怒られちゃうの」

 担任の熊谷は遅刻に関してとても厳しく、少しでも遅刻しようものなら烈火のごとく反省文を十枚書かせてくるキ◯ガイ教師である。

「それなら咲、大丈夫だよ。魔物はすぐ近くにいる。五分以内に倒せばきっと間に合うよ!」

「五分以内ね……それ、本当なの?」


 本当は放置したくて、ホーチミンになりたかったがきっと無視すればミルフィーはさらに喚き散らすことだろう。

 え、ホーチミンが何かって? 私も忘れちゃった。世界史の単語だったと思うけど……ググってどうぞ。


「うん。僕を信じて!」

「あいよ。それじゃ、ミルフィー案内よろしく」

 私は走る速度を速めることにした。魔物なんざ五分どころか秒殺してやるわい。

「そこの角を右、そしてその先、左斜め方向」


 ゴーグルマップのごとく道案内をするミルフィーに従い、魔物がいる場所へと向かっていった。

 やがて、広い空き地に到着すると、そこにはいくつもの巨大な穴が出来ていた。


「こ、これは一体……」

 軽い振動と共に穴から何かが出てきた。それは両手に鋭い爪を持ちモグラのような二足歩行の生き物――魔物であった。

「おっと、こんなところで人間に会うとはな」

「お前、一体何をしてるんだ!」

 ミルフィーがプンスカと怒りながら訊いた。魔物はフンと鼻を鳴らして笑った。

「見ての通り、穴を掘ってこの辺りの土地をダメにしてるんだよ。そうすれば人間どもは困るだろう?」

「そう。随分と迷惑なことをしてるんだね。もしかしたらいつかここにも商業施設が建てられるかもしれないのに、なんてことをしてくれるの!? 田舎にとってここは貴重な土地なんだよ。分かる?」

 この土地には見覚えがある。確か二ヶ月前にコンビニがあったはずだ。まだ使える見込みはあるだろう。知らんけど。

「ああ、分かるさ。だから俺達魔物はこうして悪いことをしているんだ。文句あるか?」

「ある! あなたには少しお仕置きが必要みたいだね」

「ほう。ならばどうする気だ?」

「今から……あなたのことをぶっ倒す! いっくよ、マジカルチェンジ!」

「たた〜かえ〜正義のヒーロー、魔法少女〜サキ〜」


 ミルフィーは超絶下手くそな歌を披露した。耳障りなのでアサップでやめてもらいたい。

 私の身体はプリティでキュアキュアに出てくるような眩い光で包まれるとピンクを主体とした可愛らしいコスチュームに身を包んだ。


「魔法使いサキ、参上! 鳥人ネーガーに変わってお仕置きよ!」

「咲……それ、隣の県のヒーローだよ。うちの県は……ガ」

「うっさい! どっちも同じようなもんでしょ。それよりモグラ野郎。今からあなたをぶっ倒すけどいいよね? 答えは聞いてあげないけども! いでよ、魔法の武器」


 私の目の前にピンク色の魔方陣が出陣し、その中に手を突っ込む。

 これは魔物と戦うための強力な武器をランダムで生み出すことができるという素ん晴らしい魔法なのである。それじゃ、早速取り出してみよう!

 何が出るかな、何が出るかな、んふふふふーん。

 そうして、魔方陣の中から出てきたのはハリセンであった。ハリセンであった。腹が立ったので二回言いました。ふざけんなよクソ野郎が。


「咲、それハリセンだね! よし、これであいつのことをぶちのめしてやれー!」

「そうね! よーっし、いくぞー……って、なんでやねーん!」

「あだーーー!」


 私はミルフィーのことを思いっきりハリセンでぶっ叩いた。まさか、こんなゴミみたいな武器が出てくるなんて驚きである。

 その辺にある石でも投げた方が遥かに良い気がする。


「こんなので一体、どうやって戦えって言うの! ってかこの魔法、本当しょうもない武器しか寄越さないよね!? 前の時なんか丸太だよ丸太! 吸血鬼が蔓延る島かい!? みんな丸太は持ったな! いっくぞーってか。あぁん!?」

 武器召喚の魔法はこのように大概使えない武器を寄越してくるのだ。ほとんどが無いよりかはマシというレベルのものばかりである。

「だ、大丈夫だって! そのハリセンは普通のハリセンよりも強力なやつだから。魔物にだって対抗できるから! どんなこともまずはやってみなきゃ分からない……諦めたらそこで試合終了ですよ」

