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聖女の父  作者: 舞花
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1話 娘の生まれた日

よろしくお願いします


私は娘が生まれた日の事を忘れない。

穏やかに微笑む妻の腕の中で、生まれたばかりの娘、ベアトリーチェは正に光り輝いていた。


雪の様にどこまでも白い肌、王家の血筋を証明する輝く金色の瞳、絹糸の様に滑らかで、限りなく白に近い銀色の髪。

その唇は紅も塗っていないのに紅く色づき、頬は瑞々しい果実の様で、誰もが目を奪われずににいられなかった。




私たちには既に我が公爵家の跡を継ぐ息子がおり、後顧の憂いは無い。

長子であるベルナルドは貴族の子息が13歳から通う全寮制の学園にて、神童の名を欲しいままにしている。

充実した毎日を送っている様だが、容姿も整った息子から届く手紙には、女生徒達からの猛攻も記されておりその苦労が忍ばれた。


かく言う私も、妻のアンナマリアという婚約者が既にいたにも関わらず、まとわりつく女性達にうんざりさせられたものだった。

息子からの手紙は、彼の婚約者を選定する際の貴重な資料も兼ねて保管されている。


学園の休みで帰省したその息子でさえも、歳の離れた妹を見た際に、驚きを隠せない表情をしていた。


「こんな美しいものが、この世に存在するのですか…?」


ねぇ、父上。と、ベッドで一人遊びをする赤子から、一切目を離さずに訊ねてくるベルナルドに、私と妻は苦笑するしか無かった。

生まれて三月になろうとするベアトリーチェは、更に美しさを増していたからだ。

こんな赤子に相応しく無い言葉かも知れないが、他に代わる言葉がない。

輝くような、など、その美しさに付け足す言葉なら幾らでも浮かぶのだが。


―ひゅっ。

隣に立つ息子から、息を飲む音がした。

これでもかと見開かれた視線の先には、きゃっきゃっと声を上げ、正に花が綻ぶような笑顔を見せる娘がいた。


そのまま視線を外さずに、妹が寝かされているベッドに近づくと、まるで壊れ物の様に慎重にその頬に触れた。

訪ねる様にこちらを見た息子に一つ頷くと、

妻の手を借りながら妹をそっと抱き上げる。


「初めまして、僕のお姫さま。

僕が、必ず君を守るからね」


そう告げる言葉は宣誓の様で、妻と顔を見合わせて笑い合った。

まるで騎士の様だな、とくしゃりと息子の頭を撫でれば、くすぐったそうにしながら、えぇ、お任せくださいと胸を張る。

そんな光景に、幸せを実感した。


ベルナルドは帰省の間、時間が許す限り妹の側で過ごした。

妻が休みなさいと呆れて声を掛けても、にっこり微笑んで側を離れない。

その溺愛ぶりに頭の痛くなる想いも抱いたが

悪いことばかりではなかった。


それまでも外見に左右される様な息子ではなかったが、それに更に拍車がかかり、見目に拘る事が一切無くなっていた。

この世のものとは思えない存在が間近にある今、美醜を気にする必要がどこにあるのか。

息子の周りには心の正しい者のみが自然と集まり、公爵家の嫡男としての今後も磐石になったようだった。


これ以上ない幸せな日々を過ごす中、

私は常に無く気を抜いてしまった。

この幸せが続くと、愚かにも思ってしまったのだ。




最初に異変に気づいたのは妻のアンナマリアだった。

自身の輿入れに共に付いてきた侍女、クロエの様子がおかしい。ベアトリーチェに対する愛情のかけ方が尋常ではない、と。


クロエは妻の乳兄弟であり、姉とも慕う仲だったため私は少し驚いた。

―あの侍女であれば、そういった事も仕方ないのでは…

そう思ったが、クロエの事も心配する妻の様子から、それだけではないと思い至った。


クロエは、ベアトリーチェが生まれる数ヵ月前に、娘を産んでいた。

この子もお嬢様にお仕え出来ればと、妻と共に楽しそうに語っていた笑顔を思い出す。

だが、その笑顔も永くは続かなかった。クロエの娘は生まれて間もなく神に召されたのだ。

妻も我が事の様に悲しみ、クロエにどう接すれば良いのかと、私に泣いて縋ってくる程だった。


子を失った母の悲しみは計り知れない。

しかも自分の仕える相手には、可愛い盛りの娘がいる。

クロエには暫く休みを与え、心身ともに落ち着いてから戻るようにと一時の暇を出した。


だが、数日もすると彼女は戻ってきた。

あれほど泣いていたのが嘘のように、吹っ切れた顔をして私達にこう告げた。

―自分の娘の分まで、お嬢様を我が子の様にお育てします。と。


その言葉に嘘はなく、甲斐甲斐しく娘の世話をしてくれるクロエには、感謝の気持ちさえ抱いていた。

自分の乳で育てると気を張るアンナマリアが休めるようにと、まだ豊かに出る自分のそれを娘に与えていた。


今思えば、その姿は乳母の域を越えたものだったかもしれない。

だが、乳母を置くのを妻が嫌がった為、気心の知れたクロエであれば心安いだろうと思ったのも事実だった。



妻の言葉を受け、クロエの様子を注視するよう家令に指示を出した。

それは主に妻の心を軽くする為だったのだが、私は後にそれを後悔することになる。

妻の言葉をもっと重く受け止めるべきだったと。


穏やかな朝、私達の寝室のドアをけたたましく叩く家令の声で目を覚ます。


「お嬢様の姿がどこにも見えません!」


ある晴れた春の日、私の娘は姿を消した。

あの侍女と共に。




既に書き終えているので、5話で終わります。

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