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妖怪が出た  作者: 社聖都子
7/10

妖怪が出た7

登場人物

段下:旅館のオーナー

三木:旅館の執事

中尾:T大学超常現象研究会1年生 男 第1の犠牲者

五島:T大学超常現象研究会4年生 男 第2の犠牲者



植松:T大学超常現象研究会2年生 女 曽山の高校時代の後輩 昨夜曽山から何かを聞いた?

白石:T大学超常現象研究会2年生 女 妖怪オタク

灰谷:T大学超常現象研究会3年生 女 よく寝る、空気読めない

ロバート:T大学超常現象研究会3年生 男 理系、灰谷と言い争いに

曽山:T大学超常現象研究会4年生 男 五島を殺したのは自分だと自分を責める 研究会のリーダー

翌朝、植松が目覚め部屋を出て下に降りるとロビーには中尾と五島以外一人もいなかった。しかしすぐにそこに三木が現れ、「おはようございます。」と呼びかけた。瞼は腫れぼったく、ひどいクマのできた顔だった。植松も、「おはようございます。」と挨拶を返すと、ソファーにそっと座った。するとすぐにぞろぞろと他のメンバーも降りてきた。皆、部屋では起きていて、誰かが下りるのを待っていたのかもしれない。

「皆様、ご朝食、いかがされますか?」

恐る恐る、三木が尋ねた。質問に対し、誰も答えなかったが、灰谷があることに気付く。

「あら。曽山さんがいないのね。」

するとロバートソンも、きょろきょろと周りを見渡し、

「珍しいな。」

とつぶやいた後で。

「三木さん、曽山さんを待ちます。」

と言った。三木は、かしこまりました。と答えると、そそくさと厨房に入っていった。

しかし、曽山は降りてこなかった。ロバートソンが声をかけてくる、と席を立ったがしばらくすると戻ってきて、鍵がかかっていてノックしても応答がなかった、と話した。すると植松の顔色が見る見るうちに悪くなり、ガタガタと震えだした。

「三木さん!」

ロバートソンが三木を呼んだ。すると三木は厨房から顔を出し、どういたしましたか?と用件を聞く。

「この旅館、合鍵はありませんか?」

とロバートソンが聞くと三木は要件を察し、

「ございます。曽山様のご様子を見て参りますね。」

と言うと、厨房へと戻った。ロバートソンはそれを見ると植松の肩に手を置き、

「どうした?大丈夫か?」

と問いかけた。植松はかろうじてロバートソンの方を向き頷いたがとても大丈夫には見えない。その間、合鍵を持った三木が駆け足で上へとあがっていく。ロバートソンは、その三木の姿を確認すると

「白石、植松を頼む。」

と言うと、三木を追いかけて階段へと歩いた。灰谷も植松とロバートソンの方を何度か見比べた後でロバートソンの後を追った。ロバートソンが階段を上り終え、曽山の部屋の方を向くか向かないかというタイミングでどさっという音がした。ロバートソンが

「どうしました?」

と声をかけると三木がしりもちをついた状態で部屋から後して出てきた。

「三木さん!」

ロバートソンは大声で叫ぶと、曽山の部屋の入り口まで駆け寄る。部屋の中を見て、

「曽山さん!!」

とさらに大きな声でロバートソンが叫んだ。すると階下でガシャーン!!と大きな音がして、

「由美!!」

と白石が叫ぶ声が響き渡った。叫び声に反応してロバートソンがくるっと向きを変え、今度は階段を駆け下りる。途中二階の廊下で灰谷とすれ違い、灰谷はロバートソンと三木を二、三度きょろきょろと見比べると三木の方へ進んだ。

「三木さん、立てますか?」

と三木に手を差し伸べながら、部屋の中を見て、表情をこわばらせ、目をひそめた。三木は灰谷の手を掴み何とか立ち上がると、

「すみません、腰が抜けてしまい。」

と足をがくがくさせながら、何とか立ち上がった。灰谷はそんな三木に肩を貸すと、

「とりあえず下に降りましょう。由美ちゃんも心配ですし。」

と言って、下へと三木を促した。その一方で自身は振り返りもう一度部屋の中を見た。そして軽く頭を下げたようにも見えたが、その表情はひどく怪訝そうな表情だった。灰谷と三木が下に降りると、白石とロバートソンが植松を座らせ水を飲ませていた。

「三木、これは一体。」

ロビーには段下もいた。

「段下様、曽山様が、その…。」

三木は植松の方を見て言葉を濁している。すると灰谷が、

「部屋で首をつっていました。」

と静かに伝えた。植松はウッと背中を震わせると机に突っ伏した。その背中を白石が静かにさすっている。灰谷は三木を椅子に座らせると、白石の方を見て

「三木さんと由美ちゃんの様子を見ててくれるかしら?」

と聞いた。白石が静かにうなずくと、すぐに二階の方を向き、

「何か、気になるのよね、あの部屋。」

と言って階段の方へ歩き出した。するとロバートソンも、

「あれ?灰谷もか?おれもなんか違和感があるんだ。一緒に行くよ。曽山さんも降ろしてあげたらもしかしたら、まだ。」

と言った。

「あ、それでしたら私も。」

と段下も続いた。灰谷は、

「曽山さんはいつからあの状態だったのか分からないけど、あまり期待はできないと思うわ。でも、降ろしてはあげたい。」

とくぎを刺して二人を先導する形で階段を上った。三人が曽山の部屋の前にたどり着くと、三者三様に驚愕した。ロバートソンは声を失い文字通り開いた口が塞がらない状態で凍り付いた。灰谷は目を見開き、曽山さん。と呟いた。

