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1 4-5 30-0 チャオ!


『ガビー、色々とありがとうね』



 術後の経過も順調に推移して、無事に退院できた庭野環希です。

 退院して日本に帰国する私を、ガビーがお見送りにきてくれました。


 つまり、ガブリエラちゃんは今日のビリェナG1大会の、決勝戦には出場しないということである。

 まあ、一昨日にお見舞いにきてくれた時点で、もう既にガビーは、QFで敗退していたのですがね。



『ううん、あたしもタマのおかげで30ポイント稼がせてもらったから、こちらこそありがとうね!』


『ふふ、それじゃあ、お互い様ってヤツだね』


『そういうことだよ』


『また何処かの大会で会えるといいね』



 お互いがこのまま順調に行ったら、全仏オープンジュニアで、再会できそうな感じでしょうか?

 私は病み上がりで、順調とは程遠い気もしますけど。



『タマはローランギャロスには、間に合わなさそうなの?』


『うーん、多分、間に合うかな?』


『じゃあ、パリでの再会を心待ちにしているよ』


『うん、わかったよ。それじゃあ、パリでの再会を誓って、チャオ!』



 たとえ、四、五日の入院だったとしても、体力も多少落ちているだろうし、身体を作り直さなければならないので、手術前の元の身体に戻すのには、一月近くは掛かりそうな気がしますね。

 そう考えると、五大会連続で優勝できてポイントの貯金があるというのは、無理をして大会への出場を強行しなくても済むということだ。


 ここにきて、私自身が前もって稼いだポイントが、私自身を助けてくれる事になったということでしたか。

 つまり、芸は身を助けるということですね。ちょっと違うかも知れないけど。



『あはは、それイタリア語だよ』


『そういえばそうだったかも。スペイン語ではアディオスだったね』



 でも、アディオスって、悪役が敵を殺す時に言うセリフに聞こえなくもないぞ。



『うん、正解。でも、チャオっていいかもね』



 チャオは気軽に使える便利な言葉の気がしますしね。



「環希、そろそろ行くわよ」


『おっと、もう時間みたいだから行くね』


「タマ、サヨナラ!」


『ガビー、サヨナラでもいいけど、こういう時に親しい間柄では、マタネって言うんだよ』



 でも、ガブリエラちゃんと知り合ってから半月程度しか経ってないのだから、親しい間柄かといえば微妙な気もしますが。

 しかし、もう既に一緒にペアを組んで、ジュニアサーキットでも優勝したのだから、親しい間柄と言ってもいいのかな?


 うん、私の中では、ガブリエラちゃんはもう既に友達なのである。



「ソッカ、マタネ!」






 ※※※※※※






「なによコレ? エコノミーの座席と変わらないじゃないのよ」



 バレンシアの空港に到着して、イスタンブール行きの飛行機に搭乗したと思ったら、ママの第一声がコレでした。

 まあ、ママが声を上げるのも無理からぬことだとは思いますけど。


 私も初めてヨーロッパ域内の移動でビジネスクラスに乗った時には、ママと同じ感想を抱いたものでした。

 横に三列並びのエコノミークラスの座席の、真ん中の座席をテーブルにして仕切って使えなくしただけの、なんちゃってビジネスクラスの座席が、ヨーロッパ域内の路線を飛ぶ小型機には多すぎるのだ。


 ほとんどの航空会社が、おしなべてソレなのである。



「ヨーロッパ域内路線のビジネスクラスは、大抵こんなモノですよ。まどかさんも何回も乗ったことありますよね?」


「百合子、違うのよ。ターキッシュは欧州の短距離路線でも、ビジネスクラスはちゃんとしているって聞いていたのよ」



 ああ、そういうことでしたか。

「ああ、そういうことでしたか」



 私の心の声と麻生さんの肉声とが被ってしまった!



