おえかき
「おはよ! ゆきちゃん!」
今日も今日とてバスで隣に座ってきたのは、もうすっかり顔馴染みとなったひよりだ。
「おはよ」
「ねぇゆきちゃん、こんどうちにあそびにこない?」
「いや」
食い気味だった。
「ゆきちゃんちからちかいよ?」
「いえからでるのがめんどくさい」
「じゃあひにちきまったらいうね!」
もうすっかりゆきの扱いに慣れてきたひより。
……いや、最初からこんな感じだったかな。
「うちきたらなにしてあそぶー?」
「ひるね」
「おえかきしよー」
「うん」
かくいうゆきも、ひよりの対応に慣れてきたようだ。
◇◇◇
「今日はペアを作ってお互いの似顔絵を描きましょ〜!」
『はーい!』
先生の指示を聞いて、皆んな一斉にペアを作り始める。
「えーと、ひよりは...…」
ひよりを探していると、いつの間にか大勢に詰め寄られていたひよりを発見した。
「ごめんねゆきちゃん……つぎはぜったいいっしょにやろうね!」
ひよりは人懐っこい性格のおかげか友達がたくさんいる。
その人気ぶりから、こうしてペアを組めなかったことが今までにも何回かあった。
「うん」
なら、今日はあの子と組もう。
実はゆきは一見ぼっちにみえるが他にも友達が何人かいるのだ。
「かおり、ペアくも」
「ん? ゆきちゃん! いいよっ」
かおり、黒髪ロングの落ち着いた雰囲気の子だ。
「あそこのつくえでやろ!」
「うん」
そうしてお絵描きが始まった。
◇◇◇
ゆきたちは、話半分に似顔絵の製作を進めていた。
「ゆきちゃんとひよりちゃんってすごいなかよしだよね」
「ひよりはひとなつっこいからね。きづいたらああだった」
「うふふ、そっか〜。いいな〜。わたしももっとゆきちゃんとなかよくなりたい」
「もうなかよしじゃん」
「だから、もっとだって」
「ん~?」
ちょっとよくわからない。
「うふふ、ならこんどうちでいっしょにあそばない?」
「いや」
「え~?」
少し休憩しようと、画板から視線を外すと、似顔絵製作を終えたらしいひよりがこちらに向かってきていた。
「ゆきちゃんにはごういんにいったほうがいいよ!」
どうやらゆきに対する接し方を伝授しに来たようだ。
「ごういんに?」
「そう! さそってもどうせおっけーしないから、さいしょからおっけーだと思ってはなしをすすめるの! ほんとにだめなときはだめっていうからね!」
一度断ってるはずだけど。
「うふふ、ありがとう。ひよりちゃん」
「ふふーん! どういたしまして!」
わかられてしまった。
「うふふ、ふたりともすっごくなかよしだよね」
「ずっといっしょだったからね!」
ひよりとかおりがそんな話をしている間にゆきは似顔絵を完成させた。
「できた」
「できたー? みせてー!」
「わたしもみたい!」
「ん」
ゆきが描いた似顔絵を見せると2人は驚愕した。
「やっぱりうまいね!ゆきちゃん!」
「ほんと、じょうずにかいてくれてありがとう!」
「いえいえ」
いつも外に連れ出そうとしてくるひよりの対処ため、しょうがなくやっていたお絵描きの成果が身を結んだようだ。
「わたしもできたけど、ゆきちゃんほどじゃない……」
かおりの絵を見てみると、言うほど下手ではないが、上手いともいえないクオリティだった。
でも、
「きもちがだいじだよ、ありがと」
「えへへ、こちらこそありがとう」
「うん」
少しだけ心の距離が縮まった。