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1 3-3 0-15 私はいつも素直だよ


「そういえば、環希はジュニアサーキットどうすんの?」


「そうそう、優梨愛ちゃん。私もようやく13歳になったんだよ!」



 菊名を過ぎて、車内の空間がほんの僅かに広がった。


 昨年の12月に13歳の誕生日を迎えて、ようやく私も今年から、ITFジュニアサーキットに参加することが可能となったのです!

 今年からと言ったのは、残念ながらも12月には、ほとんどITFジュニアの大会がないのだ。しかし、シーズンオフだから、大会が少ないのは仕方がないのですがね。



「いや、プレゼントもあげたんだし、アンタの誕生日は知ってるから」


「ようやく、ITFジュニアサーキットに出場できる、この喜びを伝えたくて」



 喜びはみんなで分かち合えば、嬉しさも倍増するとか、偉い人も言ってた気がするしね。



「さよけ」


「優梨愛ちゃんヒドい!」


「それで、どこから参加するの? 埼玉にはエントリーしてなかったみたいだけど?」



 優梨愛ちゃんの言った、埼玉とは、一月の半ば頃に埼玉県の川口市で開催されるG4大会のことである。

 ITFジュニアのG4大会なんだけど、寒い真冬のオフシーズンだからなのか、出場するジュニア選手は、九割五分以上は日本人ばかりなんだよね。


 それに、サーフェイスは砂入り人工芝だし。

 いや? あそこは、一応はハードコートだったかな?


 でも、今の時期の埼玉は寒いから不参加の方向です。



「ふっふっふ、どこからでしょーか?」


「いや、もったいぶらなくていいから。ウザイだけだし。やっぱ、ニュージーランドの三連戦からスタートするの?」


「ピンポーン! 正解です!」



 優梨愛ちゃんは鋭いですね。もしかして、エスパーだったりして?

 まあ、それは冗談なんですけどね。ジュニアサーキットのカレンダーを見れば、誰にでも分かりそうなものですしね。


 それに、二年前には優梨愛ちゃんも、ニュージーランドの三連戦を経験していたのでしたね。



「まあ、環希だったら、海外の16才や17才が相手だろうが、あっさりと優勝しちゃいそうな気がするわ」


「なんてったって、たまきちゃんだからねー」


「アンタのその傲慢さが、羨ましく思えてくる時があるよ」


「優梨愛ちゃんも一緒にニュージーランドに行って、私の華麗なる技を見せつけてしんぜよう」



 なんといっても、私は未だに優梨愛ちゃんには、負けたことがないのだからね!

 優梨愛ちゃんは、私を師匠と呼んでもいいのよ?



「あたしは萌香さんと一緒に、全豪オープンジュニアだから」


「そういえばそうだった」



 ニュージーランドの三連戦シリーズの一週目と、全豪オープンジュニアは、同じ週に開催されるのでした。

 つまり、優梨愛ちゃんをニュージーランドに連れて行くことは、物理的に不可能ということです。


 この二年の間に、優梨愛ちゃんと萌香ちゃんの二人は、ジュニアのグランドスラムに出場できるまでに成長していたのです。

 もう既に二人とも何度か優勝も経験しています。萌香ちゃんはG1での優勝もありますし、優梨愛ちゃんもG2での優勝経験があります。ダブルスでは、GAで準優勝というのも経験しているのだ。


 いや~、私も二人と一緒に練習をしてきたので、二人の成長は自分のことのように嬉しく思います!


 それで、全豪オープンジュニアですが、優梨愛ちゃんは予選からの出場ですけど、萌香ちゃんに至っては、本戦に直接ダイレクトインできるほどの実力を付けているのだ。

 ジュニアランキングでいいますと、50位以内ということです。64ドローのうち上位48番目までが、本戦にダイレクトインできるのです。


 萌香ちゃんは、ランキング38位に位置しています。日本人ジュニア選手の中では3位ですね。優梨愛ちゃんのランキングは、65位になります。

 これは、高校二年生と中学三年生という、二人の年齢による経験の差も大きいのでしょうね。


 ジュニアランキングでは、トップ100位入りしましたけど、もう二皮か三皮剥けないとシニアでは、WTAツアーにはワイルドカード以外では、ほとんど出場すら出来ないで、アジアのITF25K大会のドサ廻りをやる破目になるのだ。



