1 4-4 0-0 優梨愛ちゃんは卒業旅行に行きたい
ニュージーランドの三週連続開催の大会を、三週連続優勝で飾って、私はITFジュニアランキングポイントを、220ポイント稼ぐことができました。
ダブルスにもエントリーしていれば、もうあと30~40ポイントは上乗せできたのだけど、私にはダブルスを組んでくれる相手がいなかった!
いいもん…… いいもんね。
ダブルスの試合までやって、無駄なエネルギーを消費しなくて良かったのだと、ポジティブに考えるもんね。
私はシングルスに全力投球するんだもん。
け、けして、ボッチとかではないんだからね!
それで、現時点での私のランキングはといいますと、238位に位置しています。
ジュニアグランドスラムに出場するためには、あと400ポイントほど稼がなくてはなりません。
それはそうと、優梨愛ちゃんと萌香ちゃんの二人は、現在、シニアのITFサーキットに挑戦中であります。日本国内の15Kや25Kの大会だけどね。
ちなみに、私がシニアの大会に出場するには、今年の12月以降まで待たなければなりません。
残念ながら、いくら実力があろうと14歳にならないと、ITFプロサーキットには参加できない仕組みになっているのですよ。
それで、先週には地元の横浜で、25K大会が開催されましたので、私も日吉まで二人の応援に行ってきました。平日は学校があるから応援できたのは、土日に行われた予選だけだったけどね。
そして、二人とも見事に予選を突破して、本戦へと駒を進めることができました。
「二人とも大人に勝って予選を突破するなんて凄いじゃん!」
「まあ、あたしに掛かれば、予選ぐらい通過するのは朝飯前だよ!」
「わたしも優梨愛ちゃんと同じかな?」
いや~、ジュニアのダブルスとはいえ、さすがに二人はグランドスラムファイナリストだけあって、予選での実力は一味違いましたね!
最近では、二人とも自分に自信が持てるようになってきたみたいで、なによりです。
でも、予選通過は朝飯前とか言っていた優梨愛ちゃんは、Q2でフルセットまで縺れて苦戦してましたけどね。
まあ、それは言わぬが花ということで、黙っておいてあげましょう。
※※※※※※
しかし、本戦では、優梨愛ちゃんは初戦敗退に終わり、萌香ちゃんも二回戦のR16での敗退となりました。
「ま~け~た~! きーっ! 悔しい!」
「ど、ドンマイ! 次の豊田で頑張ろう!」
ITFサーキットの下部大会にあたる、25Kの大会とはいえ、シニアの壁はまだ二人には厚かったみたいでしたね。
でも、自分よりも強い相手と試合をすることは、けして無駄なことではありませんので、この敗北を糧にして、二人はさらに成長することでしょう。
「あ、あたし、卒業式があるから豊田は出ないよ」
「わたしは豊田に回るけど、優梨愛ちゃんは日の出で再合流だよ」
そういえば、山手女学院では来週に、中等部の卒業式があったのでした。
でも、私は在校生としての出席はできないのだ。山女では卒業式で三年生の見送りは、二年生だけの仕事なんですよね。
優梨愛ちゃんなんて、今度ようやく高校生になるばかりの年齢ですし、中学三年生でシニアの予選を突破しただけでも、本来であれば十分に上出来の部類だと思います。
本人は自分のプレーが出来なかったと、納得が行かなかったみたいだけどね。
「そっか、私は海外遠征に行っちゃうから、応援には行けないけど、二人とも頑張ってね!」
「環希はいいなー。あたしも海外の方がいいなー」
「でも、それって卒業旅行を兼ねてでしょ?」
「バレた?」
どう考えても、卒業旅行に行きたいって、そう優梨愛ちゃんの顔に出てましたよ。
「でも、対戦相手としてはジュニアの選手よりは、日本での国際大会といえども、やっぱりプロ選手が相手の方が良い経験にはなるはずだよ」
「だから、海外の15Kや25K大会に出るんだよ」
そうきたか。でもまあ、今回の横浜の大会はハードコートだったけど、未だに日本での大会は、ITFプロサーキットといえども、砂入り人工芝での開催が多いのだ。
砂入り人工芝に慣れてしまったら、海外での試合には苦戦しそうだから海外のITFサーキットを回るのは、間違った選択ではないのである。
まあ、今回の優梨愛ちゃんは、卒業旅行に比重が傾いてはいるみたいですけど。
「その海外遠征のお金は誰が出すのかなぁ?」
「げぇ! コーチいたんですか?」
「ええ、さっきから、あなたたちの会話は全部聞こえてたわよ」
優梨愛ちゃんは、まだ自力で海外遠征に行けるだけの稼ぎがないのだから、当分の間は、ママにおんぶにだっこの状態が続くのでしょうね。
具体的には、あと二年か三年という期間は。早めにスポンサーが資金を提供してくれれば、優梨愛ちゃんが自分の希望する大会にも足を運べるようにはなるのでしょうけど。
でも、おそらく暫らくの間は、萌香ちゃんとのダブルスでのペアも続けるのだろうし、コーチがママなのだから、優梨愛ちゃんの希望はあまり通らないのかも知れません。
優梨愛ちゃん、頑張って強く生きるんだ!
