妖怪が出た~解決編2~エピローグ
遂に完結です。
エピローグはこういう展開にする予定はなかったのですが、こんな感じになってしまいました。
キャラクターが動き出すって本当にあるんだな、と強く感じた初めての長編小説でした。
旅館に向かう途中、警察官の二人の緊張感はあまり高くはありませんでした。私は深いフードのついたパーカーを着せられました。そのフードの顔を隠す感じがまるで私が犯人のようでした。
そもそも私の話自体が不確かなものと認識されている上、もし正しかったとしても相手は凶器を持っていたとしても弓矢と鉈を持った二人であり、警察官の自分たちに対して人質もないということで楽観視されていたのだろうと思います。しかし私には、私自身が疑われているということが突き刺さるつらい時間でした。
ほどなくして、旅館に到着すると、まずは警察官の一人が旅館へと向かい、私ともう一人はつり橋を渡ったところで待機することとなりました。万が一に備え、民間人の私が顔を出すのは後からという話でした。先に着いた警察官が話す声は無線を通じて私たちに伝わってきました。話の流れとしては、行方不明事件についての証言として話が進んでいました。段下氏も三木氏も殺人に関する話はみじんも出す気配がなく、警察官の方からその話に矛先を向けましたが、あくまで可能性の話で、という聞き方でした。それに対しては一向に話がかみ合うことはなく、一人証言者がいる。という警察官の方の言葉をきっかけに私たちが出ていきました。そばにいる警察の方からフードを深くかぶるように進言され、私はその通りにしました。私たちが出ていくと先に行った警察官の方は段下氏、三木氏のすぐそばに立っており、私を見たときのリアクション次第ではすぐに動けるように用意してくれていると感じられました。その様子を見て、私は十分に三人の顔が視認できる距離になったところでフードを取りました。
「お久しぶりです、段下さん。」
私がそう言ったときの、段下氏、三木氏の表情は警察官の方にとっては警戒するに足るものだったのかもしれません。私には一瞬凍り付いたようにしか感じられませんでしたが、私のそばにいた警官の方は極めて機敏な動きで私の前に立ち、先に行った警官の方はさらに二人に密着して二人の肩を叩き、
「彼が現れたことはそんなにおかしなことでしたか?」
と確認しました。段下氏は警官に肩を掴まれても微動だにしませんでしたが、三木氏はその手を振り払って走り出そうとしたのです。その刹那、振り払おうとした手が掴まれ、あっという間に三木氏は捕捉されました。
「なぜ、逃げるんです?」
相当警官をよそに今度は段下氏が逃げようとしましたが、その時には既に私のそばに立っていた警官が距離をつぶしていて段下氏には逃げ道が残されていませんでした。そのままうなだれ抵抗しようとすることはありませんでした。
エピローグ
彼らが逮捕され、私にはいつもの生活が戻ってきましたが、仲間が戻ってくることはありません。私はその後、仲間たちのお葬式に出て、ご親族の方に挨拶をし、残りの学生生活を漠然と過ごしました。ある程度名前の通った企業に就職し、普通のサラリーマンとして過ごしていました。
そんな日常の中に突然非日常が戻ってきたのがつい先日のことです。
多くの人には何ら関係のない、一日ニュースの数分を占めただけの時間。玄野歌忠氏の初公判が行われました。私は会社を休みその判決を聞くために傍聴席に座っていました。判決は懲役。私たちの事件の他にも過去の事件の余罪も出た玄野氏だったが、その一部は既に時効が成立していました。争点となったのは、玄野氏が幼少期に体験した悲惨な事件により似た環境に置かれたときに精神的に適切な判断を下せない状態にあった可能性による情状酌量であったか否かでした。結果として、その酌量が認められる形となりました。
私は、それについてどうこう言うわけではありません。彼の刑が何であったとしても仲間が返ってくるわけではないのですから。
ただ、彼が今後私の仲間のような被害者を出すことの無いよう、この話をより多くの人に知ってもらえればと思い、会社を退職して筆を取りました。
私のこの行いを、天国の6人が笑顔で見守っていてくれることを祈ります。
曽山 大地