 しかし、グランドスラムといえども、欠場者が毎年数人は出ますので、本戦ダイレクトインのカットラインは、ランキング55位~60位ぐらいまでには下がる感じになります。

 でも、全豪オープンジュニアは再来週だよなぁ。その前に前哨戦のG1大会が、メルボルンと同じビクトリア州で来週にあるのでした。



「あれ? トララルゴンは?」


「もちろん、トララルゴンも出るよ。ということで来週早々にも、オーストラリアに行ってくるから」


「私も再来週には、ニュージーランドに行くから、べつにいいもんねー」



 でも、ジュニアとはいえ、グランドスラムかぁ。いいなぁ。羨ましいなぁ。私も出場したいなぁ。

 私も頑張ってランキングを上げて、早く二人に追い付いて、一緒にジュニアグランドスラムに出れたらいいな♪



「やせ我慢しちゃって。本当は環希も全豪に出たいんでしょ?」


「うん、出たいよ」



 グランドスラムに出場するためにも、ニュージーランドの三連戦で三連勝するぐらいの気持ちで、ポイントを稼がなければ!

 三連勝すれば、ランキングも一気に240位ぐらいには食い込めるし、そこそこ手薄な面子が揃いやすいニュージーランドの三連戦は、ポイントを稼ぐチャンスではあるんだよね。



「環希の割には、珍しく素直じゃん」


「私はいつも素直だよ」


「はいはい、環希ちゃんは素直で良い子でしたね」


「正直、自分の年齢が恨めしかったよ」



 上手く行けば、今年の全仏オープン、ローランギャロスに間に合うかも知れない。たとえ、全仏が無理だとしても、ウィンブルドンがあるし、そこにも間に合わなかったとしても、全米オープンがある。

 そう考えると、ITFジュニアサーキットは夢が広がりますね!



「それは今まで、ITFジュニアに出場できなかったから?」


「うん」


「環希は長期の休み以外は、お留守番だったもんね」


「いつも私は置いてきぼりにされてたから、優梨愛ちゃんと萌香ちゃんが羨ましかったんだよ」



 一時期は、本気で藁人形を作ろうとして、稲わらを探しに出掛けたっけ。近所に田んぼが無かったので、諦めて未遂に終わったけどさ。

 私の家の近くにも、畑ならチラホラとあるのですがね。我が家でも、お婆ちゃんの趣味で家庭菜園をしてますし。



「年齢だけは、どうしようもないからねー」


「それは分かってはいるんだけどね」



 年齢に関して言えば、自分ではどうしようもない事だと、それを頭では理解してはいるのだけれども、どうしても感情の面では、「なんで、私はまだ11歳なんだ!」とかって、なっちゃうのですよ。



「でも、あたしはアンタの才能が羨ましかったよ」


「ふふっ、お互いにないものねだりだね。でも、過去形なの?」


「ジュニアとはいえ、ランキングでトップ100入りして、これでも少しは自分に自信も付いたからね」


「世界でも互角に戦えるって?」


「そういうこと」



 東神奈川でそこそこの乗客が降りた。おそらくは、京浜東北線に乗り換えて、品川や新橋のオフィス街へと向かうのであろう。

 ビジネス用の小さめのキャリーバッグを転がしてた人もいたから、京急に乗り換えて、羽田に向かう人もいるのかも知れませんね。



「でも、優梨愛ちゃんは未だに私には勝てないんだよねー」


「アンタが異常なのが良く理解できたよ」


「異常って失礼な」



 その無駄にデカイ乳を揉むぞ。後ろから鷲掴みで。



「いや、真面目な話、海外で同世代や年上のジュニアと対戦してみても、環希よりも強いと思える選手とは、まだ対戦したことがないのよ」


「それって、優梨愛ちゃんも着実に強くなっている証拠なんじゃないの?」


「それもあるかも知れないけど、海外の強豪と戦ってみて、そのレベルを知ったら、改めて環希の異常なまでの強さが、良く理解できたってこと」


「ふふーん。まあ、私だからね!」



 つまり、私の比較対象である、優梨愛ちゃんと萌香ちゃんの二人を基準にして、ITFジュニアランキングを見てみると、私は最低でも38位以上の実力は既に持っているということである。

 たぶん、トップ10に近い実力なのかも知れませんね。


 これはけして、自己肥大妄想でも過大評価でもなくて、二人が対戦した相手との試合の結果を踏まえた上での、客観的な事実に基づいて判断した結果です。

 だって、優梨愛ちゃんだけでなくて、ランキング38位の萌香ちゃんですら、未だに私には勝てないのですから。


 まあ、子供の口喧嘩で、相手よりも優位に立とうとする、○○は●●よりも~、だから、私の方が~という、アレみたいなモノなんですけどね!



「その性格さえ良ければ言うことないのに、やっぱ環希は残念な子だわ」



 なんでやねん。さっき優梨愛ちゃんも羨ましいって言ってたやん。


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