席替え
ひよりと登校して、道中でかおりやみなに会って、教室前で別れた。
学校生活はここから始まる。
今日のチャレンジはずばり、みんなに挨拶をすること。挨拶は会話の始まりであり、友情関係の始まりなのだ。たぶん。
作戦はバッチリ立ててきた、さあ、あとは扉を開けるだけ!
「開ける……だけ……」
「早く入りなさいよ」
ビックリした。後ろに立たないでよ……忍かな?
いやー、すまないすまない。と、言いながら振り返った。
その子は、髪は黒色まま黒色で、その艶のある長い髪は綺麗に切り揃えられていて、真っ直ぐ腰のあたりまで伸びている。
まるで天使のようだとは、よく言ったものだ。て、あれ? 何か既視感が。
その子は、私の顔を念入りに見ると、驚いた顔をして言った。
「なんであなたがここに居るのよ……」
やっぱり、知り合いだったみたいだ。
「どこかでお会いしましたっけ?」
わざと白々しく言ってみた。
「正月、私のベッド」
つい手をポンと叩いて感嘆の声を上げた。その子と想像していた子の顔を徐々にリンクして、それが本当だということを思わせた。
私は顔を見られないように隠した。嫌な笑いが口から漏れ出ていたことには気が付かなかった。
「どうしたの? 何か怖いのだけれど……」
その子は怪訝な顔をして、不安そうに私を見ていた。
「そんな事ないよ。これからも、ヨロシク、ね?」
不安そうに顔を歪ませながらも、ええ、と返事した。
友達が増えたところで、私たちは教室に入った。
挨拶作戦は……また今度にしよう。代わりと言ってはなんだけれども、隣人の魔王様に挨拶をしておいた。
「ああ、おはよう、眷属よ」
魔王様は今日も相変わらず怪しい格好をしていた。私の隣にいる子を視認すると、僅かに顔を引き攣らせた。それを不思議に思ったけど、気にしないようにして、友達を紹介した。
「この子はお嬢様、千人に一人のツッコミのキレる物語の要なの。仲良くしてあげて?」
「ぶはっ」
突然くしゃみをした。
「クックックッ……なるほど、そういうことか」
納得がいったという風にひとしきりに頷いたあとに、魔王様は私の肩に手を置いて私に、その功績を讃えよう! と言った。
「ドユコト?」
言っている意味がよくわからず、首を傾げながらそう聞き返すと、表情を改めて親指をピンと立てて、白い歯を光らせながらキメ顔で、よくやった! と言った。
説明を求めて、お嬢様の方を見ると、遠い目で窓越しに空を見上げていた。
全く様子がおかしい人達、これから忙しくなりそうだと、そう思った。
定刻にさとちゃん先生が来て、朝の会が始まった。今日の連絡事項をさらっと流して、朝の会をさっさと終わらせた。
魔王様との会話もそこそこに授業が始まった。
「今日は席替えをしま〜す!」
「なんと?」
魔王様との突然の別れ、そして、新たな友達を作るチャンスでもある。
突然の別れは悲しいけれど、これも社会に揉まれるということだと、お父さんならきっというだろう。せめて、別れの挨拶をしておこう。
「魔王様」
心の整理をしてから、声を掛けた。
どうお別れしよう、直前になってそう迷い始めてしまった。
魔王様は、私の表情の変化に気づくと、優しく笑いかけてくれた。
その瞳の溢れそうな水に気付いてないみたいで、それがなんだかおかしくてつい笑ってしまった。
「またいつか会おうね!」
ついにダムが決壊した。
「今世の別れでもないのに、なに感涙の流れになってるのよ」
揃って、間抜けな声で確かに〜と言った。
その後、なんとも言えない空気に包まれながらしばらくすると、席替えが始まった。
席替えのやり方は単純で、出席番号順にクジを引いて席を決めるという方法だった。
「魔王様はどの席だったの?」
私がそう聞くと、待ってましたと言わんばかりに目を輝かせて踏ん反り返った。
「窓際、一番後ろ!」
「うわぁ」
お嬢様が間髪を入れずにドン引きした声を上げた。それを不思議に思いつつも、よくわからないまま祝福しておいた。
「お嬢様はどうだったの?」
お嬢様は顔を伏せて、聞こえるか聞こえないかぐらいの大きさで何か言葉を濁した。
少したって、何かを決心したという風に顔を思い切りあげて、こう言った。
「コイツの前の席よ」
なるほど?
「窓際辺に行けたら喜ぶべきじゃないの?」
「普通はね」
二人の関係性がますますややこしく感じた。
「冬木さん、次」
「はーい」
あっという間に私の番が来た。
くじの箱は、お店でよく見るような手を突っ込むタイプのものだった。さりげなく中を覗いてみたけど、くじの中身はわからなくなっていた。
一つ息を吐いて、くじを引いた。
くじの紙と一緒に目を開けると、そこにはーー。
◇◇◇
全員がくじを引いたら、次は先生の号令で一斉に移動を開始した。机ごと移動するタイプで、場はすぐに混雑した。
みんながようやく落ち着いたところで、私は隣の人に挨拶をした。
「来ちゃった」
「仕組んだわね?」
そう返したお隣さんの容姿は、まるで天使のように儚く美しい、美少女であった。
やっぱりデジャヴ。
「席が変わってもよろしくな、眷属よ」
「うん!」
そんなこんなで賑やかに談笑しながら、初席替えは都合良く終わった。