「ミルフィー先生。今すぐ逃げたいです」

「戦って頼むから! 咲しかあいつを倒せる奴がいないの! 頑張って!」


 くっそ、めんどくせぇ。だが、早いところこいつを倒さないと学校に遅刻してしまう。

 熊谷にグチグチ言われるのは嫌だ。やってやる。


「もーこうなりゃヤケクソだ。いっくぞー!」

 私は魔物に向かって走り出した。説明しよう! 変身すると通常時よりも十倍ほど早く動くことが可能となる。

 魔物の頭を叩くと、魔物は思いっきり吹っ飛び、コンクリート塀にぶつかった。

「てめぇ、よくもやってくれたな……」

 あらやだ。このハリセン、めちゃくちゃ強いじゃないの。バカにしてほんの少しばかり申し訳ないと思った。

 この調子ならいける。私は魔物に二撃目を与えようと思った時、魔物は穴を掘り、地面に潜ってしまった。

「え……ちょ、ちょっと! ずるいわよ! 出てこなさい。コラ!」

 私は穴近くの地面をハリセンでバンバンと叩いた。すると、私が立っている地面がボコッと盛り上がった。

「オラァ!」

 穴から飛び出した魔物は私を私の肩を掴み、地面に押し倒してきた。不覚であった。まさかこんな単純な手に陥ってしまうとは。

「キャア! こら、離せ!」

 魔物の力は想像以上に強く、幾ら力を込めても引き剥がすことができない。

「咲! 大丈夫かい?」

「見ての通りだよ! 全然大丈夫じゃない。何とかして!」

「よーし、ミルフィーアタック!」

 ミルフィーは翼を羽ばたかせ、魔物に体当たりを試みた。

「邪魔だ!」

 魔物はミルフィーを手で払いのけ、ミルフィーは頭から地面に埋まっていった。

「おいおい瞬殺だよ……」


 ミルフィーに期待した私がバカだった。しかし、この状況は中々に厳しい。何とか体勢を立て直したいところであるがどうすべきか。考えろ……考えるんだ私!


「どうだ、怖いか魔法少女よ。大人しくする気になったか?」

「一体、私をどうする気なのかな。美少女であるこの私に対して、あんなことやこんなことをする気?」

 すると、魔物が「プクククク」と笑い出した。

「お前が美少女だと!? 笑わせるな。せいぜい、中の下……ぎゃ!」

 魔物の股間に強烈な蹴りをお見舞いした。良かった。どうやら急所は人間と同じみたい。

「おい魔物……貴様は超えてはいけないラインを超えてしまった。今から貴様をムッころす。アーユーレディ?」

「ちょっと、待っ……あれはなんていうか言葉の綾というか……」

「せいや!」

「あたぁ!」


 すかさず魔物の頭にハリセンを叩き込む。魔法少女の力は感情により大きく変動する。

 今の私は激しい怒りに満ちている。いつもよりも遥かに強い力を出すことができるのだ。

 続けざまにハリセンを十発叩き込み、魔物の頭には大きなコブが出来上がった。


「いてぇな、このブス野郎が! これならどうだ!」

 魔物は地面に身を潜めた。こいつ、ブスって言いやがった。ブスって言った。絶対にゆるさん。

「ケチョンケチョンにしてやるわ! ミルフィー、今からこいつに必殺魔法を使うよ!」

「ほ、ほどほどにするんだよ……」


 必殺魔法を使うと、身体中が激しい筋肉痛に襲われるため、一日に二回が限界である。

 奴は私に攻撃するために一度、地面から出てくるはずだ。集中しろ、全統一……そう、あれだ。何だっけ、泡のブレス? いや、今はそんなことはどうでもいい。

 自分の背後から『ボコッ』という音が聞こえてきた。後ろから攻撃する気か。


「とう!」

 私は膝を大きく曲げ、マリオを凌駕する程の高いジャンプを披露した。

「な、何!?」

 魔物は私が上空にいることに驚いていた。魔物に焦点を合わせ、右手に魔力を込める。掌にピンク色の球形が出来上がる。

「マジカルキャノン!」

 手からピンク色の魔弾を発射した。

「ぐわあああ! これが魔法少女の力か!」


 魔弾は見事魔物に直撃し、跡形も無く消滅させることに成功した。

 これにて一件落着。戦いの影響で空き地がえらいことになったが、まぁ別にいいだろう。

 きっと誰かが均してくれるはずだ。


「さすが咲! よく魔物を倒してくれたよ」

「まぁね。それより、早く学校に行かないと……」


 しかし、必殺技を使った影響か身体中が痛い。何とか学校に辿り着くも結局遅刻してしまい、担任の熊谷にこっぴどく怒られ、結局反省文を二十枚書かされる羽目になった。

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