2 0-40 一回戦実況と萌香と優梨愛
ベーグルを期待していた人すまんかった…
『ゲーム、ワン』
「このゲーム、ワンがキープしました」
「このゲームは、長いラリーが三本ありましたね」
「16本、21本、25本と長いラリーが続きました」
「ワン選手も意地をみせたということでしょう」
「これぞ、クレーコートの戦いといった感じでしたね」
「ええ、本来であれば、クレーコートでの試合は球足が遅くなりますので、このようにラリーが長くなりやすいのが普通なんです」
「先ほどのゲームを除いて、この試合は本来の形ではなかったということでしょうか?」
「今日のワン選手は調子があまり良くなかった気がしますね。それに比べて、庭野選手の調子が良かったから、余計にラリーが続かなかったのでしょう」
「そうですか。さて、第二セットも大詰めを迎えました。日本の庭野環希がツーブレイクアップしてゲームカウント5-2とリードしています」
「ここまでくれば、圧倒的に庭野選手が有利ですね」
「さあ、第8ゲーム。庭野のサービングフォーザマッチになります」
※※※※※※
「やっぱ、この解説のオッサン勘違いしているよ」
「さっきのゲーム、完全に環希は遊んでいましたよね?」
「うんうん。たまきちゃんはストロークの練習をしていたから、ラリーが続いていただけなのに、解説のオッサンは見ていて分かんなかったのかな?」
「普通は分からないんじゃないですか」
「そんなもんかな?」
「だって普通の選手では、試合中に練習なんて酔狂な事はしませんから」
「そうかな? わたしでもリードして余裕のある時には、いろいろと試したりするけど?」
「萌香さんも大概、環希に毒されていますね……」
「えー、でも、トッププレイヤーとかでも試合途中で遊んだりするじゃん」
「普通の選手は、ツーブレイクアップでも遊んだりしませんよ」
「そんなもんかな?」
「そんなものなんです。しかも、グランドスラムの本戦で相手はトップテンですよ? 普通に考えたらありえません」
「まあ、たまきちゃんがテニスの試合を遊びの延長ぐらいに思ってプレイしているってことだよ」
「環希のことだから、そうなんでしょうね……」
「心に余裕がないと、ミスが増えるんだよねー」
「あー、そう言われてみると、萌香さんの言うとおりかも」
「でも、遊びすぎてミスする場合もあるけどねー」
「萌香さん、それは自爆だと思います」
「よく、チョコンとドロップしたと思ったら、ネットを越えなかったとかさ」
「あ、ありますね……」
「それはそうと、このオンデマンドは使えるよ」
「使えるですか?」
「うん、実況を聴きながら試合を見ると、臨場感が増す気がするね!」
「テレビ中継の実況を聴きながら現地で生の試合を観戦するなんて、ある意味、贅沢な観戦の仕方ですよね」
※※※※※※
パシッ
『15ラブ』
「庭野のエースが決まった! 今日の試合、14本目のサービスエースになります」
「ジュニア女子選手のクレーの試合で、ここまで14本のエースはかなり多いですね」
「手元に詳しいデータはありませんけど、私も体感では多い気がしますね」
「そうですね。普段であれば多くても、5本か6本といったところではないでしょうか?」
パシッ
『30ラブ』
「庭野、連続でサービスエースです。ワンは動けません」
「それだけ、ワン選手の今日のコンディションが悪いのでしょう」
「普段のワン選手とは違うと?」
「女子選手は男子と比べたら、どうしても調子の面で波がありますからねぇ。特にジュニアの女子では、それが顕著だと思います」
「なるほど、そうでしたか」
パシッ
『40ラブ』
「三連続でのエースです!」
「どうやら、ワン選手は試合を諦めてしまったようですね」
「いまのは完全に、初めからボールを追っていませんでしたね」
「そうですね。しかし、これはある意味では仕方ないのかもしれません。逆に試合の途中で棄権しなかったことを誉めてあげましょう」
「さあ、庭野にマッチポイントがきました!」
パシッ
『ゲームセット! マッチウォンバーイ、ニワノ! 6-2、6-2!』
「庭野、最後もサービスエースで決めました!」
「相手の調子が良くなかったとしても、これは素直に凄いですね」
「庭野やりました! ジュニア世界ランキング6位のワンミンメイをストレートで破って、二回戦進出です!」
「しかし、ひとこと苦言を呈させてもらいますけど、庭野選手は利き手をどちらかに固定した方が良い気がします」
「そういえば、最後のサーブは左で打ってましたし、試合の途中途中でも何度か左を使ってましたね」
「ええ、後々の事を考えると右なら右。左なら左と利き手は決めた方が、庭野選手の為にもなるでしょうね」
「それはまた、なぜでしょうか?」
「それはですね、テニス界において両利きで成功した選手が、未だかつて存在しないことが答えになるかと」
「そう言われてみると、私にも有名な両利きの選手の名前というのが出てきません」
「私も過去の記録を全部知っている訳ではありませんので、もしかしたら、ATP250やWTAのインターナショナル程度のグレードなら、過去に勝った選手もいるのかも知れませんが、記憶に残っている限りそれ以上で活躍した選手はいないはずです」
「庭野選手がグランドスラムの頂点を目指すには、両利きのままだと厳しいというのが、ちゃんとデータとして出ているのですね」
「そうなりますね。庭野選手がこのまま両利きでプレイを続けるのであれば、グランドスラムで優勝するのは厳しいと言わざるを得ません」
※※※※※※
「やっぱ、このオッサンの解説はダメだな。全然たまきちゃんを理解してないわ」
「どうしました? 萌香さん隣のコートも、もう直ぐ終わりますよ。次、萌香さんの試合でしたよね?」
「いやー、解説のオッサンが頓珍漢なことばっか言ってるから、つい可笑しくてねー」
「トンチンカンですか?」
「うん、もっともらしくしたり顔で、たまきちゃんの利き手を固定しろとかなんとか、のたまってたよ」
「あの子は両手使いのアレがデフォルトなんですけどね……」
「うんうん、そうだよね。右も左も使ってこその、たまきちゃんだよねー」
「でも、外からしか環希を知らない人が見れば、そう言うのは当たり前なのかも」
「そうなのかな?」
「指導者の人とかって、やっぱ先入観とか過去の経験とかがどうしても邪魔をしてしまって、色眼鏡で環希を見てしまうのだと思いますよ」
「やっぱ古い大人は、固定観念の呪縛からは逃れられないのかぁ」
「そうやって考えてみると、コーチって凄いですよね」
「たまきちゃんを両利きのまま育てて成功してるからねー」
「普通のコーチだったら、環希が小さいうちに利き手を矯正させていたのでしょうし」
「そうだよね。両利きのたまきちゃんの可能性の芽を摘まなかったんだから、コーチって凄いと思うわ」
「コーチが柔らか頭で、あたし達も助かってますしね」
「うんうん、庭野まどかは選手でも偉大だったけど、コーチでも優秀ってことだよね!」
「坂巻、そろそろ準備しておけよー」
「了解しましたー」
「ところで私がどうたらとか、なんの話をしていたんだ?」
「コーチって偉大なんだなぁって、萌香さんと話していたところです」
「里田もようやく、私の偉大さに気が付いたのか?」
「そういうところは、やっぱ母娘なんですね……」
実況で単調な試合描写を最低でも12ゲーム書くとか無理ですわw
テニスが題材の小説が少ないわけだよ…