落ち着かない日々
ヒカリから指輪を貰った翌日からみずきの周りに少しの変化があった。
みずきがソニプラで買い物をしていると、
「あ、あの子じゃない?こんな地味な子なの?携帯の位置情報がそうだからそうよ。ヒカリをたぶらかさないでね。」
と女性二人組がみずきの側で話していた。
ヒカリからのメールによると、ヒカリがみずきの家の前で指輪を投げた事がインターネットの匿名の掲示板で噂になっている様だった。嘘とも本当ともとれる、混沌とした場所なので、表沙汰にはなっていないので、みずきの家に記者が押し寄せる様な事はなかった。
それでもみずきは自分の周りに起こった変化に敏感だった。
みずきの行きつけのコンビニもいつもより人が多かった。
ただ単に混雑している時間にコンビニに寄っただけかもしれないのだけど、
それでも、みずきは周りに自分を見張っている人がいると感じていた。
その事はみずきを段々と追いつめていった。
みずきの家の前で「こんな子がヒカリの彼女だなんて認めたくない」と叫んでいく人も時々出没した。
みずきはジャージで出歩く事を辞め、コンビニに行くだけでも、まるで彼氏とデートをするかの様なお出かけ着を着て行く事もあった。
その度にみずきは心細くなってヒカリにメールを送っていた。
その度にヒカリは「大丈夫だから安心して」と優しい言葉を返してくれた。
だけどみずきは全くもって安心出来なかった。
ヒカリの様に人から注目される事に慣れていないみずきは、落ち着かない日々に心をすり減らしていった。
みずきはウィンドウショッピングを楽しむ為に原宿の裏通りを歩いていた。前から派手な3人組の女の子の集団がみずきの方に向かってくる。Hip hopが好きそうなその子達はダボダボのズボンにトレーナーを着ているもののみずきからみるととともお洒落に見えた。みずきとすれ違いざまに3人は止まってみずきに立ち塞がった。「あんたがみずき?ヒカリにこれ以上頼ったり近づいたりしたら、ぶっ殺すからね。」とみずき胸倉を掴んで言い捨てて去って行った。
脅迫なんてされた事のないみずきは恐怖に怯え、ヒカリにも何も言う事が出来なかった。
そのまま家へと直帰した。
携帯のメールも傍受されている様にみずきには思えた。
何日か後、ヒカリからみずきに電話があった。
「大丈夫だった?みずきの事を脅した3人はとっくに分かってるから心配しないで。何かあったらすぐ俺に連絡して。」
「怖かった・・・。すぐに連絡するね。」
「俺はお前が愛しくて仕方ないんだ。お前の為にしたくない事なんて何もないよ。」
みずきは胸がいっぱいで何も返事が出来なかった。
それでも、脅された事が怖くて、みずきは事あるごとに、自分が誰かに殺されるんじゃないかと怯えて、被害妄想に取りつかれる様になっていった。
大学からの帰り道、本厚木からの住宅街をアパートへ向かって歩く途中、
「ヒカリに彼氏みたいにして頼っちゃいけないんだ・・・。」
みずきが独り言の様に呟くと、
「彼氏みたいにして頼ってるじゃん。」
と後ろから声がした。
みずきが振り返るとそこにはスラッとした長身のヒカリが立っていた。
「・・・・ヒカリも私の事殺したいの?」
「なーんで俺が可愛いみずきを殺さなきゃいけないの?」
「スターの俺が傍にいるんだ、警護の人何人いると思ってんの?安心して家帰って休め。」
「・・・。」
「今日は俺は帰るけどあまり心配するな」
「うん」
みずきは安心してそれ以降、不安になる事はなくなった。
それでも、ヒカリには近づいたらいけない気がして、連絡先は消去して、ファンとしてヒカリを応援するだけにしようと心に決めた。