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妖怪が出た  作者: 社聖都子
9/10

妖怪が出た~解決編1~

キャラクター紹介はもういいかなと思っています。

解決編をお楽しみください。

「はじめまして。この本の作者、曽山と申します。この話は私が体験した猟奇殺人事件をモデルに一部創作して執筆しました。真実は世間ではあまり知られていませんが、確かにあの猟奇旅館は存在するのです。」

「え?なぜ生きてるのかって?では少し時間軸を戻し、私視点の話をお伝えすることにしましょう。今しばらくこの話にお付き合いください。」




1日目の夜、私は部屋に戻りシャワーを浴びた後、ベッドには入りましたが、すぐに眠りにつくことはできませんでした。どうしても思考は友人の死のことに向かいます。妖怪による殺人か、それとも妖怪を扮する殺人か、いずれかは分かりませんでしたが、五島と中尾は、サークルで初めて出会った人間で共通の恨みをしかもこのサークル内の人間から買っているなどということはないはず。特に中尾はまだ入ったばかりで、怨恨ではないのではないか、と。彼らは、妖怪か、妖怪を扮した旅館の主人か、妖怪を扮した怪しい小屋の住人に、猟奇的に殺されたものだろうと感じました。そして、ひとまず最も危険が差し迫っている旅館の主人を犯人であるというところに主眼を置き、どうやって助かるかを考えました。今のままでは八方手づまりで、旅館から逃げ出すことさえできません。一つ可能性があるのは小屋があること。つまり、あの小屋までたどり着ければ、歩いて山を出ることは可能かもしれないと、そう考えたのです。私はなるべく追手のかからない方法で山を下りることに決めました。考えた方法が死の偽装です。私はそこから、翌朝死ぬためにどうするかを考えました。その結果が首吊り偽装です。私は服を脱ぎ自分の体を吊る準備を始めました。布団のシーツをはぎ取り、その上に掛布団をしっかりとかけました。よく調べられたらシーツがないことはばれてしまいますが、警察がいるわけでもなく、私のような大柄な人間が高い梁からつられていたら誰かが下すにも道具が必要で、すぐに部屋を調べられることもないだろうと思ってのことです。次にバスタオルを用意しました。シーツの方は両脇の下に通し自分の胸の前で絡め、よく縒りました。そのまま上にあげ顎の部分で交差し頭の梁へ。その状態で服を着ました。次にバスタオルを首にかけました。この際首にかけるバスタオルは二十巻きにして片方をダボつかせました。首から出したシーツをダボつかせた方のバスタオルで隠し、もう片方のバスタオルに縒ります。こうして、一見バスタオルで首を吊っているが実際には首と一緒にシーツで体も吊っている状態になるための縄が完成します。この状態で鏡を見て、衣服の中のシーツが不自然に膨らんでいないかを確認しました。椅子をベッドの上に移し、その上に立って、梁の上にタオルとシーツを通して結びました。夜が明けて、誰かが部屋から出た音がした時点で、椅子をベッドから降ろし、自分は完全に梁につられた状態になりました。そこからシーツとバスタオルをつたって、縄のぼりの要領で梁にぶら下がると結び目をベッドの真上から横にずらしました。結び目をベッドから降ろした椅子の真上にずらすと、なるべく静かに梁から降りて椅子の上で吊られている状態になりました。体ごととはいえシーツが体に食い込みきつかったのと、シーツが破けないかが不安だったため、なるべく椅子の背に足をおいてシーツと体への負担を軽減しました。そして人がノックするのを息を殺して待っていました。しばらくすると自分の部屋の方へ人が歩いてくる足音が聞こえ、私の戦いが始まりました。なるべく首をつって死んでいる人に見えるように、そう思いながら脱力し、足を椅子の背から外し、だらりと垂らしました。頭は、少しでもシーツとバスタオルの絡み目を隠すよう前に垂らしました。すると垂らす前より一層バスタオルが首全体に触るのが分かり、締まっているように見えるのではないかという感じがしました。その時、異変が起きたのです。来訪者は何度かノックをした後、合鍵で中へ入ってきました。そして、その場で驚くのではなく私の足元まで来て、椅子を外したのです。目は瞑っていたとはいえ想定していたよりもはるかに近くの寄られたことで、私の心臓は飛び出しそうでした。しかし、気づかれることはなく、その後で入り口付近まで下がり悲鳴を上げたのです。その時初めて声で、三木さんだということが分かりました。そして確信しました。こいつが犯人だと。その後、下から植松の悲鳴が聞こえ三木さんがさりげなく主導する形で、三人は下に降りました。悲鳴を上げた植松のことは心配でしたが、私は吊ったとき同様綱登りの要領で梁の上に登ると結び目を解き、ベッドの上になるべく静かにおりました。上着を羽織り、財布を持って窓からベランダに出ました。窓をしっかりしめ、念のため隣の部屋のベランダに飛び移ると、さっきは体を吊ったシーツを今度は命綱にして、二階のベランダから外へと降りたのです。この時私はまだ、橋が落ちていないということを発想できていなかったため、事前の計画通り、小屋に向かって森の中を走りました。靴下での逃避行だったためとても辛かったです。小屋を過ぎ、ふもとに出たころにはもう日も上がり昼になっていました。私は近くの綺麗そうな川にあえて入り、びしょぬれになった靴下とズボンで靴屋に行き、理由を「川に落ちてしまったと」話しながら靴を買い、その後服屋でズボンと靴下を買うと電車に乗るため駅へ向かいました。駅までは思いのほか遠く、家に着く電車はすでになく、一晩をネカフェで明かすと翌日一人暮らしの家へとたどり着きました。その後、何をする気力もなく泥のように眠り、翌朝ニュースを見たら大変なことになっていたのです。

