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1 2-2 30-40 ストラックアウト


 たまきです。


 まだ、テレビ局に拘束されとるとです。

 収録時間が、夜の九時をすぎとるとです。


 テレビ局には、児童養護も労働基準の概念もなかとです。

 十八歳未満は夜九時以降の労働は禁止じゃなかとですか?


 拘束時間に比べたら、出演料が割に合わなかとです。

 これでは、お小遣いが増えなかとです。


 辛かとです。


 たまきです。たまきです… たまきです……



「次の勝負は、こちら!」


「テニス版ストラックアウトです! サーブを12球打って、何枚の的を打ち抜くことが出来るのか? その勝負となります」


「環希ちゃん、自信の程はどないでっか?」


「ぼちぼちでんな」



 通常、テニスではサーブするボールは、相手のサービスコートに入れるのが普通なのだから、テニスで垂直方向の壁にストラックアウトをするのは、異端の部類なんですよね。

 ストロークの練習で壁打ちはするけど、サーブの練習には壁打ちは不向きなのですよ。壁打ちでは、ネットの高さの位置は分かるけど、サービスコートでのインなのかフォルトなのか? そこまでは分かりませんしね。


 だから、この日のために、わざわざ壁にチョークでマス目を書いて、壁打ちの練習してきたんだよ。

 その成果を見せる時が、いま来たのだ!



「そうでっか。ぼちぼちでっか。ほな、行ってみよー」


「やってみよー!」


「それ、他局のネタやん!」


「教育テレビは、子供にとってのバイブル!」


「そうでっか」



 むぅ、ノリとツッコミが甘いですね。






 ※※※※※※






「1番と2番のダブル抜き狙いまーす」


「おっと庭野選手、いきなりのダブル抜き宣言だ!」


「公式戦無敗のお手並み拝見やね」



 ストラックアウトのマトまでの距離は、約13メートル。通常のテニスでは、ベースラインからネットまでの距離は、11.9メートル位だ。だから、距離的にはサーブを打つ距離とたいして変わらないのだけど、高さが問題になる。

 今回、設置されているマトの高さは、下が床から1メートル、上が2メートル位の高さになっているのだ。下はまだしも、上のマトを打ち抜くのには、普通のサーブを打つ感覚では、完全にサービスラインを越えるフォルトを打つ感覚になるのだ。


 つまり、普段いつも練習している技術が用をなさない、完全にお遊びということである。

 まあ、マトを目掛けて打つだけなのだから、楽ではあるのだけどね。



「でやっ!」



 バシッ



「おーっと! 庭野選手が宣言したとおり、見事に1番と2番のマトをダブルで打ち抜いたー!」


「さすがは、庭野さんの娘さんだ」


「まあまあやな」



 まあまあですと? 気に入らない言い草ですね。その捻くれた性根を、ぐうの音も出ないぐらいに、叩き直して御覧に入れましょう。



「次ぎ、8番と9番のダブル狙いまーす」


「またダブル抜きの宣言だ! 庭野選手は強気に攻めてますねえ」


「一度成功したから、調子に乗ってるんやね」



 うん、調子に乗って、ドンドン打ち抜いちゃうよー。



「とぅ!」



 パシッ



「おおっ! また宣言どおり、番号も違わずダブルで抜いたー! これは凄い!」


「連続でダブル打ち抜きは凄いですねー」


「ま、まあまあやね」



 ふふ、少しは動揺してくれたみたいですね。でも、まだまだ行くよ!



「次ぎも、4番5番のダブルで!」


「庭野選手、またまたのダブル抜き宣言! 超強気です!」


「けっ、調子に乗りすぎやで、ホンマ」


「浜本さん、大人げない発言ですねー」



 あらら、いい大人が悪態を吐いちゃいましたよ。アナウンサーにも窘められてるし。

 でも、この人は、これが芸風なのかな?