プロで活躍をすれば立場は逆転するんだから、それまでは耐え忍ぶんだ。
「心配しなくても、ゴールデンウィークにはイタリアへ連れてってあげるわ」
「やったー!」
「ただし、ジュニアの大会が四週連続で、みっちりと入っているわよ」
「げぇ! ジュニアサーキットですか?」
イタリアの四週連続で開催されるジュニアサーキットは、全仏オープンジュニアまでの前哨戦としてなのか、G2、G2、G1、GAと、非常にハイレベルな大会の連続なので、タフな一ヶ月になりそうですね。
「なんだ、里田はジュニアの大会が不満なのか? だったら、トルコのアンタルヤの15K大会を四週連続で体験してみるか? なんだったら、チュニジアでもいいぞ?」
「いえ、イタリアがいいです!」
「それで、イタリアの四週が終わっても日本には帰らずに、そのまま全仏オープンジュニアに突入するわよ」
ミラノのGA大会から全仏オープンまでは、中一週間しか間隔が空いてないので、そのままイタリアかフランスに留まっている方が合理的ではあるよね。
つまり、いままで経験してきた遠征の中でも一番の長期にわたって、日本を離れての海外遠征ということになるのだ。
海外遠征が終わって日本に帰国したら、優梨愛ちゃんが学校の勉強に付いて行けるのか、少し心配になりますね。
「優梨愛ちゃん、ローランギャロスの本戦ダイレクトインを確定したければ、ジュニアのポイントも大事だよ」
「それもそうだったね」
まだ優梨愛ちゃんは、全仏オープンジュニアは予選しか当確してないのだから、浮かれるのは早いと思うんだよね。
予選を戦ってから本戦を戦うのと、本戦ダイレクトインでは疲労度が違うのですから、本戦に直接入れるに越したことはないのですよ。
「そういえば、イタリアの前の週にコートダジュールでG1大会があったわね」
「ミラノのGA大会と全仏の間にも、ベルギーでG1があるよ」
「なんだか嫌な予感がするのですけど……」
その嫌な予感というのは、正解だよ。
「出ようと思ったら、全仏オープンジュニアまで、七週連続での出場が可能ということだわ」
「そういうことだね!」
優梨愛ちゃんと萌香ちゃんは、頑張って強く生きるんだ!
「げぇ! さ、さすがに、七週連続での大会出場は勘弁して欲しいです」
「わたしもそれは流石に、ちょっと厳しいと思いまーす」
「まあ、私も鬼ではありませんので、コートダジュールかミラノの前の週とベルギーはパスしてもいいわよ」
「助かりました~」
つまり、結局のところ、コートダジュール+イタリア三大会か、イタリア四週連続大会の参加は確定ということだ。
それで、全仏オープンジュニアの前にある、ベルギーの大会は大事を取ってお休みという感じみたいですね。
「なんか最近、優梨愛ちゃんの言動が、たまきちゃん化してきた感じがする」
「萌香さん、それは勘弁して下さい」
たまきちゃん化とはなんぞや?
そして、私本人がいる目の前で、それを拒否する優梨愛ちゃんも大概でっせ。
それはそうと、横浜での25K大会の結果、予選通過ポイントを併せて、萌香ちゃんは6ポイント、優梨愛ちゃんは2ポイントの、ITF/WTAツアーのランキングポイントを獲得したというわけだ。
二人は立場上では、まだジュニア選手ではあるのだけれども、このポイント獲得によって二人は一応ではあるけど、プロの仲間入りを果たしたといっても差し支えないのかも知れない。
まあ、ランキングに載るためには、あと二大会でポイントを稼がなくてはランキングには載らないのだけれど、それでも、ポイントはポイントである。
萌香ちゃんは、あと一年で高校も卒業だし、この時点でプロのポイントを獲得できたことは、プロでやって行くのに対して、本人にとっても大きな自信となったことでしょう。