1 4-5 30-15 内緒の話かな?
チクチクして痒い……
ドコがとかナニがとかは聞かないで欲しい、庭野環希です。
でもまあ、まだ土手の部分だけだから、これでもマシな方なのかも知れませんね。
薄くて助かったよ。
それで、無事に?スペインから帰国して、いつもの日常が戻ってきました。
まあ、相変わらず、ママの飛行機の便を選ぶセンスには、少し疑問を感じさせられましたけど。
イスタンブールを真夜中の二時に出発する便なんて、誰得なんでしょうかね? でも、スペイン時間の体内時計になっていたので、私には深夜の十二時に感じられたので、眠くてもギリギリ起きていられましたが。
その分、飛行機が離陸してから安定飛行に入ってシートベルトのサインが消えたら、速攻で寝ましたけど。
日本に到着する時間帯もあまり良くはなさそうな便でしたね。成田着も夜の八時ちょっと前だったし、横浜の自宅にたどり着いたのは深夜の11時近くだったのですから。
それでも、時差の関係で日本の夜11時でも、本当ならば眠くはならなかったはずなのに、疲れていたからなのか直ぐに寝れたので、時差ボケも直ぐに解消されたのが、まだ救いといえば救いだったのですがね。
せめて、あと二時間出発を繰り上げてくれたら、便利な便に化ける気がするんだけどなぁ。
あー、でも、ヨーロッパの主要都市を夕方に出発する便を中心にダイヤを組んで、乗り継ぎ便をそれに合わせるとなると、どうしても乗り継ぎ便の出発は深夜になってしまうのか。
イスタンブールと成田を結ぶ便の乗客は、半分以上はヨーロッパへの乗り継ぎ客のような気がしますしね。
私たちも乗り継ぎ便の乗客だったしね。
乗り継ぎ便の乗客が上客…… 失礼しました。
それはそうと、イスタンブールの空港はラウンジが豪華でした。この空港にも、ピアノがありましたので、数曲弾かせて頂きました!
トルコといったら、トルコ行進曲!
……で、いいんだよね?
トルコ行進曲は、オスマントルコがウィーンを攻めた時のことを題材にしているのだから、トルコの輝かしい時代でもあったから大丈夫でしょう。
結局、ウィーンは落とせなくて撤退したみたいだけど。
モーツァルトとベートーヴェンの両方のトルコ行進曲を弾いちゃいました。
ようつべにもうpしたら、なかなか人気になっている感じがしますね。
あと、イスタンブールといったら、これは外せないという曲があります!
飛んでイスタンブール。でもこれって、トルコの人は分かるのかな?
ちなみに、ターキッシュのイスタンブール発、成田行きのビジネスクラスは、寝心地も良く機内食も美味しくて、大変よろしゅうございました。
……出発時刻を除いてだけどね。
機内食なんて、飛行機の中なのに、わざわざシェフみたいな人が取り分けてお皿によそってくれたのですよね。これには、少々驚かされました。
食事に関しては、ライスだけが、日本人の私には少し合わなかったけど、それ以外は大変美味しかったですね。
あと、トルココーヒーの飲み方は、意外と癖になりそうな気がします。
※※※※※※
それで、この四月からは、私も中学二年生になりました。
「行ってきまーす!」
「はい、いってらっしゃい」
時刻は朝の7時40分、横浜線、小机駅。いつものように、最後尾の車両の一番端のドアから電車に乗り込む。
最後尾の一番端のドアが開くと、ドアの端に優梨愛ちゃんの顔が見えた。ここが、優梨愛ちゃんのいつもの定位置である。
うん、いつ見ても優梨愛ちゃんは可愛いですね。
「優梨愛先輩、ごきげんよう」
「はいはい、おはようさん」
むぅ、なんだか最近、優梨愛ちゃんの私に対する扱いが、徐々に軽くなっている気がするぞ。
それで、高等部の一年生になった優梨愛ちゃんは、私の制服とはほんの少し彩が違っています。
山手女学院の中等部の制服と高等部の制服の違いは、リボンタイの色と胸ポケットに付いている校章の縁取りの違いでしょうか?
