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1 4-4 0-30 単調なストローク


「今度こそ本当に、やっと着いたー!」



 バレンシアの空港から、車を北へ走らすことおよそ二時間、ビナロスという街にやってきました!

 ビナロスは、私が想像していたとおり、人口が三万人弱の小さな田舎町でした。



「ええ、さすがにちょっと疲れましたね」


「ご苦労さまでした」



 バレンシアの空港から、ここまでレンタカーを運転して来たのは麻生さんだもんね。

 でも、まだ私は車の運転が出来ない年齢なのですから、運転を代わってあげることは不可能なのですよ。


 いや、運転しようと思ったら、昔もとい前世で取った杵柄ということで、本当は私でも車の運転はできるんだよ?

 しかし、法律で運転が認められてないからダメということで。


 明文化されているルールは守らないとね!

 それでも、私も早く18歳になって車の免許が欲しいよ。


 それにしても、車窓から外を眺めていて気が付いたのだけれど、スペインのバレンシア地方は、薄茶けた大地が広がっていて、あまり緑が目立たない土地柄だったんですね。


 こんな痩せてそうな土地で、よくオレンジが育つよなとか思ったりもしました。

 あれかな? 見た目が痩せている土地に見えるだけで、栄養たっぷりの土壌なのかも知れませんね。


 それで、今回のスペイン・バレンシアへの遠征は、都合三週間に及びます。三週連続でバレンシア州の各地で大会が開催されるので、その三ヶ所を移動するには、レンタカーの方が都合が良かったという訳なのです。

 大会のグレードは前二週がG2で、最後の一週がG1となります。


 13歳である私が年間に出場できる、ITFジュニアサーキットの大会数は、10大会プラス4までなのだ。そのプラス4大会も、ランキング50位以内に入らないと貰えないボーナスなのである。

 今年はもう既に、ニュージーランドで三大会分を消費しているので、私が今年出場できる残りの大会数は、最大でも7+4の11大会しか残されてないのだ。


 まあ、ニュージーランドでポイントを稼いだので、なんとか50位以内には入れそうな目処が立ったから、こうしてバレンシアまでやって来れたともいうのですが。

 普通ならば、現時点で240位の選手が、50位以内に入れる目処が立ったなど言えば、大言壮語も大概にしておけとか言われそうですけど、まあ、私だからということで。


 九月の初めに開催される全米オープンジュニア。それまでに出場する予定の9か10の大会数を逆算したら、このスペイン三連戦が有力な候補として浮上したというわけなのである。

 先週と今週に開催されている、タイ → マレーシアのG1二連戦でも、べつに構わなかったのですけど、そっちのサーフェイスはハードだから、全仏オープンジュニアを見据えて、クレーコートの本場でもある欧州を遠征先に選んだというのが正解なのかな?


 ママも一応は、「環希は、どの大会に出たい?」とか、私にも意見は聞いてくるのですけど、最終的な決定権はママにありますので、私が逆らうことはできません。

 でも、私もクレーでの試合の経験を積むのは悪くはない提案だと思いましたので、このスペイン遠征を了承したということであります。






 ※※※※※※






 ビナロスのG2大会では、私は本戦からの出場である。ここにきて、現時点での私のランキング238位というのが、効果を発揮してくれたということですね。

 まあ、テニスの強豪が揃う本場ヨーロッパでのG2大会だけあってか、ランキング238位程度では、さすがにシードされるまでには入れませんでしたけど。


 ドローを見て、選手のランキングをチェックしてみると、アジアでのITFジュニアサーキットの大会に比べたら、出場している選手のレベルが一枚も二枚も上の感じがしますね。

 さすがは、テニスが盛んなヨーロッパなのだと実感させられました。


 それで、一回戦のR32は、ワイルドカードで出場している地元スペインの16歳の選手を相手にして、6-0、6-0のダブルベーグルで圧勝しました。

 ちなみに、そのワイルドカードに選出された子は、ジュニアサーキットのポイントを持っていない選手でした。


 ジュニアサーキットの大会も今年は初めての出場だったみたいでした。

 言葉は悪いですけど、そんな弱い選手をG2大会のワイルドカードに選ぶなよとか、少し思ってしまった私は悪くないと思います。


 でも、ワイルドカードには、ちゃんとワイルドカード争いというのがあるはずですので、地元でのワイルドカードの予選を勝ち上がってきて選ばれたのでしょうから、文句は言えません。

