妖怪が出た2
2.
玄関の扉を開けると玄関前の階段を降りたところで振り返った。
「実は当館、妖怪スポットの他にも心霊スポットがございます。ちょうど7名様ですので、滅多にないことですが幽霊を体感できるかもしれません。よろしければそちらもご案内いたしますがいかがですか?」
段下にそう尋ねられた、メンバーたちは、当然、幽霊スポットも回ることを選択した。
「実はその幽霊スポット、皆様がいらした時に通った吊り橋なんですよ。吊り橋に着くまで、この屋敷にまつわる昔話でもいたしましょう。この屋敷は元々、玄野という富豪の持ち物でした。玄野家は北海道のある地域では有名な炭鉱貴族で、この屋敷は本州、特に関東に進出しようと考えた一族の方が、その足がかりにと購入した拠点であると聞いております。さて、その玄野家、没落したからこそ私がこうしてこの屋敷を持っているのですが、没落時にある逸話があります。当時主人だった玄野歌家氏が若くして亡くなり、その娘の玄野美希がその後を継ぐこととなりました。美希は今で言う小学校高学年の年で歌家の財産には全く興味を持っていなかったそうです。しかし、それでも美希は遺産の半分を相続する権利があります。ところで、歌家には3人の兄弟がいました。弟が2人、妹が1人。3人のうち次男の歌広が美希の後見人となる話が上がりましたが、後見人となれば、美希に不自由ない生活を送らせれば遺産の美希の取り分もある程度自由に動かすことができます。三男と長女は次男が後見人になることに反対し、自分こそがそれに相応しいと主張したのです。お互いの主張がぶつかり合い、まとまらなくなったため話し合いの場がもたれることになりました。」
一度口を閉じると段下は足を止め後ろに屋敷を振り返ってちらりと見た。
「その話し合いの場に選ばれたのがこの屋敷でした。」
改めて前を向くとまたゆっくりと歩き出した。
「地元北海道にも一族の別荘は数多く存在しましたが、どの地域も兄妹の誰かの地盤になっており、中立の地がなかったのです。中立の地でないと話し合いは持てないという状況自体が、その後に起きる悲劇の全てを物語っていたのかもしれません。この屋敷に8人の人間が集まりました。娘の美希。次男歌広とその妻、息子。長女美香子とその旦那。三男歌松とその妻。歌広の息子はまだとても幼かったという話です。美希はその子と遊んであげていましたが、その子が寝静まったあと事件が起こります。美希たちが遊んでいる間に話し合いは少し進み、法的に後見人になる権利がある歌広に後見人を譲る代わりに歌広から美香子と歌松に何らかの財産を譲渡することになっていました。しかしその条件で歌広と美香子がもめました。口論はどんどん熱くなりついには美香子が包丁を持ち出す騒ぎになります。リビングに戻った美希がその光景を目にして止めに入りましたが、2人の喧嘩は止まりませんでした。オロオロする歌松をよそに美希は玄関のドアを開けて外に飛び出たのです。何事かと一同外に飛び出しました。美希はその吊り橋の横に立っていました。」
気づくとすぐそこに吊り橋が見えるところまで歩いてきていた。吊り橋の柱を指して段下は続けた。
「あの柱に手を乗せ震えながら美希は言ったそうです。私は遺産なんていらない。平等にあなたたちで三等分して。喧嘩はやめて。と。しかし、その言葉を信じられるほど大人の心は綺麗ではありませんでした。それまでの喧嘩の勢いそのままに美香子が美希に詰め寄ったのです。そうして悲劇が起こりました。もしかしたら美希は初めから命をかけるつもりで橋桁に身を寄せたのかもしれません。自身が死ぬことで遺産が平等に3分割されるならという気持ちが少しはあったのかもしれません。しかしながら、自分の叔母に殺されるとは思っていなかったのでしょう。彼女の亡霊がこの橋に宿っているのです。しかしながら彼女の亡霊が持つ思いは怨念がではありませんでした。あくまで希望。7人の人間が仲良くこの橋を渡っていく姿を見たいという希望。その希望が未だにこの橋に出ると言います。即ち、悲劇は美希の死では終わらなかったのです。1人を殺し、箍が外れた美香子の刃は他の親族をも襲いました。弟を殺し、甥っ子を殺し、美香子を止めようとした兄と刺し違えその刃は止まりました。一族皆殺しとなった現場から命からがら生還した三兄弟の結婚相手は2度とこの一族と関わることはなかったと言います。」
