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ゆきちゃん  作者: たけお
幼稚園編
15/23

クリスマス

 ……はっ!


「ねてしまった」


 口元を拭いてすぐに起き上がる。


「クリスマスがことしもやってきたー!」


 ルンルンで靴下の中を弄った。





 しかし、予想していた感触はなかった。


「あれ?」


 何もないというわけではなく、中には紙のようなものが入っていたから、取り出した。


「『クリスマスプレゼントは頂いた!返して欲しければ』ってええええ!」


 どうやら怪盗が盗んでいったらしい、ていやいやそんなことある?


 八つ当たりで赤い大きな靴下を適当な放り投げる。


『廊下に出て上を向いて見よう』


「へんなの……」


 しょうがないので言いなりになってやる。


 ガチャリと扉を開けて自分の部屋から出た。そして上を向く。


 すると、そこにも張り紙があった。


『二階のトイレに行こう』


 私の部屋も二階だ。そしてついでにトイレをしておこう。


「そこにいるんだろう!バッ!」


 丁寧に効果音までつけてトイレの扉を豪快に開ける。しかし特におかしな点はなかった。


 不審に思いながらトイレの扉を閉めて便器に座った。


「あ!」


 張り紙はトイレの扉に貼ってあった。完全に私の行動が読まれている。一応、警戒レベルを2上げておいた。


『冷蔵庫の張り紙を読もう』


「はいは〜い」


 なんだか楽しくなってきた。


 私はスキップしながら階段を駆け下りて、冷蔵庫の前まで行った。


『アイス食べてもいいよ』


「やったー!」


 苦戦しつつもアイスを取り出して、リビングのソファに座りながら頂いた。


 そういえば次の指令は?と冷静になって思ったけど、アイスが美味しかったから何でもいいや。


 しばらく食べ進めていると、とうとうその時が来てしまった。

 ーー最後の一口だ。


 何事にも終わりがある。だからこそ美しいものだとお父さんは言っていたが、いまその意味を理解した。私の目には、アイスがとても儚いものに見えていた。


「ありがとう、アイス。さよなら」


 別れの挨拶をしておく。また会おうね。


 最後の一口は、グビッと勢いよく行った。


「ん?」


 そのおかげで、カップの底に文字が書いてあることに気づいた。


「こんなところにー!」


 たれないように洗い場の上でカップをひっくり返した。


『庭に出て家の周りを一周しよう』


 またまたアハハと小躍りしながら家の周りを一周した。そしてリビングに戻ろうとしたら、窓に貼ってある貼り紙を見つけた。


「さっきはなかったのにー!」


 紙は内側に張られていた。


『これで最後のミッションだ!自分の部屋に戻ってみよう!』


「あい!」


 元気いっぱいに返事した。ゆきの頭の中にはもはやクリスマスプレゼントのことなどどこにもないだろう。


「そこにいるのはわかっているぞ!」


 そう決め台詞を言いながら扉を勢いよく開けた。


『メリークリスマス!』


 いつの間にか私の部屋にいつメンがいた。


「なぜ、いつ?!」


「えへへ〜!」


「ゆきちゃんはてのひらでおどらされてたのだ〜!」


「なんだってー?!」


 最初からそうだったから驚くことじゃないだろう。


「それで、なんでうちに?」


「うふふ、クリスマスパーティーだよ」


 なんだとぅ!!


