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1 5-5 30-30 真面目にやりなさいよ!


 メードリングのインターナショナルスプリングボウル大会で、私は第二シードをもらいました。つまり、ランキング的に、私よりも上位の選手は一人しかいないという訳です。

 その第一シードの選手のランキングも70位台ですので、私とあまり変わらないのですよね。


 私は一ヶ月半ぶりの実戦だったのにもかかわらず、どうやら試合勘は失われていなかったみたいで、SFまでの全ての試合を順調にストレートで勝ち進んで、決勝まで進出することができました。

 決勝の相手は、チェコのノーシードの選手でした。


 チェコはテニスの強豪国だけあってか、ノーシードの選手でもあっさりと決勝まで勝ち上がってくるだなんて、さすがは選手層が厚いみたいですね。


 それで、第一シードの選手はといいますと、まさかの初戦敗退だったのです。

 まあ、テニスでは、シード選手が初戦で敗れるのは、よくあることなのですがね。


 ジュニアの女子では、特にその傾向が強いと思われます。女の子は体調面やメンタルの面で、男子に比べたら多少むらっけがあるのですよね。

 だから、私も一コケしないように気を付けなければいけません。






 ※※※※※※






 メードリングG2大会の決勝が始まりました。


 第一セットの1ゲーム目、コイントスに勝った相手の選手がレシーブを選びましたので、最初のサービスは私からです。

 コイントスに勝った選手は、なぜか後攻めを選ぶ確率が高いのですよね。


 おそらくは、まだ身体が暖まってない状態でサーブを打ちたくないとかの理由なのでしょう。

 もっとも、私の場合はそんな事はあまり考えてないので、その時の気分で決めてたりもするのですが。



「はっ」


 先ずは、デュースサイドから右腕で角度の付いたワイドに逃げるサーブを入れる。


『15ラブ』


 ネットを越えてからサイドライン手前で急激に落ちて、サービスエースが決まった。


「はっ」


 お次は、アドサイドから左腕で、また同じく角度の付いたワイドから外に逃げるサーブを入れる。


『30ラブ』


 ネットを越えてからサイドライン手前で急激に落ちて、サービスエースが決まった。

 相手は何も出来ないまま、ただ立ち尽くすのみである。


 しかし、このワイドに逃げるサーブだけ決めているのも芸がないので、もう少しバリエーションを増やして遊んでみましょうかね。

 今度はデュースサイドからのサービスだけど、お次も左腕で行きますよっと。


「はっ」


 私の左腕から放たれたサーブは、センターライン上に落ちてから、相手アドサイド側に逃げるように跳ねた。


『くっ』


 相手は体勢を崩しながらも必死に喰らい付いて、なんとかボールをラケットに当てたまではいいけど、そのレシーブはややロブ気味の死んだ球も同然のリターンとなってしまった。

 まあ、残念ではあるけど、それ以外の方法では返しようがないよね。


「でりゃ」


 私は前方に走り込んで、相手のリターンしたボールを空中で捉えて、相手のデュースサイド、フォア側のコートにボールを叩きつけけた。

 相手選手は体勢を崩されたまま、アドサイド、バック側に流れているので、当然ながら、この打球には追い付けない。


『40ラブ』


 サーブ&ボレーが決まった瞬間である。

 くー、気持ちいいね!


 あと1ポイントで、サービスゲームをキープです。

 最後の〆は何をしようかな?


 そうだ! 久しぶりにアレをやってみよう!



「……」


 スカッ


『なっ!?』


 空振りである。


 そこから、空振りをしたラケットを下から上へと切り返して、下手でチョコンとドロップサーブを軽く入れてみた。

 強くて速い打球のサーブが打ち込まれると思っていた相手は、この意表を突いたトリッキーなサーブに反応できないでいる。


 低めに柔らかく放物線を描いたボールは、ベースライン上で待ち構えていた相手選手を嘲笑うかのように、サービスコートの浅めの位置で軽くポンポンと二回跳ねた。



『ゲ、ゲーム、ニワノ』



 よっしゃ、ラブゲームでサービスゲームをキープだぜ!

 まず出だしは順調といったところだね!



『ちょっと、あなた! 最後のサーブはなんなのよ!』



 サイドチェンジでコートを入れ代わる時に、すれ違いざまに対戦相手の子に呼び止められた。

 なんか怒っているみたいで、文句を言われてしまったよ。



『トリックプレーですけど?』



 それがなにか?



『ふざけないで真面目にやりなさいよ!』


『そうですよ、ニワノさん。エキシビションではないのだから、対戦相手に失礼な行為ですよ』



 なんてこったい! 審判からも注意されてしまったよ。

 えー、でも、プロの試合でも極稀に空振りをやって、笑いを取っているじゃないですかー。


 素人には一見して単調に見えるテニスの試合にとっては、エンターテイメント性は必要不可欠だと思うのだけどなぁ。

 テニスファンを増やすのには、まずはテニスに興味を持ってもらわなければならないのだからね。


 そのためには、観客が見ていて面白いと感じるプレーというのは必要なんだけどなぁ。

 誰も彼もが目の肥えた玄人のファンとは限らないのだから。


 プレーに遊び心がない試合というのは、素人さんが見ていたら、どうしても退屈というのか、つまらないと感じてしまう気がするのですよね。

 プロというのは、観客を楽しませてナンボ。わざわざお金を払ってまでして、試合会場に足を運んでプレーを見に来てくれた観客が、


「楽しかった!」「面白かった!」「また見に来たい!」


 こんな感じで、満足してもらってから家路についてもらうのが、プロの仕事だと思うのですよ。

 私の個人的な見解ではありますけど。


 でもまあ、私はまだジュニア選手ではあるのですがね!

 それも、今年に入ってからITFジュニアサーキットにデビューしたばかりの、ぽっと出の新人選手だったよ。


 しかし、審判に逆らうのは、私の主義ではありませんので、ここは大人しく従っておきましょう。



『わかりました。この試合では、さっきのはもう使いません』


『アレをやりたければ、エキシビションでやりなさい』



 私の庭野圓明流の秘技である百八の奥義のうちの一つが、禁じ手として封じられてしまうとは!

 トホホな気分とはこのことだよ……


 ですが、こればかりは仕方がありません。

 こうなったら、ここは一つ、真面目にテニスのプレーをするとしますか!


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― 新着の感想 ―
[一言] 庭野圓明流 ワロた (:.´艸`:.)ぶっ ((笑´∀︎`))ヶラヶラ
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