プロローグ 終わりとはじまりと
目が眩むほど白い空間、廊下に置かれた3人掛けの椅子に精密検査を終えたばかりの少女が一人でぽつんと座っている。
重篤な病気なわけではなく、旅行後のいつもの精密検査なので検査の結果などを気にするわけでもなく、ただ、少女にとって大きな意味をもった一週間の旅を思い返している。
肩まである髪を母にもらったシュシュで一つにまとめ、白のシャツに濃いめの色のジーンズを履いている姿はいかにも活発そうだ。少女の大きな丸い目は、優しくただじっと遠くを見つめている。
「結局、戻ってきちゃったな…。」
優しさと淋しさが混じった何とも言えない気持ちが、今、終えたばかりの旅から来ているものだと少女も気づいているが染み出す心の滴りを止めることが出来ないでいる。
旅を終えたことに後悔がないわけでないが、それよりも以前は空っぽだった自分の心に温もりが満たされているのを感じる。
1週間前の自分には想像もつかなかった時間がここには流れている。
あの時の私は、自分のすべてを諦めていたんだ。
『私には、もう何も残ってないんだ。』って思って、何もかも終わりにしようと踏み出した…。
「紗恵!?」
驚きとうれしさが同時に存在する声がふいにかけられ、紗恵の一週間の回想を止めた。
ぼぉっと天井を見ていた紗恵の目が正気に戻り、声の主を確かめようと視線をそちらへ送る。
「えっっっ?」
想像していなかった人物がそこに立っていた。
その女性の目には、うっすらと光るものが見える。
紗恵は、驚きのあまり目を真ん丸にして叫び声をあげる。