皆は吊り橋の前で固唾を飲んでその話を聞き入っていた。
「さて、そんなわけで悲劇の舞台となった曰く付きのこの屋敷を私はとても安価で手に入れ旅館とすることにしました。幸いここは温泉地ですし、今の所お客様には困ることはありません。もっとも曰くが原因でいらっしゃるお客様は物好きな方が多いのも事実でありますが。ですが、この館に曰くが二つあることやその原因は知られていません。一つ目はこの橋を7人が仲良く渡る時、美希の亡霊が現れると言われています。これがあまり知られていません。ですので、この曰くはこういうのがお好きなお客様へのサプライズ。お客様方もお帰りになられた後、こちらの曰くにつきましては口外なされないようお願いできれば幸いです。もう一つの曰くは有名なこの森には妖怪が出るという話。実は先ほどの昔話で死んだ一族の死体が出ていないという話があります。だからこそ、当時この話が噂として広まらなかったのです。その死体はどうなったのか。彼らが息を吹き返した姿こそがこの森に出る妖怪であるという言い伝えです。この話も先ほどのサプライズと絡んでしまいますので、妖怪の由来については沈黙を守っていただけますと幸いです。それでは皆さん、ちょうど7名様ですし、こちらから橋を渡り美希の幽霊とお会いになりますか?」
大学生たちはそれぞれに異なる感情を持ちながら橋を渡ることを選択した。7人が橋に向かうと、段下と三木が深々とお辞儀をして7人を見送ったのがやけに仰々しかった。
しばらくすると7人が橋の向こうから戻ってきて、美希が出なかった、と口々に段下へ文句を垂れ流した。
すると段下は
「それは残念なことでございます。皆様7人は本当に心から仲良くないのかもしれません。そのわずかな敵意に美希は敏感です。何せ殺されてしまったのですから。」
と答えたが、ロバートソンが食い気味に言った。
「いえ、それは嘘ですね。いや、嘘というか作り話です。段下さんは先ほどまでは、何々と言われている。という言い方をされていましたが、今回は断定系です。ご自身が作られたお話なので断定で良いのでしょう?」
段下はニコッと笑った。
「ほっほっほ。見抜かれてしまいましたか。お鋭い。次のお客様からはそこを気をつけて改めるようにいたしましょう。」
「それと段下さん。」
さらにロバートソンが続ける。
「この旅館に着いた時も気になったんだが、そこの木の上に設置されている監視カメラはなぜこんなところに?」
皆が一斉にロバートソンが指差した方向を見る。一台のカメラが木の枝の上にちょこんと乗っていた。角度から考えて橋のあたりを撮っているようだ。
「あれは防犯用です。この橋を除けばこの旅館に入ることはできません。唯一の出入り口ですので念のために。」
「山奥でも物騒なんですね。」
植松がカメラをジロジロと見ながら言った。
「そんなことはありませんよ。実際にこのカメラが役に立ったことは一度もありませんしね。」
段下はニコニコと笑いながら、妖怪スポットの方へ案内した。妖怪スポットは吊り橋よりも旅館に近く少し森の奥に入ったところだった。まだ夕暮れで日は傾いているものの地面を照らしている状態だったが、それでも木陰は黒く色塗られ、日が落ちたら妖怪が出ずとも怖い雰囲気が出るだろうと思われた。
サスペンスというかホラーというかそういう雰囲気が出てきました。




