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聖女の父  作者: 舞花
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エピローグ

予想もしていない突然の王の崩御によって、

王宮は大いに揺れた。

王には後を継ぐべき子がいない。

であれば、その後は誰が…


期待、嫉妬、諦め、様々な感情を載せた視線が私に向けられる。

帝王学を施している時間など無い。

早急に国を導く者が必要だった。



「神と議会の名に於いて、貴方を国王と認める。新王の治世に安寧と秩序がもたらされんことを」


歓声が耳を掠める。

隣に立つ王妃となった妻は、私の手をしっかりと握り、いつもと同じくふわりと微笑む。

鳴り止まない歓声を背に進む私の少し後ろを、同じ歩幅で進む妻の手を、ぎゅっと握り返した。



最初の議会で私は宣言する。

私の息子は立太子せず、公爵家を相続する旨。

王位継承権第一位として、私の祖父の兄弟が興した公爵家の嫡男を据える事。

そして、私の娘をその婚約者とする事を。



その夜、妻は私の前で涙を流した。

愛しい我が子と、引き離されたあの日。

娘の過酷な運命を知った、あの日以来の涙。


その手にそっと、王家の秘宝とされる指輪をはめる。あらゆる厄災を弾く聖なる加護の施されたその指輪の前では、どんな魔法も意味を成さない。

ぎゅっと私の背に手を回し、それでもぽろぽろと涙を流す妻を、そっと寝台に寝かせた。



明日は息子も連れて、娘に会いに行こう。

やっと、やっと気兼ね無く、誰に遠慮する事もなく、家族で過ごせるのだ。

久方ぶりに自分の頬が緩む…のを感じる。


息子は自身の力を持って、着々と己の地盤を固めてきた。妹が戻ってきた際、私達がおらずとも憂い無く過ごさせる為に。

嫁になどやらずともよいのですと、至極当たり前の顔で告げていたが…

その隣で、忌々しげに息子を睨み付ける視線に気づいていたのだろうな。



落ち着いたら、あの少年も連れていこう。

もう少年とは呼べないあの姿を見て、

娘は気づくだろうか。

いや、あの青年の瞳に宿る熱を見れば、

問題は無いだろう。

これは、娘にも私達にとっても僥倖な事だったが…彼の瞳に浮かぶ熱は、確かな感情に基づいたものだった。

いつからとは問うまい。恐らくは…



あの青年は一途に娘だけを想い続けていた。

息子と共にやって来たあの日から、

密かに我が公爵家で行われる帝王教育を、

必死に食らいつきやり遂げてきた。


娘と対面させた日…

私達の目の前にも関わらず、真っ直ぐに娘の元へ向かうと、その前に膝を付きプロポーズをしていた。

怒りに燃える顔で、娘から引き離そうとする息子と、それをものともせず真摯に娘に想いを告げる青年と。

顔を真っ赤にした娘が、私達の方をちらちら見つつ、お、お友だちから?と

答えていたのには、大笑いした。



いずれ息子が宰相となり、あの青年と娘を支えてくれるだろう。

息子の隣にも、素晴らしい婚約者がいる。

心根の暖かさが全て表に出ている様な、素晴らしい娘だ。息子の持つ、娘に良く似たあの金色の瞳にも怯まない。

逆に溢れるほどの愛情を、その瞳と体全体で息子に向ける姿に、息子の方がやられてしまっている。

やはり、まだまだ修行が足りない様だ。





王になどなるつもりは無かった。

愛する妻と息子、娘と共に穏やかに過ごせればそれでよかったと、断言できる。


見も知らぬ誰かのために生きるなど、私には出来ない。

だが、愛する者の為であれば。

愛する者が住まう場所が、少しでも良くなるのであれば…

私は王として全てを尽くそう。


笑顔で笑い合う家族の姿を見て、

私の顔に久方振りの笑顔が浮かぶのを自覚した。


願わくば…

ベアトリーチェ、君が憂い無く笑える日が続く事を。






これにて完結です。

お読み頂いた皆様、ありがとうございました。

完結を目指していたので、ご都合主義な所が多々あったかと思いますが、お許しくださいませ。

実は最初に書こうと思っていたのは、ベアトリーチェ視点のお話でした。それがいつの間にか、ベアトリーチェ父が頭の中で動き出して…このまま書こうと今に至った次第です。父の名前も出てきていないという(ノ∀`笑)

時間が出来たら、番外編を書くつもりです。その時は改めてよろしくお願いします。


皆様よいお年をお迎えください。

最後にもう一度、ありがとうございました。


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