出逢い
「まだ来ないね」
「まだ来ないね」
緑とみずきが首を長くして待っていると、
張り巡らされたロープの隅の方から、ゆっくりと高級車が姿を現した。
「きたよ!」
「きゃー」
周りの女の子達が騒ぎだす。
ゆっくりと進む車が次第にみずき達の方に近づいてくる。
みずきはヒカリを一目見たくて車の中を覗き込んだ。
そこにはサングラスをかけたヒカリが窓側に座って
こちらを向いていた。
(え…?こっち見てる?)
みずきの時が止まった。
「どうしたの?」
ふと緑に話しかけられて、みずきは我にかえり、
緑の方を向いて笑顔を向けて
「なんでもない」
と言いつつも、こっち見てるよぉとドキドキしていた。
周りの女の子たちは車に向かってキャーキャー言っていて車の中を覗き込んでいる人は居ない様に見えた。
「ほら、車通り過ぎちゃうよ」
「うん」
またヒカリの方を向くとやっぱりこちらを向いていた様な気がみずきにはした。
サングラスをしているのでヒカリが何処を見ているのかは分からなかったけど、照れながらにこにこしてヒカリを見るミズキだった。
緑は何か気づいたのか何も気づいていないのかみずきには分からなかったけど、ノンあの車乗ってたかなと嬉しそうだった。
駅まで緑と一緒に歩くも、みずきはなんとなく、帰り難いそんな気持ちだった。
「楽しかったね。また明日部活でね。」
「うん、また明日ね」
緑と別れた後、みずきは家に帰りたくなくて、
ゲームセンターへと向かった。
みずきの両親は成績の良いみずきに対して安心しきっていたのか、みずきに対しては放任主義だった。
2歳年下のやんちゃな弟の事でていっぱいで、
みずきが多少遅く帰っても何も言わない。
みずきがゲームセンターで太鼓を叩いていると、
後ろから手拍子が聞こえた。
この人リズム感正確だな…と思いながら
振り向くと背の高いすらっとした切長の目の若い男がにこっと笑ってこちらを向いていた。
「さっきこっちじっーと見てた子じゃん、
たいこ下手だなぁ」
それはヒカリだった。
みずきはびっくりしてヒカリをやっぱりまたじっーと見て止まっていた。
「かして」
ヒカリが太鼓の棒をみずきから奪っうと、
「どの曲がいいかなー」
「あっやっぱりこれだよね」
と無邪気に自分の曲を選択して太鼓を叩き始めた。
…大胆な、周りに気付かれるって
みずきはキョロキョロ周りを見渡したけど、
まばらにいる若者はみな、自分達の世界に入り込んでいて、
誰もヒカリをヒカリだと思っている人はいない様だった。
トン、トン、カン、カン
「すごーい」
それはみずきの好きな「君を好きな気持ち」だった。
みずきの中の驚きも緊張も一瞬で飛んでいった。
「でしょ」
「うん」
ヒカリはいたずらっぽくみずきを見たかと思うと、また太鼓の楽譜ともいえる画面に目をもどして太鼓を叩きながら話し始めた。
「ストレス溜まるとさ、こうしてここで太鼓たたくの」
「誰も実物大の俺を見てない。売れるって事はそういう事で当たり前なんだけどさ、時々やるせなくなるんだよね」
ヒカリの背中はやっぱり孤独感を発している様にみずきには見えた。
「そんな事ないよ、私はヒカリの歌詞好きだよ。
すっごく心が綺麗な人だと思ったし、見た目だけだったらライブに行くほど好きにならないよ」
「好きな気持ち」はもう終わっていたけど、
ヒカリは少し画面を見つめていた。
「カラオケ行こうよ」
またいたずらっぽくくったくのない笑顔でヒカリが言った。