「灰谷様、ロバートソン様…本当にここに曽山様がいらっしゃったのですか?」

何もないがらんとした部屋を見て、段下が二人に問いかけた。

「確かに、いたわ。下に降りて三木さんに聞いてみればわかります。」

「そ、そんな、まさか…よ、妖怪だ。妖怪が出た!!」

段下の目は焦点が定まらずどこか宙を見ていた。

「…っ。神隠し!?そんな非科学的なことが本当に?」

「か、神隠しは、被害者の生死にかかわらず起きるものなのでしょうか?」

「…分からないわ。とにかく、下へ降りましょう。由美ちゃんも心配だわ。」

またしても灰谷が二人を先導する形で今度は階段を下りた。階段を降りると他の皆はロビーから食堂に移動していた。植松も三木も少し落ち着いた様子だった。

「あの、曽山さんは…?」

三人でおりてきたことを不審そうに白石が尋ねた。

「それが、いなかったのよ。」

灰谷の回答に一同ぽかんとなった。

「つまり、曽山様の遺体がひとりでに動いたということですか?」

三木が灰谷に問いかけ灰谷が答えようとした瞬間、

「遺体なんて言わないでください!」

植松が口を挟んだ。

「由美ちゃん、私、気になることがある。」

灰谷は三木に対して軽く頭を下げながら、植松に話しかけた。植松は何でしょう?と言わんばかりに灰谷の方を見た。

「由美ちゃん、曽山さんが部屋から降りてこなくて、ロバートが部屋を見に行った時、すぐに震えだした。まだ状況が分からないのに。確かに曽山さんらしくないけど、寝坊って可能性だって0じゃなった。何か、心当たりがあったの?」

ロバートソンがハッとしたように灰谷の方を見た。

「灰谷が気になることがあるって言ってたのは。」

「いいえ、それじゃない。気になることの方はよくわからなかった。曽山さんがあそこにいなかったことの方に完全に気を取られてしまったわ。」

「そっか。じゃあオレと一緒だ。おれも、なんか気になったんだけどよく分からなかったんだよね。」

灰谷はロバートソンとやり取りをしながらも視線を植松から動かさない。

「実は、昨日の夜皆さんがお部屋に戻った後、先輩と少し話をしたんです。先輩は五島さんを支えたときに自分が背中に触った矢に触ったと言ってました。矢に触れた瞬間急激に血が流れてきて、五島はそれで、って。なので私は先輩のせいじゃないってそう言いました。でも、その後もやっぱり先輩はご自身を責めていたみたいで。」

植松は昨日の夜のやり取りを簡単にまとめるとみんなに伝えた。

「昨夜の時点では、今日の朝みんなにも伝えるって言ってたのに。こんなことに。」

「そう…みんなに伝えるって。こういう状況だから数時間で考えが変わっちゃうこともあるとは思うけど、それでも自殺なんて…。首に縄をかけるとき、どんな…。」

独り言のように話していた灰谷の言葉が唐突に止まった。

「あ。」

みんなが灰谷の方を見る。

「ロバート。曽山さんの足元。椅子とか台とか、なかったよね?」

「あ。」

「あんたの違和感も、それでしょ。」

「いや、確かに言われてみるとおかしいけど、オレが感じたのはそれじゃないな。」

「そう。じゃあ何か気づいたことがあれば言ってちょうだい。」

「あの。」

それまで放心していた段下が口を開いた。

「それって何かおかしいのでしょうか?」

灰谷は驚いた顔をして段下の方を見たが、段下のそばにいた白石が驚いていないことを見て、段下がそうおかしいことを言っているわけではないということを理解した。灰谷は椅子を引くと腰かけた。ふぅと息をつくと灰谷が話し始めようとしたが、それより先に三木が口を開いた。

