2 15-40 同志よ!
「おじいちゃんおばあちゃん、勝ったよー!」
「環希、おめでとう!」
「たまちゃんは強いわね~。まどかの全盛期よりも強いんじゃないかしら?」
「まだ私の全盛期の方が強いわよ」
それはそうだろうね。庭野まどかの全盛期には、まだ私の実力では足りないでしょうね。
特にダブルスでは、ママの足元にも及ばない気がしますね。
伊達ではダブルスのグランドスラムを、七度も制覇できるわけがないからね。
そう考えると、改めて庭野まどかの偉大さが理解できる数字だよ。
でも現時点では、ダブルスを真剣にやるつもりはないのだから、もーまんたい。
「環希の勝ってくれたおかげで、おじいちゃんも儲かったよ」
おじいちゃんってば、大会の優勝者を予想する賭けだけに飽き足らずに、一試合毎の勝者を予想するさっきの試合も賭けていたんだ。
「どんだけ儲かったの?」
「今回は小さく賭けたから、儲けは2万ポンドぐらいじゃな」
「ほえー」
それでも、2万ポンドも儲けたんだ。
「環希、これから一緒にジョッケクルブ賞を見に行くぞい」
「ジョッケクルブ賞?」
「フランスダービーのことですね」
ジョキークラブのフランス読みでしたか。さすがは麻生さんです。フランス語もお手の物でしたか。
さすあそが板についてきましたね!
「あなた、その2万ポンドを溶かさないようにして下さいよ」
「と、溶かさんわい」
「本当ですかね……?」
おじいちゃん、おばあちゃんに釘を刺されていてワロス。
ロンシャン競馬場は、スタッド・ローラン・ギャロスと同じくブローニュの森にあるから、ここからすぐ近くでしたね。
あれ? でも……
「フランスダービーってロンシャンじゃなくて、シャンティイ競馬場じゃなかったっけ?」
萌香ちゃんの試合が終わってから、シャンティイ競馬場に行っても、発走時刻には間に合わない気がするのですけど?
試合が早く終われば、ギリギリで間に合うのかな?
「なんだ、環希は詳しいんじゃな」
「この娘ったら、競馬育成シミュレーションに嵌っているのよ」
タマクイーンの25戦無敗は、ゲームとはいっても感動したよ!
「そうだよ。だから、有名なレースとか競馬場は覚えているんだ」
「そうじゃったか」
「それで、フランスダービーはシャンティイだったと記憶しているんだけど?」
「今年はシャンティイが工事中だから、代替でロンシャンでの開催なんだよ」
なるほど、シャンティイ競馬場は改装中でしたか。
そういえば、ロンシャンが改装中で、凱旋門賞がシャンティイで代替開催された年もありましたね。
でも、ロンシャンの2100メートルって、リュパン賞の気がしないでもない。
あと、シャンティイ競馬場と香港にあるシャティン競馬場って紛らわしい気がしませんか?
まあ、シャティンは漢字で書けば、沙田競馬場なんですがね。
「それじゃあ、萌香ちゃんの試合が終わって時間があれば、ロンシャンに行こうかな」
「うむ。みんなも気分転換を兼ねていかがかな?」
ロンシャンならば、萌香ちゃんの試合が二時間半とかの長丁場にならなければ、間に合いそうですしね。
ちなみに、優梨愛ちゃんの試合は明日なので今日はありません。
「私は知り合いの馬が出走しているので、見に行きたいですね」
「百合ちゃんの知り合いというと、あのヒゲオヤジか?」
「その息子の馬になりますね」
む? 麻生さんに馬主の知り合いがいるということは、麻生さんは上流階級の社交場に出入りしているということでしたか。
つまり、やっぱり麻生さんは、お嬢さまでファイナルアンサーみたいです。
「え? それじゃあもしかして、わたしの試合が長引いたら不味いってこと?」
「萌香ちゃん、頑張って早く終わらしてね♪」
「ぷ、プレッシャー掛かるね……」
プレッシャーに打ち勝ってこそ、次のステージに上がれるんだよ。
「環希って萌香さんの試合と競馬を天秤に掛けてるの?」
「そんなことないよ? 萌香ちゃんの試合も見たいけど、ダービーも見たいんだよ」
「それを、両天秤というのよ」
えー、そうなんだ。どちらにしようかなって両方に期待を持たせてから、どっちかを取るのが両天秤じゃなかったの? 違ったかな?
「でも、わたしも競馬って見たことないから、見てみたいかも?」
「おおっ! 同志よ! 萌香ちゃん良く分かってるじゃん」
「おおっ! タバリッシュ、タマキ!」
私と同志の萌香ちゃんは抱き合って、それからガッシリと固く握手を交わしたのでした。
うん、こういうノリに付き合ってくれる同志萌香は、貴重な存在だよ。
優梨愛ちゃんでは、同志ごっこの良さを理解してくれないからね。
「それに、ロンシャン競馬場って有名だしね」
「世界で一番美しいとも優雅とも言われている競馬場だよ」
「こうなったら、三十分で終わらせてやるー!」
「いや、萌香さんでも、さすがに三十分では無理な気がしますよ?」
うん。さすがにそれは、優梨愛ちゃんが正しいかな?
頑張ってダブルベーグルが出来たとしても、四十分近くは掛かるだろうね。
「いささか動機は不純だけど、その意気ならば坂巻も大丈夫そうだな」
「ママのお墨付きも出たことだし、相手にダブルベーグルをプレゼントするつもりで頑張ろう!」
「ダブルベーグルは無理だとしても、一つはベーグル喰らわせたいなぁ」
うんうん、その意気だよ。
「といいますか、あたしたちって緊張感ゼロですよね」
「そうだな。これは主に環希のせいだな」
「でも、リラックスして試合に挑めるのは良いことだよ」
そうこれは、萌香ちゃんをリラックスさせる為の、高等な戦術だったんだよ。
※※※※※※
それで、萌香ちゃんの試合結果はといいますと、6-3、6-0のストレートで見事に二回戦進出を決めたのでした。
試合時間は、五十分ちょっと掛かってしまったけどね。
でも、ちゃんと有言実行して、ベーグルのオマケまで付けるだなんて、萌香ちゃん凄いっス!
ついでに、フランスダービーの結果はといいますと、麻生さんの知り合いの馬である日本産フランス調教馬の人気があまりなくて、2万ポンドが60万ポンドに化けました……
場内のフランスギャロでも買って、そっちでも10万ユーロを儲けていました。
おじいちゃんの博才は神懸っていますね。
もしかしたら庭野家の財産って、おじいちゃんが博打で築き上げたのでしょうか?
まあ、ママも現役時代にはかなり稼いだはずだから、おじいちゃんの博打だけではないはずですけど。
現実では、ロンシャン競馬場で仏ダービーが開催される未来はくるのでしょうか?