1 4-4 15-40 猫の名前
前半環希視点、後半ガブリエラ視点。
ビナロスのG2大会は、順調に勝ち上がって無事に優勝することができました。
ポイントも160ポイントを稼げましたし、これで、合計ポイントは380ポイントになって、ランキングも一気に100位以上ジャンプアップすることができました。
私の現在のITFジュニアランキングは、129位となっております。
それで今週の私は、シングルスの他に、ダブルスにも出場する予定になっているのです。
今週、単複で同時に優勝を達成できれば、ポイントを570ポイントまで伸ばせて、ランキングも80位ぐらいまで上昇するのです。
捕らぬ狸の皮算用とか予定は未定とか言いますけど、私にとっては、ほぼ計算ができるポイントと言えるのではないでしょうか。
……若干、ダブルスの方は微妙だけどね。
でも、ダブルスはG2大会で優勝したとしても、30ポイントしか加算されないのだから、誤差の範囲ということで。
まあ、ランキングは、獲得ポイント上位の6大会分のポイントで、ランキング順位は争われるのだから、塵も積もればなんとやらでして、ダブルスでも数百ポイントの上積みは見込めるのです。
そう考えると、ランキング上位を狙うのであれば、ダブルスに出場して結果を残すというのは、馬鹿にできないということではあるのだ。
今週に稼ぐ予定の、160+30ポイント。これだけでは、全仏オープンジュニアに出場するには、あと少しポイントが足らない感じですけど、まだ三月なので焦らないで行きましょう。
大会は来週もあるんだし、全仏オープンジュニアは六月に開催されるのだから、まだ時間は残されているのだから。
しかし、先週のビナロスの大会で優勝したことによって、全仏オープンジュニアには、ほぼ出場できる目処が立ったので、一安心といったところですね。
超一流のジュニア以外の、ヨーロッパのジュニア選手の実力も、ほぼ把握することが出来ましたので、全仏までにポイントを稼げる計算が成り立ったという訳なのである。
他の普通のジュニア選手であったのならば、「全仏に出場するまでに、あと数百ポイントも足らない! どうしよう……」とかに、なると思うのですよ。
でも、私の場合では、「全仏まで、あと数百ポイント? あと二大会で優勝すればいいだけじゃん!」と、こうなる訳なのだ。
傲慢が服を着て歩いているような、物の言い方だと自分でも思いますけど、まあ、私が庭野環希だからということで。
さすおにならぬ、さすたまでしょうかね?
うん? もしかしたら、80位ならば全仏の予選には出場できるのかな?
現時点では、まだ129位だけど。
ジュニアグランドスラムは、64人中48人が本戦ダイレクトインできるので、ランキング48位~55位ぐらいまでが確定。
予選は32人中、予選ワイルドカードを除いた、26人がランキング上位から入れるので、ランキングに載っている全員が参加の場合は、49位~75位までが予選の出場が可能になる。
しかし、全員参加はあり得ないので、キャンセルする人数を加味すれば、85位~90位ぐらいまでは、予選に出場できそうな感じでしょうか?
だけど、これから他の選手も全仏オープンジュニアの出場に向けて、追い上げてくるはずですので、油断はできません。
それに、どうせならば、予選ではなくて本選の出場権を確定させたいですしね。
それで、今週の大会が開催されている会場はといいますと、ビナロスの南隣にあるベニカルロという町で行われるのです。
ビナロスから車で10分と掛からない距離で助かりました。ベニカルロはビナロスに行く途中で一旦通り過ぎた町でしたね。
ビナロスでも思いましたけど、こんな人口の少ない田舎町なのに、立派なテニスクラブとテニスコートがあるのですから、やっぱりヨーロッパには、テニスというスポーツが文化として根付いているのだなぁと、改めて思いましたね。
おそらくは、歴史が伝統と文化を涵養する土壌となるのでしょう。
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『タマキ・ニワノです。先週の約束通り、今週は改めてよろしくお願いします!』
この子が、マドカ・ニワノの娘なんだよね。やっぱり母娘だからなのか、猫系の顔がどことなく似ている感じではある。
しかし、今週は、と。そうきましたか。
つまり、ダブルスの決勝までという意味で受け取ってもいいのかな?