「お茶でも、お出しいたしましょうか?」

そういえば、朝ごはんも曽山を待ってからと言う話をしていたところだった。灰谷は三木の調子を気遣った。

「でも、大丈夫ですか?もしだったら厨房のお茶器の場所を教えていただければ、私入れますけど。」

「いえいえ、大丈夫でございます。お茶くらいどうと言うことはありません。」

そう言うと三木は少しよろけながら厨房へと入っていった。

「それでは、段下さん。先ほどの椅子の話ですが、あの部屋で曽山さんが首を吊ろうと考えたとします。私はぱっとしか見なかったので、首を吊るために何を利用していたかよくわかりませんでしたが、バスタオルか何かだったと思います。それを天上の梁にかけ、自分の首にかける。この作業の間に足場は必要ですよね?ベッドの上からであれば届くと思いますが、曽山さんが首をつっていた場所はベッドから少し離れていました。と言うか逆に曽山さんの身長ではベッドの上に立った場合、首を吊ることができないと思います。首にタオルをかけても足がついてしまう。と、考えると普通、首を吊っていた近くに何らかの足場があるべきなのです。それがない場合、あの環境で考えるとベッドからちょっと身を乗り出して首にかけベッドからジャンプするように吊ったか、床からジャンプしてちょっとアクロバティックな感じで吊ったか、他の人の手による場合か。になります。自殺、と考えていたので何かよく分からないけど違和感がある絵面だな、と思っていたのです。」

段下はそれはわかっているとでも言わんばかりの顔で、灰谷を見ている。灰谷は何か間違ったことを言ったかと不安になったが、その後の白石の言葉で不安はぬぐい去られた。

「そもそもが、他の人の手による場合なのではないですか?人、というか、妖怪ですけど。」

いや、違う意味で不安になったと言ってもいいかもしれない。だが、段下も白石と同意見のようだ。

「そもそも、首吊りの方はともかく、曽山様があの場から居なくなられたことに関しては、妖怪の仕業以外に説明がつきません。」

確かに、曽山が消えたことに関しては、灰谷にとっても謎の事態のまま状況は変わっていない。

「曽山様!?」

厨房から三木の声が聞こえた。皆、怪訝そうな顔をして顔を見合わせたが、続けて、うっ!と言う三木のうめき声が聞こえてロバートソンがさっと厨房の方へ走った。

「三木さん!」

厨房の入り口手前でロバートソンが呼びかけた。ロバートソンには三木が横たわっているのが見えていた。三木は自分が入れたお茶からは少し離れた厨房の奥の勝手口らしきところに横たわっていた。ロバートソンは三木に駆け寄ると再び呼びかけた。三木は大丈夫と言ったが、後頭部を抑え痛そうにしている。

「勝手口の扉のガラスの外に人影のようなものが見えた気がしたのです。それで、なんとなく曽山様なのではと思い扉を開けました。開けて、外を覗き込んでも、誰もおらず、おかしいと思い何歩か外に出たら、後頭部を殴られたような痛みが走って思わず呻きました。その後、慌てて中に戻り扉を閉め鍵をかけました。」

ロバートソンが三木の後頭部を見ると確かに何かで殴られたような跡がある。

「三木さん、三木さんを殴ったやつは外で逃げたのでしょうか?中に入った可能性はありますか?」

三木はハッとした顔になり、

「確かに中に入ったかもしれません。ただ、恐らく外ではないかと。」

と言った。ロバートソンはそれを受けて厨房の中を見渡した。

「あっちに行くと食堂ですが、厨房からもう一つ出入り口があるのですね。あちらは?」

「あれは、私共、わたくしと段下様の部屋につながる廊下へのドアでございます。」

「なるほど。お二人のお部屋から食堂に出るには厨房を通るしかありませんか?」

「はい、厨房を通る以外に食堂に出る方法はありません。」

三木の答えにロバートソンは少し安心した様子で、

「では、とりあえずお茶を持って食堂へ戻りましょう。皆と合流した後、何者かが中へ入った可能性も考え一度厨房の奥のお二人のお部屋を確認するのが良いと思います。」

ロバートソンがお茶が置かれているお盆を手に取り、三木と一緒にそれを運んだ。二人が厨房を出ようとすると、食堂では先ほどまで机に突っ伏していた植松が立ち上がって灰谷と何か話をしている。

「どうされました?」

ロバートソンの後ろから三木が植松と灰谷に声をかけた。ロバートソンも何か怪訝そうな表情を浮かべている。

「あ、いえ。どうってほどのことじゃないんです。」

と灰谷は言ったが、植松は少し機嫌が悪そうな様子だ。白石と段下も何か言いたげではあった。が、ロバートソンは運んできたお茶を皆の前に一つずつ置き、自分も一つ取ってそのまま椅子に座った。

「まぁとりあえず、お茶でも飲んで落ち着きましょう。」

ロバートソン自身、そんなに落ち着いているようにも見えないが、自らにも言い聞かせるかのようにそう言うと、お茶を手に取った。

「あ。」

何かに気付いたような声を出し、お茶を手に取り一口飲むと落ち着くのとは真逆の雰囲気で呼びかけた。

「三木さん。」

三木は唐突に呼びかけられ、しかも先ほどまで厨房でやり取りしていたロバートソンとは打って変わって、まるでにらみつけるように鋭い眼光で見られ、驚いた表情を見せた。

「三木さんはあの時、何…を…。」

言いながら、バタン!とロバートソンが倒れた。一同、何が起きたかすぐには理解できなかったが少し間をおいて白石が甲高い悲鳴を上げた。倒れたロバートソンは泡を吹いて白目を剥いていた。

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