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1 15-15 母の独白


 うちの娘は少しおかしい。


 いや、言葉を飾るのは止そう。はっきり言って、うちの娘は異常だ。


「我思う、故に我あり」


 娘のこの言葉を聞いた瞬間、持っていたお皿を思わず落としそうになってしまった。


 デカルチャー! いや、デカルトだった。

 おまえはどこの哲学者なのかと、小一時間突っ込みたい。


 幼稚園の年長さん、つまり五歳の時点で、既に自我、パーソナリティが完成されているだなんて、なんの冗談かと思いたい。


「わたし、ママみたいなテニス選手になる!」


 この言葉だけを聞けば、娘が現役時代の私に憧れてくれた微笑ましい図なのだが、そのテニス選手になりたいという娘の動機が不純過ぎるのだ。


「そして大金持ちになる!」


 いや、それは確かに、一流のテニス選手になれれば大金を掴むことは可能ではあるのだが。


 とりあえず好き勝手にラケットを振らせてテニスを楽しみながら覚えさせようとしたのに、拙いながらも既に基本が身についてるとは、なんの冗談かと思わずにはいられない。

 いくら女の子が早熟とは言っても、これは明らかに異常だ。


 テレビでテニスの試合を見る機会が多かったから、それで身体の動きを理解したとでもいうのか?

 しかし、技術というのは練習を繰り返して身体に覚え込ますモノのはず。


 これが、テニス未経験者が母親であるのならば、「うちの娘は天才だわ!」とか無邪気に喜んでいられたのだろうけど、私はプロのテニス選手なのだ。それも世界の一流選手を相手に戦ってきたという自負もある。

 だからこそ、娘の異常さが余計に理解できるのだ。


 いっそのこと、さすがは私の娘なんだと開き直ったほうが精神衛生的には良い気がしてきた。


 うん、そう思うことにしておこう。主に私の心の安寧の為に。






「秘技、庭野流変わり身の術!」



 いや、それってただ単に、右手から左手にラケットを持ち替えただけだから。


 おそらくは夕方に放送されている、教育テレビの忍者アニメを見て感化されたのだろう。

 しかし、右でも左でも両方ともちゃんとサービスコートに入っているのだから、我が娘ながら器用なものだとは思う。


 もしこの先も両利きでプレイするのなら、それが通用するのかどうか一抹の不安を覚える。

 両利きで大成したテニス選手など、今も昔も聞いたことがないのだから。


 でも、楽しそうにテニスをしている娘を見ると、利き手を矯正させるのは可哀想だと思うのが親心というものだ。

 母親としての娘をのびのびとプレイさせたいと思う気持ちと、コーチとしての指導方針との葛藤か……


 親がコーチの選手は大成しにくいというのは、あながち間違ってはいないのかも知れない。

 成功したテニス選手というのは、仮にジュニア時代は親がコーチだったとしても、シニアに上がる頃には有名なコーチを専属として雇っているのが大半なのだから。


 それにしても、この娘は圧倒的にミスが少ない。ネットに引っ掛けることも稀だし、ちゃんとコート内にボールを入れてくるのだ。

 それも、サーブならサービスライン内に、リターンならベースライン深くにだ。


 私が教えてもいないのに、ワイド、センター、ボディに浅め深めと、打ち分けもちゃんと出来ている。

 まだ回転が甘いながらも、スピンも掛けてくるのだ。これも私が教えてもいないのに!


 たとえミスをしたとしても、少し考えた素振りを見せた後で直ぐに修正してくるだなんて、コーチ目線からしたらまったくもってコーチングのし甲斐のない可愛げのない娘なのである。


 というか、私ってそもそも娘にちゃんとしたコーチングをしたことがないような気がする。

 それなのに、娘はテニスの基本が出来ているのだから、娘にコーチって必要なのかと落ち込みそうになるよなぁ。


 私はコーチというよりも、娘のヒッティングパートナーをさせられている気分だ。

 事実、娘からすればそうなのだろう。


 天才とは、この娘を指して言う言葉なのだろう。

 多少は親のひいき目、親バカが入っているのは否定しないけど、間違いなく私よりもテニスの才能では上のはずである。


 この娘ならば、私が達成できなかった夢を実現できるかも知れない。

 そう、グランドスラムのシングルスで優勝するという夢を……


 こんな天才な娘ではあるけど、残念な部分が見受けられるのが玉に瑕だ。

 まったく、天才とナントカは紙一重とはよく言ったものである。


 そう、私の娘は女の子ながら、変なところで男の子っぽいところがあるのだ。

 スカートをはくのを嫌がって、ダボダボのハーフパンツがお気に入りだなんて、それって女の子としてどうなのよ?


 まあ、テニスをするのには動きやすくて良いのだけど。






「100パーセント勇気アターック!! うん、今日も絶好調!」


「こらー! 真面目にやりなさい!」


「えー、ちゃんとやってるよー?」



 いちいち技名を言わないとサーブが打てないのはいかがなものかと、お母さんはそう思いますよ。


 うちの娘は少しおかしいだけではなくて、少しお馬鹿さんでもあったようだ……


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― 新着の感想 ―
[一言] 中身.アラサーなのに 必殺サーブ叫ぶ主人公www 黒歴史間違いなしw
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