それにしても、この子の英語は聞き取りやすいですね。あたしよりも英語が上手くてビックリだよ。
早口で捲くし立てるネイティブの英語よりも、日本人は非ネイティブだからなのか、逆に丁重な英語に聞こえますね。
日本人って英語が下手なんではなかったの?
おっと、それよりも挨拶を返さなくては。
『改めまして、ガブリエラ・カブレラよ。ガビーって呼んでちょうだい』
『ガビーですね。了解しました!』
『タマキは愛称とかあるの? なんて呼べばいいのかな?』
ベニカルロのG2大会で、あたしはダブルスのレジェンド、マドカ・ニワノの娘であるタマキ・ニワノとペアを組んで貰えることとなった。
残念ながら、伝説のマドカ・ニワノは、娘のスペイン遠征には一緒に付いて来なかったので、彼女に会えなかったのは残念ではあるのだが。
そういえば、全豪オープンジュニアのダブルスで準優勝した、サトダとサカマキのコーチをしていたのが、マドカ・ニワノでしたね。
だから、彼女は娘のタマキよりも、サトダとサカマキのコーチングに忙しいのかも知れません。
タマキに帯同してきたのは、ユリコ・アソーという女性でした。この人も、マドカ・ニワノとペアを組んで、WTAツアーを何回か優勝したことがある、ダブルスの強豪選手ではあったみたいなのだ。
そのアソーさんは、マドカ・ニワノとの現役時代の縁もあって、タマキの保護者代わりとして一緒にスペインに来たのでしょうね。
でも、マドカ・ニワノあってこその、アソーであり、マドカ・ニワノあってこその、シュレーダーであったと思うのですよ。これは、あたし個人的な感想ではなくて、周囲の人間もそう認識していたはずである。
だからこそ、ダブルスでグランドスラムを七度制したことがある、レジェンドのマドカ・ニワノに会って、一緒に写真を撮ったりサインを貰いたかったな。
『タマキが呼びづらいのなら、省略して、タマでもいいですよ』
『わかったわ、タマね。意味とかはあるのかな?』
『うーん、日本ではタマは猫に付ける名前ですかねぇ』
『ね、猫の名前…… あなたはソレ構わないの?』
猫系の顔だから、愛称がタマなのかな?
『でも、私のお婆ちゃんもタマって呼びますし、友達でも私のことをタマって呼んでいる子もいますので、べつに私は構いませんよ』
『じゃあ、あたしもタマって呼ばせてもらうわね』
お婆ちゃんからして、孫娘を猫の名前で呼んでいるのか。
これが本当の、猫可愛がりというヤツなのかって…やかましいわい!
『それでお願いします。でも、ガビーは本当に私がペアで良かったのですか?』
『それは、どういう意味でかな?』
タマキのシングルスでの実力は、あたしが身をもって経験したのだから、彼女の強さは折り紙つきだ。
『先週も言いましたけど、母と違って私はダブルスの経験が少ないですし、それに私が協調性に欠けるのは、私自身がソレを自覚していますから』
『タマはまだ13歳なんだし、ダブルスの経験が少ないのはしょうがないと思うよ。だから、それは気にしなくても大丈夫だよ』
逆に言えば、僅か13歳で、ジュニアサーキットデビューからここまで、四大会連続して優勝しているという、モンスターが、タマキ・ニワノなのだ。
過去にも、こんな選手いたのかな? もしかしたら居たのかも知れないけど、それはごく一握りの天才と呼ばれたスター選手だけのはずだよね。
つまり、タマキ・ニワノも、その一握りの天才の中の一人ということである。
『ガビーは、もっと協調性の方を気にして下さい』
『協調性かぁ。でも、テニス選手って我の強い人ばかりじゃない?』
とくにテニスが強くなれば、それに比例して我も強くなる気がするしね。
また、そうでなくては、ランキングの上位には上がれない厳しい世界なのが、テニスというスポーツだと思うしね。
『分かりました。あと、私はテニスをしている最中は人格が変わるみたいなので、それは許容して下さい』
『それは、どんな風に…かな?』
『言葉が汚くなって、攻撃的になるとでも言えばいいのでしょうか?』
『そ、そう、わかったわ。タマ、こちらこそよろしくね』
少し、いや、かなり心配になってきたのだけれど、大丈夫だよね?
でも、タマキ・ニワノとペアを組んだのは、少し早まったかなぁ。