キス
渋谷のカラオケボックスには他に何組かの若いカップルやギャル風の女の子のお客さんが待っていた。
流石にヒカリはゲームセンターを出る時にサングラスをかけた。
受付に行くと名前を書いてくださいと今時の髪型をした男の子に言われ、とっさにヒカリは
「お前名前書いて」
と言ってみずきにペンを渡した。
みずきが
三沢みずき 17歳
と書くと
「へぇ〜お前みずきって言うんだ」
「高校生?お子ちゃまはもう寝る時間でしょ。」
と言ってみずきの腕を引っ張り外へ連れ出した。
みずきが携帯の時計を見るともう23時だった。
店員はびっくりするもナンパかやれやれと言った様子で2人を見ていた。
「どうしたの?」
とみずきが不思議そうに聞くと
「どうしたのじゃねーよ。なんで高校生がこんな時間に出歩いてるんだよ。送ってくから」
と不機嫌そうにヒカリはスタスタ歩いて行った。
みずきは戸惑いながらもヒカリに付いていくと、
ヒカリが車のキーを押すと、ピッと言う音とともに、
およそヒカリには似つかわしくない4WDのオフロードカーのライトが点滅した。
「何止まってるんだよ、乗れよ」
と言ってヒカリは助手席のドアを開けた。
みずきは恥ずかしさを隠す様に黙って車に乗り込んだ。
「どこに住んでるの?」
「府中」
「府中?どこだよ?田舎ものか?」
ヒカリの機嫌が治っていた事にみずきはほっとした。
長野出身のヒカリは東京都下の地理をあまりよく知らない様だった。
「東京だよ」
みずきは少しむっとして答えた。
「住所!」
「府中市…」
ヒカリは手慣れた様子でナビに住所を入力した。
「へぇ〜東京って23区だけじゃないんだな」
ナビゲーションをセットしながらヒカリは意外そうにそう言う。
「そうだよ、電話番号も03じゃなくて、04なの、
同じ東京なのに酷いよね。」
みずきはヒカリの反応に安心して
普段から思ってる事を伝えた。
「差別だな。」
ヒカリは笑っていた。
みずきはきゅんとなって何も言えないでいた。
都心のイルミネーションが流れる様に後ろに去っていき、みずきの見慣れた明るさになってゆく。
「…もうお家着いちゃう…まだ帰りたくないな…」
ふとみずきの思いが口をついて出た。
「な〜に大人みたいな事言ってるんだよ、
お子ちゃまはねんね、ねんね。」
助手席から見るヒカリの横顔は鼻が高くて、
とても綺麗にみずきには見えた。
車がみずきのよく知る景色に変わると、みずきは今日一日の事を思い返していた。
「お前変わってるよな」
不意にヒカリが切り出した。
「ライブ来るほど俺のファンなのに、キャーキャー騒がないのな。なんで?まぁ面白いからいいんだけど。」
「着いたよ」
と言うなりヒカリはみずきを抱き寄せてキスをした。
みずきがボーっとしていると
「はい、これ俺の連絡先、早く寝ろよ」
と言って運転席から助手席のドアを開けた。
みずきにはヒカリが何を考えてるのか全く分からなかった。