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1 3-3 30-15 私に決定権はなかった


 羽田発のニュージーランド航空に搭乗中の庭野環希です。


 今回のフライトでは、残念ながらもビジネスクラスは、ケチなママに却下されてしまったので、プレミアムエコノミーでの旅となります。

 エコノミーの座席を3列独占して横になれる、スカイカウチというのも少し気になったのですけど、今回はプレエコにしました。



 ……太平洋を南下して一路オークランドへ。



 プレミアムエコノミーとはいっても、一昔前の短距離国際線のビジネスクラスには相当するであろう座席でしたので、ニュージーランドまで10時間以上も掛かる長時間のフライトでも、それほど疲れなかったので満足でした。

 他の航空会社の場合は、プレエコでも機内食はエコノミーと同じ場合が多いのですけど、NZは機内食もエコノミーと違って、プレエコ専用の機内食を頂けました。


 つまり、NZはサービスの質が良いキャリアの気がします。たしか、航空会社の人気ランキングでも、毎年上位にランキングされている人気の航空会社だったかな?






「乗り継ぎの飛行機まで二時間ありますね。ラウンジに行きましょうか?」


「私はフードコーナーでも構わないよ」


「では、ラウンジでお願いします」



 私に決定権はなかった!



「あと、乞食するぞは禁止ですからね」


「いえすまむ!」


「あなたの母親はまどかさんだけど、まあ、いいでしょう」



 ひぇ~、麻生さん美人だから、睨まれると迫力があって怖かったよー!

 ちょっと、ちびりそうになってしまった。


 羽田のラウンジでの出来事を、根に持たれていたみたいでした……






 ※※※※※※






 オークランドで飛行機を乗り継いで、ウェリントンへとやってきました!


 ちなみに、ニュージーランドの首都ってオークランドじゃなくて、ウェリントンだったのね。いままでずっと、オークランドだとばかり思ってたよ。

 思い込みって怖いわー。


 それにしても、羽田便は便利ですね。一度、羽田発着の便利さを覚えてしまうと、成田が遠いのなんの。

 なんで、あんな不便な場所に空港を造ったのでしょうかね? 理解に苦しみますけど、横田空域が問題だったのかな?


 それで、ママたち三人は先週から、オーストラリアに遠征していますので、私の旅のお供は今回も麻生百合子さんです。

 といいますか、ママが優梨愛ちゃん達の遠征に帯同して不在の時に、私もテニスの試合で移動する時の保護者代行は、毎回、麻生さんなんだよね。


 ママの指導の比重は、実の娘の私ではなくて、優梨愛ちゃんと萌香ちゃんの二人を重点的に指導しているのだ。

 だから、私と二人の遠征がバッティングした場合には、ママは二人に付いて行ってしまうのです。


 優梨愛ちゃんと萌香ちゃんの二人は、ITFジュニアサーキットをほぼ毎回一緒に回っているのだから、ママが帯同するのは当然といえば当然なんですけどね。


 私には、ママのコーチングは不要とばかり、ママに見捨てられている、可哀想な娘なんですよ。およよ。

 だから私は、麻生さんと一緒に大会を回っているのである。


 普段の麻生さんは、ママの仕事を手伝っているみたいなのです。事務処理やらなんやらをこなすスタッフですね。ほら、ママは大雑把だから、書類仕事とか苦手な人なんですよ。掃除も苦手だし。

 でも、ママの料理はまあまあかな? しかしこれは、お婆ちゃんの指導の賜物だと思いますけど。


 それで、ママが不在の時の麻生さんは、私のマネージャーみたいな感じのことをしているのです。

 つまり、麻生さんはもう既に立派な、Team Madokaの一員ということですね!


 麻生さんの経歴をチラッと聞いたところによると、若い時にはツアーを回っていたとのことでした。ランキングは最高でも、170位ぐらいが最高だったみたいですけど。

 タイトルも、ITFの60Kが最高成績とのことです。麻生さんも、若い時にはアジアを中心にして、ITFサーキットをドサ廻りして、苦労してたのね。


 しかし、ダブルスでは、ママと一時期ペアを組んで、WTAツアーのプレミアを勝っていたりもしていました。

 なるほど。そういう縁で、麻生さんはママと一緒に行動することになったのでしたか。


 どうりで、麻生さんを初めて見た時に、どこかで見たような気がしたと思ったわけだ。


 元プロ選手だから、私の遠征時には、軽めの練習でのヒッティングパートナーなんかも、麻生さんは勤まったりするのですよ。あくまでも軽めの練習の場合のみだけど。

 麻生さんが元プロとはいえ、さすがに現役を引退した選手に、若さ溢れる伸び盛りのジュニアの運動量に付き合わせるのは、酷というものですので。


 さて、明後日からは、いよいよITFジュニアでの本番だ。


 置き去りにされ、地べたを這いつくばって目を皿にして稲わらを探し、艱難辛苦を乗り越えて、一日千秋の思いで、この時が来るのをどんなに待ちわびたことか。

 どの程度の差を付けて私が勝てるのか、練習の成果を発揮する時がきたのだ。


 つまり、レッツ実践です!






