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1 2-2 15-40 その節はお世話になりました


 東京 某区 某テレビ局 スタジオ内



 たまきです。


 母親に売り飛ばされたとです。

 ばってん、うちはそんなに貧乏じゃなかとです。


 それなのに、母親に売り飛ばされたとです。

 理由も告げられずに、連れてこられたとです。


 世間テレビの冷たい視線に晒されて辛かとです。

 出演料は雀の涙ほどで、マジで泣きたくなるとです。


 これでは、お小遣いが増えなかとです。

 世知辛さが骨身に沁みて辛かとです。


 たまきです。たまきです… たまきです……



「お次の挑戦者は、こちら!」


「横浜から来ました、庭野環希、小学五年生です!」



 どうしてこうなった?


 まあ、言わないでも分かっている。テレビの番組内でテニスを披露するのだから、テニス関連ならまあ良いかと、ママが安請け合いしてしまったのが原因であろう。

 テニスに興味を持ってくれる人が増えるのは悪いことではないのだから、テニスの普及の意味もあってか、ママはテニス関連の取材や番組への出演に対しては、ガードが緩くなりがちなのだ。



「環希ちゃんは、テニスのラケットを持っての登場ですけど、テニスの選手であってますか?」



 このお笑いタレントは、いったいナニが聞きたいのだ?

 そのまんま見たら分かるでしょ? この姿で卓球でもやるとでもいうのか?


 ん? 卓球……?

 そうか! この番組は、スポーツバラエティなのだから、お約束というヤツを言わなければいけなかったのか。



「この場合、ウケを狙って卓球の選手とか言った方が良いのですか?」


「それを素人の環希ちゃんに言われてしまったら、芸人の立場がなくなるから勘弁してあげてーな」


「わかりました。じゃあ、テニス選手でお願いします!」



 いちいちウケを狙うのを考えて、喋らなければならないだなんて、芸人も大変なんだなぁ。とてもじゃないけど、私には無理そうな仕事ですね。



「環希さんの経歴を紹介しますと、昨年度、小学生テニス三冠王で、今年も全国選抜ジュニアと全日本ジュニアにおいて見事に優勝しています!」


「というと、テニスをしている小学生の中では強いの?」


「そうなりますね」



 この唐変木は、アシスタントのアナウンサーがしゃべった内容を、ちゃんと聞いてないのか? 三冠とか全国大会で優勝って言っているだろ? このデコ助は人の話を聞かないで、自分のペースで喋り続ける芸人みたいですね。

 周りの人たちは、コレに合わせるのは大変そうだなぁ。



「ちなみに環希さんは、ここまで公式戦無敗です」


「めっちゃ強いやん! 無敗ということは、負けたことがない?」


「はい、公式戦では負けてないですね」


「「「おおーっ!!」」」


「スゲー! でも、無敗なのに、今年は三冠じゃないのはなんでなん?」



 むむ、目聡いですね。なんだ、ちゃんと人の話も聞いているじゃん。



「海外に行っていたので、全国小学生テニスは欠場しました」


「試合欠場して海外旅行とか、自分めっちゃ余裕やん」


「お母さんが決めたことですから」



 でも、同じ小学生では相手にならないので、私もあまり出場する意義を見い出せなかったんだよね。


 それにしても、その「余裕やん」とか皮肉めいたツッコミは、普通の小学生では、どう返していいのか分からない気がするぞ。

 日本人的には、曖昧に微笑んで誤魔化せばいいのでしょうかね?



「なお、環希さんのお母さまは、過去にダブルスでグランドスラムを七度制覇した、元ダブルス世界ランキング一位の、庭野まどか選手であります!」


「「「おおーっ!!」」」



『みんなで驚いて』とか、そんなカンペが本当にあるんですね。バラエティ番組とはいっても、すべて予定調和だったのか。なんか、ちょっとがっかりした気分にさせられたよ。

 まあ、テレビはあまり見ないから、べつにいいけどさ。



「松田さん、松田さんの現役時代は庭野まどか選手と、同時期に活躍していましたよね?」


「そうですね。ボクの方が少しだけ昔ですけど、ほぼ同時期でしたね」



 げぇ! 松田修平いたんだ。暑苦しさナンバーワンの男との邂逅が、遂にきてしまった。

 まあ、スポーツバラエティ番組なんだから、べつにコイツが出演していても、なんら不思議ではないのか。



「その松田さんから、庭野選手の娘さんに対して、一言お願いします!」


「え~、環希ちゃんのお母さんには、ボクも現役時代には、よくお世話になってました」



 どうしましょうかね? 私って前世から、いまいちこの人が苦手なんだよなぁ。

 暑苦しくて鬱陶しいから、ちょっと弄って遊んでやろう。


 あと、前世での因縁も、ここで晴らさせていただきましょう!



「母に何をお世話になっていたのでしょうか? まさか、ナニとか言わないですよね?」


「ちょ、ここカット案件ちゃう? え、大丈夫? おもろいから続けろ? おけ」


「い、いや、テニスでお世話になっていたという、ね?」



 なるほど、テニスでお世話ねー。ふむふむ……



「そうでしたか。つまり、こういうことですね?


 今日もアナタのシャフトは、逞しくて素敵だわ。

 キミこそ、いつもストリングスが張っていて綺麗だよ。

 ふふ、テンションは高めでも構わなくて?

 ああ、ボクもテンションが高いキミが好きだよ。

 まあ嬉しい、今日はエンドグリップはいらないわ。そのまま来てちょうだい。

 キミも今日はスタビライザーは外しておくれよ。

 ああ、グリップ……

 ああ、フレーム……


 こういうことですよね?」


「え、えーと…… なんの話…かな?」


「なにって、テニスのラケットの話ですけど?」



 ラケットの話そのままでんがな。



「そうなん? 全然、ラケットの話には聞こえへんかったわー」


「そ、そう! ら、ラケットのはにゃちなんだよ!」



 松田さん、噛んでますよ? といいますか、この慌てぶりからして、もしかしたらもしかしたのかな?

 ははーん、ふーん。そうだったんだぁ。


 ふーん……



「そうでしたね。こちらこそ、その節は母がお世話になりました」


「環希ちゃん、ソレ松田さんには、きっついでぇ。顔、引き攣ってまんがな」


「日本語って、受け取り方の自由度が高い気がしませんか?」


「せ、せやな」


「あ、あはは……」


「松田さん、汗掻いてますけど、大丈夫ですか?」



 なにか、やましいことが過去にでもあったのでしょうかね?

 たまきちゃん子供だから、わかんなーい。



「ちょっと、気分が……」


「これって、放送で使えるんかいな? え? おけ? ほな、次いこかー」


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