2 0-1 30-30 まーけーたー!
前話の試合描写は続かなかったよ…
「まーけーたー!」
負けたのは私ではありません。
私の三回戦はキャロライン・オルブライトに、6-1、6-0のストレートで勝っておりますので、あしからず。
順調にベーグル職人の道を歩んでいる気がする今日この頃であります。
もっとも、個人的にはドーナツの方が好きだったりもするのですがね。
とくに、ドーナツの上半分にチョコレートを塗りたくって、ピーナッツを砕いたのをまぶしてあるドーナツや、粉砂糖がふりかけてある餡ドーナツとかが好きですね。
つまり、コンビニにある120円の菓子パンですな。
そう考えたら、ドーナツが食べたくなってきちゃったよ。ついでに、エクレアも。
グルテンフリー? 知らんがな。
糖質バンザイ! 炭水化物バンザイ!
好きなモノを食べるのを我慢してまで、そこまでして私は勝負にこだわるとか勝ちたいとか、どうしても思えないのですよね。
食事までテニスの為の食事だなんて、そんな生活はストレスが溜まる気がしますし。
もちろん、度が過ぎるような暴飲暴食は、さすがにしていませんけれども。
プロの世界で頂点を、グランドスラムでの優勝を目指しているのに、それでいいのか? とか思わなくもないのですけどね。
しかし、ストイックに自己を管理してテニスをするよりも、私はノビノビとテニスを楽しむ派ですから。
まあ、試合に勝てなければ栄養管理とかも考えるのでしょうけど、いまの私には必要ないということで。
それで、ドーナツって前世では、50円から売っていたような記憶が微かにあるのですけど、随分と物価も上がったみたいですね。
庶民の平均所得は倍増してないのに、ドーナツの値段だけ倍以上になるだなんて、なんか納得がいかない。
あー、でも、ベーグルはそのまま食べるのではなくて、サンドイッチかハンバーガーみたいな感覚で、ベーグルサンドにして食べればいいのか。
お菓子と食事とをごちゃまぜにして考えたらダメでしたね。
おっと、いまはベーグルとドーナツじゃなくて、優梨愛ちゃんを慰めてあげなければ。
「惜しかったね」
あと一つ勝てば、準々決勝で私との対戦が待っていたのですけど、優梨愛ちゃんは三回戦で惜しくも、3-6、7-6(5)、5-7で負けてしまいました。
まあ、ランキングが三位の相手に善戦はしたけど、まだ勝つのは優梨愛ちゃんには少し荷が重かったみたいでした。
二回戦でガビーと激闘を繰り広げたり、ダブルスの試合もあったから、その影響も多少はあったのでしょうね。
この試合も二時間半は掛かってますし、これからの優梨愛ちゃんの課題は、いかにして試合時間を短縮して省エネで勝てるようになるのかが、これからの課題のような気がします。
省エネ運転を身に付けないと、強豪選手と連続して戦うことになる大きな大会では、疲労の蓄積とかで善戦どまりになってしまいそうですしね。
現時点でも、善戦マンの気がしないでもないですけど。
あー、でも、この状態は昔からだから、これが優梨愛ちゃんのデフォルトでしたか。
「きーっ! 悔しい!」
「ど、どんまい」
「勝てば環希とジュニアグランドスラムの舞台で戦えたのに……」
私も優梨愛ちゃんと対戦できなくて残念だよ。まあ、これはドローとかも関係してきますし、対戦が出来るかどうかは運も絡みますので、こればかりはどうしようもありません。
プロでも、十数年間も同時期にツアーを廻っていたとしても、十数年間の通算で四十回対戦があれば、かなり多い対戦数になりますしね。
仮に年間で二十のツアー大会に参加したとしても、年平均で三回程度の対戦となります。
これは、実力が上位のトッププロでの数字ですので、対戦相手の片方が中堅以下とか、両方のランキングが中堅以下の場合だと、更に対戦回数は少なくなります。
お互いに勝ち上がる前に、片方か、もしくは両方が敗退しちゃうということですね。
だから、お互いが勝ち進めば対戦できるという、ノックダウンのトーナメント方式というのは、特定の相手と望むように対戦するのが難しいといえるでしょう。
「優梨愛ちゃんの仇は私が討ってあげるから!」
そしてその、優梨愛ちゃんの仇の相手の名前に既視感があるのですよ。
「そういえば、トハチェフスカヤって環希がプティで負かした相手だったよね?」
「そのアナスタシア・トハチェフスカヤだね」
「ランキングも三位だし、さすがにプティのファイナリストだけあって強かったよ」
アナスタシアは私よりも一足先にジュニアサーキットに参加していて、確実に実績を積み上げていたのです。
二年前に比べてアナスタシアが、どれぐらい強くなっているのか、QFでの対戦が楽しみですね。
まあ、クレーで優梨愛ちゃんに苦戦しているぐらいなのだから、私の敵ではなさそうではありますけど。
「優梨愛ちゃんは、ウィンブルドンを目指して頑張ろう!」
「まだ、萌香さんとのダブルスが残っているよ」
「それもそうだったね」
ちなみに、萌香ちゃんは無事にシングルスのQFへと勝ち進んでいます。
「アンタねー。いくら、環希がシングルスに集中してダブルスをおざなりにしているからといって、同じチームのあたしと萌香さんのダブルスを忘れていただなんて」
「わ、忘れていたわけではないよ。シングルスを中心に考えてただけだよ」
同じチームマドカに所属しているとはいっても、普段は別々に行動することが多いからなぁ。
それに、どうしてもダブルスはオマケって感覚が抜けきらないんだよね。
でも、ダブルスの女王であったママの娘としては、口に出せない事柄の気もしますけれども。
「怪しい……」
「あ、怪しくなんてないよ!」
けして、優梨愛ちゃんとはグランドスラム以外では一緒にならないから、ダブルスを忘れていただなんて口が裂けても言えません。
「まあいいわ。テニスはシングルスが中心で回っているのは確かなんだし、環希がシングルスをメインにしているのも本当のことだしね」
「だから優梨愛ちゃんも、ウィンブルドンのシングルスファイナルを目指して頑張ろうってことだよ」
「その言い方だと、あたしが決勝で環希に負けるという予定なのかな?」
「優梨愛ちゃんは、私に勝てるとでも?」
優梨愛ちゃんが私に勝とうだなんて、百年早いわ!
まあ、可哀そうだから、本人の前では言わないでおいてあげるけどさ。
「ぐぬぬ…… しょ、勝負に絶対はないんだから!」
「それも、練習マッチで私に勝てるようになってからだね」
「いまに見ていろー。こうなったらダブルスでは、ローランギャロスもウィンブルドンも絶対に優勝してやるんだから!」
「そう、その意気だよ!」
優梨愛ちゃんが小さなことに拘らない性格で助かったよ!