 ※※※※※※






 マッチポイントを握った私の、第6ゲームで4本目のサーブ。

 アドバンテージサイドに立ち、左腕から繰り出される強烈なスピンサーブ。



「でりゃ!」



 そう、私は未だに両方の腕を使ってテニスをしているのである。

 その時の気分や状況によって、サーブも使い分けていたりするのだ。


 さすがに、レシーブ時にラケットを持ち替えることは、あまりしなくなったけどさ。

 レシーブの時は基本的には右手が中心です。たまに無意識で左手も使うけど。


 今回は、左から右へと打つので、左手で打つ巻きながら落ちるサーブを選択してみたのです。

 イメージとしては、今中。



「g、good」



 えげつない角度で落ちながら、相手のサイドライン手前でボールが跳ねて、サービスエースが決まった。落ちながら外に逃げる球筋だから、スライスピンサーブと命名しよう。

 あの位置に決まるサーブは、たぶんプロでもレシーブできないでしょうね。


 だって、普通のレシーバー位置で構えていたら、物理的には絶対に届かない距離なんだから。

 だからといって、アレーコートの前方に出て構えるわけにも行かないしね。そんなことをしたら、私はセンターにズドンと打つだけだもんね。


 レシーブというのは、ある程度はレシーブをする範囲を捨てるという、割り切りが必要なのです。

 テニスの試合を見ていて、一見、選手が無気力な試合をしているように思える場面が、度々見受けられるのは、追い駆けても届かないから、無駄と割り切っているからなのです。無理に追い駆けたら、余分な体力も消耗しますしね。



「game set and match won by me!」



 おっしゃー! ITFジュニアでの初勝利だぜぃ!



「Nice game!」


『ナイスゲーム…… あなたアホみたいに強いわね』


『えへへ、それほどでもあるよ』


『日本人らしくないわね』


『試合で謙虚だと、相手に舐められるからね』


『まさか、ダブルベーグルを食らうとは、思ってもいなかったわ』


『食べられないベーグルだけどね!』


『あはは、そりゃそーだ。次の試合も頑張ってね』



 初戦を無事に突破したから、次の二回戦も頑張ろう!



 ウェリントンのG4大会は64ドローで行われます。しかし、出場選手は58人しかいなかったので、ITFジュニア初参加でノーポイントの私も、運良く本戦から出場することができました。

 全豪オープンジュニアと開催する週が重なってたから、参加者が少なかったのかな?


 でも、ジュニアグランドスラムに出場できるランキングの選手が、いまさらG4如きの大会には、あえて出場なんかしないよなぁ。

 ということは、単純に選手の集まりが悪かっただけなのかも知れませんね。


 それにしても、南半球のニュージーランドで、こんなにも沢山の日本人ジュニア選手を見掛けるとは、思いもしませんでしたよ。


 出場選手の三割が日本人ジュニアなんですよ。ここは、日本か? もしくは、東アジアでの開催だったのでしょうか?

 おかしいですね? 私は飛行機に10時間以上も乗って、遥々ニュージーランドまでやって来たと思っていたのに、会場に着いてみれば、日本か東アジアだったみたいでした。


 ニュージーランドは、北米にもヨーロッパにも行けちゃう距離と変わらないんだよ?

 それだけ、日本から遠く離れているのですよ?


 それなのに、なんで準自国開催みたいになっているのでしょうか? もしかして、経度があまり変わらないから、時差を気にしなくてもいいとかいう、そんな単純な理由とかですかね?

 でも、季節は真逆なんだぞ? もしかしたら、アジア・オセアニアで一括りだから、近所だとか思っているのかも知れませんね。


 それに、おまえら学校はどうした? 中学生高校生は、ちゃんと学校に行って勉強をしろよ! 勉強は大事なんだぞ。


 ……私も此処に居るのだから、人のことは言えなかったよ。

 そういえば、テニスのジュニア選手は不登校児ばかりだったよ……


 ちなみに、出場選手の内訳は、日本勢が三割、地元ニュージーランド勢も三割、お隣のオーストラリア勢も三割で、他の外国勢が一割という感じでした。

 日本人ジュニアの遠征力マジパネェ…


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