「やろう、いますぐやろう!」


「まあまちなって、まだみなちゃんがきてないでそ」


「むむむ……」


 まだできないと聞いて、がっくしと項垂れる。こう見えてパーティを一番楽しむタイプの人なのだ。


「じゃあこのじかんはなにしてればいいのっ!」


「いいこにしてまつんだよ〜」


「もう!」


 話にならない。クリスマスはいい子にとても待遇がいいらしい。


 仕方がないので暇をつぶすためにトランプをしよう。

 そう思い至り、自分の玩具箱の中を手探る。


 ガザガサ、これはオセロ……これはじんせいゲーム……ちがくて、これはー……


 赤い大きな靴下。


「そうだった!!」


「ぴっ?!」


「きゅうにどうしたのさ、みなちゃんがすごいびっくりしてるよ」


「どうしたのじゃないよ!わたしのプレゼントどこっ!」


 ゆきか史上トップに迫るほどの声量だ。それほど重要な事項だったのだろう。さっきまで忘れていたけれど。


 そしてひよりは全く記憶にないようで、ポカンと口を開けながら、海馬を全力で働かせていた。


「ーーあ……あぁ、そうだ」


 なんとか思い出したようで、手のひらをぽんっとしてから助かったーとおでこの汗を拭うようにして息を吐いた。


「いやいや、え?わたしのプレゼントは?」


「くっくっくっく」


 誤魔化した。ゆきがどんどん剣呑になっていくのを感じる。


「かえしてほしくば、わたしをたおしてーー「どぉりゃあああああ!!!」わっ!?まだきめぜりふいってないのにー!」


「もんどーむよー!」


 浅く息を吐いて体の中心にエネルギーを集めている。確実に一撃で仕留めるつもりだ。


「やめてふたりともっ!」


「はなしてみなちゃん!わたしはこのてでプレゼントをかちとって……てあれ?みなちゃん?!いつのまにー!」


「ふたりがけんかしはじめたくらいから……てそれはよくて、ふたりとも!けんかはダメだよ!」


 そうしてみなは二人の手を取り合って、握手させた。


「うん、ごめん」


「わたしこそ、イジワルしちゃってごめん。ほら、クリスマスプレゼントだよ」


 ゆきの机の引き出しに入っていたらしい。


「あー!ほしかったゲーム、やったー!」


「うふふ、よかったねー」


「うん、じゃあみんなあつまったし!クリスマスパーティーしようぜー!」


『おー!』


「ところで、クリスマスパーティーってなにするの?」


 クリスマスビギナーのゆきが純粋な疑問を抱いた。


「それは、ワイワイするんだよ」


「たとえば?」


「たとえば……ゲームしたり、おえかきしたり……コスプレしたり……うーんあとはー……」


 ぐぬぬと言いながら、頭を捻っている。


「それっていつものわたしたちといっしょじゃない?」


「はっ!そうかも!」


 ガーン、ひよりは身体中に衝撃が走る感覚を感じていた。


「なら、いつもどうりにはしゃぐぞー!」


「わーい!」


「うふふ、けっきょくこうなるね」


「そうだねー。でも、たのしいからいい!」


 勢いに任せながら、ゆき達はクリスマスを時間も忘れるほどに遊び尽くした。






「はー!いっぱいあそんだー!」


「すっごいつかれた……」


 スタミナが尽きてきて、だんだんと遊ぶ時間も終わりを迎えていた。


「ん?」


 遊びまくって腹も空かしている頃、そんな時に、何やら香しい匂いが漂ってきた。


 ぐー


「おなかすいた」


「うふふ、リビングいこっか」


「たべものもとめて!」


「それならわたしについてこい!」


『おー!』


 そうしてリビングに来てみると、机に豪華な食事が用意されていた。


「みんな、丁度良い時に来たわね。ご飯よ」


 いますぐ飛びつきたい気持ちを抑えて、先にみんなで手を洗ってから食卓についた。


「それでは、だいいっかいクリスマスパーティーかいさいをいわって、かんぱいっ!」


『かんぱーい!』


 勢いのままひよりは、ぐびぐびと一気飲みにチャレンジしていた。


「ぷはー!やっぱりたんさんだよねー!」


「よくのめるよね」


 ゆきは炭酸が苦手なのだ。


「うふふ、ゆきちゃんはのめないもんねー」


「う……そういうかおりはどうなの!」


「え、わたし?」


「そういえば、のんでるところみたことないね」


「よーし、たんさんにチャレンジだー!かおりー!」


「うふふ、べつにのめるとおもうけどなー。のんだことはないけどー」


 そうして、なんの躊躇もなくかおりは炭酸を飲み干した。


 それをみんなは何故か、固唾を飲んで見守っていた。


「ど、どう?」


「かおりちゃん……」


「き……」


『き?』


「キマッたあああああああ!」


「え?」


「やっぱりこれだよ、これ!シュワシュワはわたしをかいほうてきにさせてくれるよ!」


 そうして、また炭酸を注いでグイッと呷った。


「こ、これはまさか……」


「たんさんで……」


「よってる?!」


「あはは〜!」


 ポワポワで、顔が赤くて、足元がおぼつかない。完全に酔っ払いの症状だ。


「ほら、ゆきちゃんもぐびっと!」


「あ、ゆっきー!」


「ちょっとまっ!むぐっ!」


 ぐびぐび、ぷはー!


「っ〜!」


「ゆっきー?!おねがいへんじしてよっ!ゆっきー!」


「だめだ、みゃくが……ない」


「そ……んな」


「つぎはだれかなー?」


『うわああああああ!』


 地獄絵図だ。


 パーティーだからだろうか。いや、この四人組はいつも騒々しすぎる。クリスマスパーティーは、やっぱり収集がつかなくなって終わった。

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