中等部のスカーフはワインレッドで、高等部のスカーフはグリーンになります。校章の縁取りも高等部では、金色になるのです。
あと、スカートも中等部は、ネイビーブルーのチェックでしたけど、高等部ではグレーとホワイトのチェックになります。
「それにしても、わざわざスペインまで行って虫垂炎で手術とは、環希もついてなかったわね」
「あはは、280ポイント取り損ねちゃったよ」
「G1大会でも優勝するつもりでいたのかよ。まあ、環希らしいと言えばそれまでだけどさ」
「なんてったって、たまきちゃんですから!」
虫垂炎でビリェナG1大会の試合を途中でリタイアしてしまったので、280ポイントを稼ぎそびれはしましたけど、それでも、私の現時点でのITFジュニアランキングは、585ポイントで、ランキング79位に位置しているのだ。
だから、どうやら全仏オープンジュニアの予選には出場できそうなので、一安心といったところですね。
「あー、はいはい。それで、もう大丈夫なの?」
「うん、もう全然オッケーだよ」
「それは良かった。でもまさかアンタの初黒星が、虫垂炎によるリタイアになるとはねぇ」
「あはは、それはさすがに私でも予想してなかったよ」
こういうのを、弘法にも筆の誤りとか言うのでしたっけ?
なんか違う気もするけど、まあいいや。
「これからの環希の予定はどうなっているの? 入院して予定が狂っちゃったんでしょ?」
「本当であれば、今月の下旬にフランスで開催される、G1大会に出る予定にはしていたんだけどね」
その後、ゴールデンウイークには、イタリアの温泉リゾート地として名高い、サルソマッジョーレ・テルメで開催されている、G2大会に出場する予定の優梨愛ちゃん達の応援をして、その後、ミラノから帰国するはずだったんだよね。
サルソマッジョーレって舌噛みそうな名前だな。
「ああ、それ。コートダジュールには、あたしと萌香さんがアンタの代わりに出場することになったから」
「イタリア四連戦は回避できて良かったじゃん」
どうやら、ミラノのGA大会の前に一休みが出来るみたいですね。
日程的にも多少は楽になったみたいだから、このスケジュールはかえって良かったと思います。
怪我の功名が私にではなくて、優梨愛ちゃん達に行ってしまったともいうけど、心が海のように広いたまきちゃんは、それを素直に喜ぶことができるのです。
「そうとも言えるのかな? でも、なんで環希がコートダジュールの予定で、あたしと萌香さんがイタリアからの予定だったんだろ?」
「ジュニアグランドスラム以外は、なるべく出場する大会が重ならないようにしたいとか、ママが言ってたよ」
「ああ、なるほどね。潰し合いになる可能性があるからなのか……」
「そういうことだね」
私と優梨愛ちゃん達二人が、同じ大会に出場してしまうと、勝ち上がった場合にはトーナメントの何処かで対戦する可能性が出てくるのだ。
そうなると、負けた方はポイントがそれ以上は稼げなくなるのですよね。
当然、負けるのは私ではなくて、優梨愛ちゃんと萌香ちゃんの方なんですけど。
だから、これは私に配慮してというよりも、優梨愛ちゃん達二人に配慮して、私と重ならないスケジュールを組んでいると言えるのでしょう。
ママ曰く、「環希はどこででもポイントを稼げるのだから、イタリアは二人に行かせるから」とか、前に言われちゃいましたしね。
二人はダブルスのペアを組んでいるから、同じ大会のシングルスの本戦で潰し合うことも、たまにはあるのだけどね。しかし、こればかりはどうしようもありません。
「万が一、環希とぶつかってしまったら、あたしのポイントが伸びないからなー」
「あはは、優梨愛ちゃんは私に負けるの前提なんだ」
「今はまだ、環希には勝てないと自覚しているからね」
「優梨愛ちゃんは謙虚だね」
傲慢な私とは大違いだと思います。
「アンタと違って一般人は謙虚なんだよ。それに、今はまだ、だよ。いつかは必ず勝ってみせるんだから」
「また叩き潰してあげる♪」
昨年の全中の決勝戦以来、公式戦では優梨愛ちゃんとの対戦はありません。でもそのうち、ジュニアサーキットの何処かで対戦することになるのでしょうね。
それが、ジュニアグランドスラムの決勝とかだったら最高なんだけれども、さすがにそれは高望みしすぎかな?
「いつか、その傲慢なアンタに吠え面かかしてやるんだから、今に見ておきなさい」
優梨愛ちゃん、それって、やられ役が言うセリフの気がするのですけど……?
でも、空気の読めるたまきちゃんは、黙っておいてあげることにしました。
「その日を楽しみにしているね」
菊名を過ぎて、若干、車内の混雑も緩和された感じがします。
ほんの僅かだと思うけど。
それにしても、痒い……
「ん? 環希、アンタさっきから何、ソワソワというかモジモジしているのよ」
優梨愛ちゃんに気付かれてしまった!
「優梨愛ちゃん、ちょっと耳貸して」
「なになに、内緒の話かな?」
ごにょごにょごにょ……
「え、嘘! 手術する時に剃っちゃったの?」
「しーっ、優梨愛ちゃん声が大きいよ」
「あ、ごめんごめん」
どうやら、優梨愛ちゃんは少しデリカシーに欠けるようでした。