 それに、楽して勝てたのだから、それに越したことはなかったのでした。


 しかし、次の二回戦、R16での対戦相手は第二シードでした。

 ジュニアランキングも私よりもかなり上でして、68位のこれまた地元スペインの選手です。ランキングが68位ということは、優梨愛ちゃんと同じくらいの実力と思ってもいいのかな?


 でも、ヨーロッパの選手は、クレーコートが得意な選手が多いので、萌香ちゃんぐらいのレベルを想定していた方が良さそうですね。

 しかし、その程度の実力では、この私には勝てないでしょう。


 それでは、私のポイント稼ぎの養分になって頂きましょうかね!






 ※※※※※※






「とぅ」


 相手のサーブを私がリターン。


『やぁ』


 私のリターンを相手がレシーブ。


「てぃ」


 相手のレシーブを私がレシーブ。


『やぁ』


 私のry


 ……単調なストロークが続きます。


 まあ、まだお互いが様子見で、小手調べの段階ですので、ヒッティング練習とあまり変わりはありません。


 クレーコートというのは、バウンドしてから跳ねるボールの球足が遅くなるので、ラリーが続きやすくなるサーフェイスなのだ。

 ストロークの応酬で粘って粘って相手のミスを待つのが得意な、シコラーの日本人選手には合っているはずのサーフェイスだと思うのですよ。本来であれば。


 しかし、日本人選手でクレーコートを得意としている選手は少ないのが現状なのである。

 これは、日本人選手がジュニア時代から、アンツーカーの赤土に慣れ親しんでいないというのが、一番大きな理由の気がしますね。


 日本は雨が多いから国内には、アンツーカーのコートは少ないんだよね。

 雨が降ったらドロドロのグチャグチャになってしまうのが、赤土なのだから。


 最近では、人工クレーコートなるモノが普及し始めましたけど、砂入り人工芝の二の舞にならないことを願います。

 でも、人工クレーは、欧州で開発されたとも聞き及んでいますので、そのうち世界中に普及するのかも知れませんね。


 結局のところ、世界基準のサーフェイスに成らない限り、日本独自のガラパゴスサーフェイスで終わってしまい、そのガラパゴスに慣れ親しんだ日本人選手は、世界では通用しなくなるのです。

 日本独自の基準でも経済的合理性でも構わないけど、それを硬式テニスのプロを目指しているジュニア選手にまで強要するなと言いたい。


 まあ、だからこそ、名門と言われるテニスクラブでは、砂入り人工芝ではなくて、ハードコートが主流のサーフェイスになっているのですがね。

 日本国内で実力のあるジュニア選手が生まれる土壌は、ちゃんとしたサーフェイスを整備しているテニスクラブから生まれるのが圧倒的に多いのが、その証明でしょう。


 日本のある一定の層の人達は、日本人選手が世界で通用しなくなるような方策を、わざと取っているような気がしてなりません。

 頭の痛い問題だと思います。


 それで、この試合の対戦相手ですけど、ランキングは優梨愛ちゃんよりも下ですけど、クレーコートでの実力は、やはりといいますか、優梨愛ちゃんよりも上の気がしますね。

 優梨愛ちゃんも私の自宅のコートに、アンツーカーのコートがあるので、そこで練習はしているのですけど、アンツーカーのコートでの実戦経験という点においては、ヨーロッパの選手にはどうしても見劣りしてしまうのですよ。


 日本やアジアでのジュニアサーキットの大会では、サーフェイスがクレーで開催される大会が極端に少ないのだから、優梨愛ちゃんがクレーコートでの実戦経験が少ないのは、やむを得ないのですがね。

 しかし、この程度では私の敵ではありません。


 身体も暖まったことだし、そろそろエンジンを吹かして行きますよ!


いいサブタイが思いつかなかった…

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