表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

響けっ恋のうた!

作者: タニマリ


うわっ………

私には無縁の世界だと思っていた。



夕陽が見渡せるパノラマの中で

男子から抱きしめられるだなんて─────








でもなんで私

工藤くどう君に抱きしめられてるの?




今日はクラスメートと男女3人ずつで遊園地に来ていた。

最初はみんなで遊んでたんだけど、男子側からどうせならカップルになって回ろうぜとか言われて……

工藤君は余った私と組んだんだ。







凄い……


これだけ密着していると、相手の心臓の音どころか呼吸をする音だって聞こえてくる……

それに体の熱がアツいくらいに伝わってくる。

私までポカポカしてきた。


なにより背中に回った手が力強い。

力を抜いてくれてるんだろうけど、工藤君の胸に顔が埋まってちょっと苦しい……




この状況に、私は嬉しいとか恥ずかしいとか思うより、なぜっ?という気持ちの方が大きかった。



工藤君とは同じクラスというだけでろくに話をしたことなんてない。

私が転びそうになったから支えてくれたとかでもない。


直前まで夕陽が綺麗だね〜って普通に会話していたと思う。



……なのになんでこうなったの?







今日来た男子3人は軽音部で、工藤君はボーカルをやっていて歌が上手い。

文化祭のステージで大勢の観客の前で熱唱する工藤君は凄く格好良かった。



正直、私は工藤君と一緒に回れて嬉しかった。

でも工藤君は嫌だったはずだ……


他の女子2人に比べて私は地味だしとろいし口下手だ。

遊園地に来たというのに絶叫系の乗り物が苦手で全く乗れない。

頑張って入ったお化け屋敷も、怖すぎて工藤君に迷惑をかけてしまった。

今日一日、お子ちゃまな乗り物にしか乗れなかった…本当に申し訳ない。




「……カンナちゃん。」



工藤君は普段は私のことを名字で呼ぶのに、今日は下の名前で呼んでくれた。

恋人気分を味あわせてくれたんだと思う……

恥ずかしそうに呼ぶのでこっちまで照れてしまった。


「……なに?」


背の高い工藤君を見上げるようにして顔を向けた。



工藤君の顔が赤いのって…夕陽のせいじゃないよね?

ヤダっ…釣られて私まで赤くなってきた……




工藤君は腰をかがめると、斜めにした顔を近づけてきた。

微かな吐息とともに、私の口に柔らかな感触が伝わる……






……これって───────







驚きすぎて目をつぶることも出来ずに、唇を重ねる工藤君の瞼を見続けてしまった。

ゆっくりと目を開けた工藤君は、私を見てしまったという顔をした。



「やべっ……間違えた。」






………間違えた?




間違えたって、なにを……?



私達が今いる場所は遊園地の高台で、眼下に街が見下ろせる。

もっと暗くなれば絶景の夜景スポットになる……

それを目当てに恋人同士が何組も集まってきていた。



もしかして…キスなんかするつもりじゃなかったけど、この雰囲気に流されちゃったとか……?




「ゴメンっ!!」




工藤君が顔の前で両手を合わせて謝ってきた。


そりゃそうよね…だってあの工藤君だよ?

そんなことだったのかと納得せざるを得ない。




「大丈夫。今のはお互いなかったことにしよ……」




なるべく冷静に返そうとしたのだけれど、途中で声が途切れてしまった。



あっ……ダメだ……

…………泣きそう…………




今日一日すっごく楽しかったから、すっかり浮かれてしまっていた。

調子に乗ってカン違いして…バカだな私……




私は工藤君を置き去りにして、そのまま家へと逃げ帰ってしまった。


















工藤君がすっごい見てくる……



昨日の今日で本当は学校なんて来たくなかった。

いつもはクラスメイトだからといっても接点がないので話すことはない。

だから同じ教室でも大丈夫だと思ってたのに……


きっと私が昨日のことを友達に話さないか監視しているんだ。

そんなことしなくても誰にも言わないのに……



「ねえカンナ。工藤と昨日どうだった?」

「カンナは工藤のことどう思ってるの?」


一緒に遊園地に行った友達がワクワクしながら聞いてくる。

非常に困る……




昼休み、教室に居ずらくなった私はお弁当を持って誰もいない非常階段へとやってきた。

まさかこんな理由でご飯をぼっちで食べるはめになるとは……




はあ……



空はこんなに晴れ渡っているのに、私の心はドンより曇り空だ。

今日もきっと眩いほどに綺麗な夕陽になるんだろうな……


あ…ダメだ……

昨日のことを思い出し、また涙が出そうになる。





「隣、座ってもいい?」





声をかけられ振り向くと、背の高い彼が立っていた。


……く、工藤君──────?!



突然の登場に私の中では稲妻が走った。

工藤君は驚きすぎて固まってしまった私の隣に腰を下ろした。


スカートの上にお弁当を広げてしまっている。

逃げたいけど逃げられない………





「昨日は本当にごめん……」

もう謝らなくてもいいのに……


「あんなことするつもりじゃなかったんだ。」

周りでカップルがイチャついてたらそんな気にもなるよ。


「嫌な思いさせてごめんね。」

また謝る……嫌なんかじゃ、なかったのに……


「家であんだけシミュレーションしたんだけどな。」

そうね、頑張ってたのにね…って何を?


「せっかくあいつらも協力してくれたのに。」

なんのことだか全然話が見えない。


「テンパリすぎて順番間違えた。」

……順番?




間違えたって言ってたのは、順番?





「工藤君…順番て?」


「だから……告白もせずにキスしたこと。」






告白──────?!



えっ…待って。

告白ってのは、相手に恋愛感情を伝える行為のことよね?



つまり工藤君は私を────────





「今からリベンジしてもいい?」





────────好きってこと……?







文化祭で工藤君が歌った曲。

それは『小さな恋のうた』だった。


すぐそばにいる大事な人への恋心。

出会った二人はお互いに惹かれ合い、求め合う……

この思いをどうにかして届けたいと「僕」は「あなた」だけに響いて欲しいと、恋の歌を歌うんだ。





「俺は、カンナちゃんのことが好きです。」





真っ直ぐに私を見つめて言ってくれた思いが、胸に痛いほどに響いた……






──────夢ならば覚めないで。


頭の中に、あの時の歌の歌詞が蘇る。

思えば私は、ステージ上にいる工藤君と何度も目が合ったんだ……




「順番、無茶苦茶だけど付き合ってくれる?」




私の答えなんてもうとっくに決まってる。








泣きながらうなずく私に、工藤君は……


二度目の


キスをした─────────
















評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] いつになくシンプルなショートショート。 先の見える内容でしたがシンプルに良い。
2019/11/10 11:40 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