「それに、私も過去に何度かターキッシュの欧州路線に乗ったことがあるけど、近距離向けとはいえ、ちゃんとしたビジネスクラスだったわ」


「それは、エアバス機のほうですね」


「つまりこれは、ボーイングなの?」



 そういうことですね。ご愁傷様でした。


 ちゃんとしたビジネスクラスの座席を搭載している欧州の航空会社って、ターキッシュのA320系統とアエロフロートと、あとどこかあったかな?

 つまり、直ぐには思い至らない程度のキャリアしか、小型機ではまともなビジネスクラスの座席で飛ばしている航空会社がないということである。



「そうなりますね。ご愁傷様でした」



 また、麻生さんと……



「とほほ……」



 つまり、安さに負けて、ターキッシュのビジネスクラスを選んだ、ママが悪いということでファイナルアンサーになります。

 まあ、ターキッシュでもA320シリーズが飛んでいる欧州域内の路線は、ちゃんとしたビジネスクラスの座席なんだから、今回は運が悪かったのかも知れません。


 でも、これって、ビジネスチャンスのような気がしないでもない。

 ビジネスクラスとエコノミーの料金の中間ぐらいの運賃設定で、ちゃんとしたビジネスクラスの座席オンリーか、半分はビジネスクラスの飛行機を飛ばすとか、中間層以上の乗客からのニーズって絶対にあると思うんだけどなぁ。


 メインターゲットは、プライベートジェット機のチャーターはもったいなくて使えないけど、しょぼいビジネスクラスには乗りたくないというプチ富裕層でしょうか?

 あと、ケチじゃない大企業のビジネスマンとかが顧客になりそうな気がしますね。


 世の中、格安航空会社だけが、ニーズではないはずなのだ。

 しかし、ニーズの需要が少ないから、どの航空会社もやらないという気もしないでもない。


 私が数百億以上の資産を築けたら、引退後にエアラインを立ち上げるのも面白そうな気がしますね!

 そのためにも、テニスで大金を稼がなくては。



「十万高くても、パリ経由のエールフランスにしておけば良かったわ」


「あっちは羽田着ですしね。でも、パリまではコレと同じですよ?」


「コレと乗っている時間が倍近く違うのだから、まだパリ行きの方が我慢できるわよ」



 バレンシアからパリまでは二時間ちょっとで、バレンシアから飛んでイスタンブールまでは四時間弱なのだから、確かにママの言うとおりではある。

 ビジネスクラスに慣れ親しんでいるママにとっては、エコノミーに座っての四時間のフライトは、きっと我慢の限界を超えるのでしょうね。


 人間一度、楽を覚えてしまうと、エコノミーでの苦行には耐えられない、元には戻れない身体になってしまうらしいです。

 そう考えると、私もあまりエコノミーには乗っていないから、ヤバそうだな。


 ちなみに、バレンシアと日本との間には、直行便はありません。

 需要が少なすぎるのでしょうね。



「こうなったら、欧州近距離路線でも二時間以上掛かるフライトには、ちゃんとしたビジネスクラスの座席を用意しろと、ターキッシュにメールを送らなければ!」



 でもそれって、イスタンブールからだと、バルカン半島や東欧の一部を除いて、ほとんど全部のヨーロッパ路線が該当しちゃうような気がするのですけど?

 それと、ママはクレーマー気質であったらしい。



「というよりも、周りの目がありますのでそろそろ静かにして下さい」


「はい……」



 どうやら、ママと麻生さんの力関係では、麻生さんの方が上みたいでした。

 雇用主はママの方なんだけどね!


 それにしても、ママは麻生さんと一緒だと、子供に戻ったようになってしまうみたいですね。

 我がままを言うママに対して、それを窘めるのが麻生さんという図式である。


 そういえば、こうしてママと麻生さんと私の三人だけでの、海外への旅って初めての気がしますね。

 だから、ママと麻生さんが普通に話しているのは見たことがあっても、麻生さんと親しく話していて、はちゃけているママを見るのは初めてなんですよね。


 つまり、ママは案外、子供っぽい面があるということが分かったのでした。


なんちゃってエアライン経営モノが書きたくなってきた…

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