「ほいっと」



 バシッ



「これで、三球続けてのダブル抜き成功となりました! いやー、もしかしたら我々は凄いモノを見ているのでは?」


「これは、ストラックアウトの歴史に残りますよ」


「はは、そ、そうかも知れんね……」



 顔が引き攣って、語尾に力がなくなっちゃいましたね。南無三。



「お次は、3番と6番って…縦のダブルは、枠があるから無理でしたね」


「うん、それはさすがに無理やろうね」


「では、3番でお願いします!」






 ※※※※※※






「庭野選手、ストラックアウトはいかがでしたか?」


「楽しかったです!」



 結局、一球も外すことなく、持ち球が12球あるうちの6球で、ストラックアウトを終わらせてしまった。

 うーん、簡単すぎましたね。



「どうやったら、そんなに簡単に打ち抜けるん? コツとかあるん?」



 コツですか? 一球一球に魂を込めて、その一球に意味を持たせるとか、ジュニアの大会用の文言に真顔で書いてありましたけど、噴飯ものだと思いましたね。

 そんな文言を書いていて、恥ずかしくならないのでしょうかね?


 しかも、セルフジャッジを正当化させるための言い訳に使っているのだから、開いた口が塞がらないとは、このことを指して言う言葉なのでしょう。

 その一球に意味を持たせるのであれば、グランドスラムでも…以下略。


 そんな一球一球に魂を込めている時間的余裕など、テニスのストローク、ラリーの最中には、あり得ないのだから。

 その一球に意味を持たせる前に、考えるよりも身体のほうが素早く反応して、リターンを返しているのですよね。


 まあ、サービスの時は、多少は考える余裕があることは確かなのですけど。


 それはさておき、なんと答えたら良いものやら。「一球一球に魂を込めました!」とでも言えばいいのか? それこそ、失笑されるのがオチだぞ。

 相手がお笑いタレントなんだから、やっぱり、ウケ狙いで返したほうがいいのかな?


 あ、でも、ウケ狙いだったら、一球に魂を込める発言でもいいのか?

 しかしソレを言ったら、私が恥ずかしすぎるから、今回はやめておきましょう。



「そうですねー。まずは、1200WのATX電源を用意します」


「ふむふむ、それで?」


「次ぎに、256ビットのオクタコアCPUを用意します」


「ほうほうって、それってパソコンやん!」



 インテルハイッテル?


 まあ、パソコンは冗談なんですけど、処理の仕方は人間もパソコンもたいして変わらないと思いますよ?

 人間も神経を使って電気信号で伝達して、体を動かしているのですから。



「じゃあ、液化ナトリウムで」


「それは、高速増殖炉や!」



 なかなか、博学な芸人さんですね。といいますか、芸で頭の悪い発言をしたりするから、バカに見えたりもするのだけど、長年にわたって売れている芸人の頭が悪いはずはなかったのでしたね。

 どうやったら客にウケるのかとか、ちゃんと計算して芸を見せているのだから、売れている芸人って賢い人が多いのかも知れません。



「自分、芸人でも食って行けるんとちゃう?」


「アスリートは、元々、エンターテイナーですよ」


「あ、さよけ……」



 ちなみに、松田修平さんのストラックアウトの成績は、9枚中4枚でした。

 もう歳も、四十後半なんだし、逆によくもまあ、4枚も抜いたと褒めるべきなのかも知れませんね。


 暑苦しい男は、伊達じゃなかったみたいでした。

 ……私は苦手だけど。






 ※※※※※※






「ちょっと環希、アンタ何をテレビで喋ってんのよ!」


「なにって? なにが?」


「松田さんに何を言っているのかって聞いてんのよ!」



 ああ、あの収録したヤツ、今日が放送日だったのか。



「なにって、ママが現役時代にお世話になりましたのと、ラケットの話をしただけだよ。それがなにか?」


「言葉の裏に、悪意を潜ませていたクセに!」



 それは、ママが穿ち過ぎというモノだよ。もっと素直な心で、人の言葉を捕らえないと人生に生きるのが疲れちゃうぞ☆



「ママったらやだなー。もう少し自分の娘のことを信じて欲しいなぁ」


「ぜっんぜん、信用ならん!」



 なんでやねん。血は水よりも濃いんやで。


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