事件から2日が経ち世の中では私たちが行方不明になったことが話題になっていました。少し、事実とは異なる形で。恐らく、私の友人たちを死に追いやったであろう犯人が悠然とテレビに顔を出し、皆さん仲良く帰られたのを見送った、と証言しているのです。そして、その証拠として防犯カメラに映る私たちと見送る三木と段下の映像が流れました。そう、肝試しの前に行ったつり橋をみんなで渡ったときの映像です。私は本当に驚きました。ここまで計画的に行われていたことだったのか、と。この近辺では神隠しが起きたことが他にもあったそうで、数日の間ニュースは神隠しの里として地域を取り上げました。しかし数日経つと私たちの話は話題にも上がらなくなりました。私は世間から神隠しにあって行方不明になった一団の一人と認識されてしまったのです。

私は今までの生活に戻ることもできず、茫然と日々を過ごしていました。ふと気づくと、旅館の犯人を何とかして捕まえ元の生活を取り戻すことができないかと、考えている自分に幾度気づいたことでしょう。日数にすればわずか数日でしたが、茫然自失のこの日々は私にとって非常に長く感じられました。旅館に近づけば殺されるかもしれない。しかし旅館に戻らなければ真実には近づけない。ジレンマが私を苦しめました。そんな中で私は一つの突破口を、いえ、藁にもすがるような些細なひらめきではありますが、その時の私にとっては突破口に感じられたそんな着眼点を、見出したのです。段下氏が語った玄野歌家とあの旅館の逸話です。安く購買したときの履歴。これを調べれば旅館の主人のもう少し細かい情報を知ることができると考えました。役所を回り、その情報を謄本から得た私は購入者の名前を確認し非常に驚きました。私のひらめきは正しかったのです。私はそのひらめきを更に調べるために図書館へと足を運びました。知り合いに会うことは怖かったですが、大学の図書館は膨大な蔵書量があり、必ずその情報を得られると確信していました。

さて私はこの本を少しでも楽しめるものとするために一つの細工をしました。段下氏の名前を創作し実際に書かれていた名前と異なる名前としたのです。段下多能太。この珍しい名前はアナグラムです。げんのうたただ。玄野歌忠。これが彼の本名なのです。当然この名前を見た皆さんも私と同様、あの旅館の元の持ち主一族だと考えたことと思います。

ちなみに、旅館の調理師免許に書かれていたのは別の偽名でした。あの時に珍しい名前だなどという会話はなく、調理師免許については調理師免許を取得した年と段下氏の見た目の年齢がかみ合わないという話をしました。これ自体はどうという話ではなかったのですが、段下氏をある種謎に包まれた人物として私に印象付けた出来事ではありました。

さて、話を戻すと玄野歌忠氏は誰なのか。私は調べに行きました。あの旅館で過去に起きたと段下氏が語った事件を。そんな事件は本当にあったのか。私は何か、この調査こそが私のこの後の生活を大きく変えることになるのではないか、そして亡くした友人たちのかたき討ちの第一歩になるのではないかという使命感のようなものに駆られていたのを強く覚えています。

調べた結果、玄野歌忠は段下氏の話に出てきた小さな甥っ子こそがその人でした。そして、事件は実際にはもっと凄惨でこの甥っ子を除く全ての人間が皆殺しとなっていたのです。この現場を警察が発見したときは事件の発生から少なくとも数日は経過した後であり、その小さな男の子はこの現場で死体に囲まれて数日を過ごし、恐怖からかとても少年のものとは思えない表情をしていたそうです。そして、あの地域で起きるという噂がある神隠し、その大規模なものあの旅館で私たちの前に起きた「神隠し」についても記事を見つけることができたのです。記事によるとその一団も7名の旅行客でうち6名が行方不明になっていました。生存した1名は当時の新聞に写真が載っており、その顔はどこか三木氏の面影を感じさせました。私の直感はあの旅館が殺人鬼の巣窟であると、そう訴えたのです。

私はこの話をまとめて警察へと行きました。はじめ警察は相手にしてくれませんでした。ただし、私が今回の神隠しの生き残りであるという事実だけは曲がることがなかったのです。身分証明書などの立証証拠が存在することからそこだけは確固たる事実として受け入れられました。その結果として警察は残りの6名の行方を捜すと私に話をしました。私には生き残りがいるということが世の中に公表されることが非常に怖いことのように感じられました。私の考えでは彼らは彼らが殺しをしたということを知る人間を生かして帰す気など毛頭なかったはずだからです。幸い警察も「行方不明事件」の重要参考人として私から話を聞きたい立場であり、私には話をする時間が十分に与えられました。私は、今回の「殺人事件」の話と向き合ってくれない警察に対ししぶとく話をしました。結果、段下氏の正体や、過去の事件といった私の想像の範疇を出ないものについては、納得のいく結果になることはありません。しかし私たちの「行方不明事件」の原因の一つとして「殺人事件」があった可能性がある、ということは落としどころとして認められることになりました。私は2名の警察官の帯同を得て、再び、あの旅館へと戻ったのです。

この回から大きく趣向が変わった解決編をお送りしました。

この展開は初めにプロットを書いた時に決まっていたことでした。

正直プロットを書いた時は灰谷と由美は生き残り、灰谷を主役にした短編をいくつか書きたいと思っていたのですが、キャラクターが暴走した結果お亡くなりになりました。

死に役にしてしまい申し訳ありませんでした。ご冥福をお祈りいたします。

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