1 2-2 0-40 いま私がやること
「それじゃあ、ママたちは行くけど、環希もちゃんとやるのよ」
「へーい」
優梨愛ちゃんと萌香ちゃんの二人は、結局一番最初の予定通りに大阪で開催される、世界スーパージュニアの予選に出場する事となりました。
同じ週にタイのバンコクと、マレーシアのボルネオ島サラワクで開催される、それぞれG2、G3の大会との受付リストを比較検討した結果、大阪になりました。
「アンタなら勝てるだろうけど、油断はしないようにね!」
「優梨愛ちゃんと萌香ちゃんも予選突破目指して頑張ってねー」
「予選は日本人のタメと高校生ばかりだから、なんとかなりそうだよー」
むむ、さすがに予選では、ランキング上位のポイントを持っている萌香ちゃんは、余裕があるのか言うことが違いますね。
今年のスーパージュニアは、私たちが当初予想していたよりも、ランキング上位の選手の集まりが悪くて、ダイレクトインできるランキングが600位近くまでの選手が本戦に直接入れたのです。
玉突きでランキング下位の選手が繰り上がったので、これなら予選通過もしやすくなると、色気を出したということですね。
早めに負ければ、さっさと横浜に帰って学校にも通えるしね。
海外だとこうは行かないのが、海外遠征でのデメリットでしょうか?
それで、ランキング上位の選手が、あと三人キャンセルしてくれれば、萌香ちゃんも本戦ダイレクトインできたのですけど、それは残念ながらも無理な注文だったようでした。
萌香ちゃんにとってあまりにも、ご都合主義的な事象が発生しない限りは、起こり得ない結果だったみたいです。
ちなみに、この時点での萌香ちゃんのITFジュニアランキングは、59ポイントで、ランキングは733位に位置してます。優梨愛ちゃんは、37ポイントで952位ですね。
兵庫で二週開催された大会で、二人は着実に結果を残していたみたいです。
「じゃあ、また来週!」
「SFまで残ったら、再来週だよ」
「さすがに、それは無理」
「うん、現時点では荷が重いよね」
そこは嘘でも、また再来週って言っておくべきなのになぁ。
二人とも謙虚ですね。
「二人とも降りるわよ」
「「はい!」」
「じゃあ、またねー」
さて、私は私のやるべきことをやりますか。
みんテニwithスウィッチで、タマキング選手を育てるのが、いま私がやることなのだから。
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もーもたろさん、ももたろさん♪
……吉備団子じゃなくて、テニスボールぶつけてやんよ!
世界スーパージュニアの予選に出場する、ママたち三人と新大阪で別れた私は、そのまま一人寂しく西へと向かう新幹線に乗っています。
本当に私一人って意味ではないよ?
今回は、ママの友人でもある、麻生百合子さんという出来るキャリアウーマンみたいな女性と一緒なのです。年の頃は、三十路手前ぐらいでしょうか?
大手企業の重役秘書みたいな、雰囲気を醸し出しているおば…イケてる女性ですね!
優梨愛と百合子で、世代の差を感じてしまうのは、私だけでしょうか?
最近の女の子には、"子"を付ける親が減っているからね。
でも麻生さんは、ママの友達ということは、交友関係的にいったら、もう少し実年齢は上なのかも知れませんね。女性の年齢はアンチエイジングで不詳な人が多いから、分かり難いんだよなぁ。
ママも四十路手前なのに、十歳は若く見えるしね。
それで麻生さんは、ママの代わりに私の保護者代行ということです。
べつに、私一人でも岡山に行けなくはないのだけど、この身体はまだ小学五年生の身の上ですから、一人では何かと不都合な場面も出てきますし、保護者同伴と相成りました。
ちなみに、麻生さんは指輪をしてないから独身みたいです。たぶん。
『岡山、岡山に到着します。お出口は左側です』
「環希ちゃん、降りますよ」
「はーい」
やってきました! 大都会、岡山!
RSK全国選抜ジュニアテニスの本戦です。優勝すれば、来年のワールドジュニアの予選の代表に選ばれます。
私はまだ、ITFジュニアサーキットには出場できませんので、小さなことからコツコツとやらねばなりません。
まあ、本音を言えば、あまり気乗りはしないのですが。しかし、私が出られる大会は限られていますので、こうして岡山まで赴いたというわけであります。
ママが勝手にRSKに登録していたともいいますけど。私もさすがに、ぶっちするのは気が引けますので、こうして岡山まで赴いたというわけであります。
こうなったら、岡山と瀬戸内の美味しい食べ物でも頂かなくては、私の心の採算が取れません。
マスカットって、いまの時期でも食べれるのでしょうかね?
では、サクッと勝って横浜に帰りましょうかね!
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「どうだ、庭野は?」
「相変わらず、規格外の強さですね」
「やはりそうか」
「ええ、優勝は庭野で決まりでしょう」
「中一と中二では、庭野の相手にならんかぁ」
「坂巻や里田ですら勝てないのですから、それは仕方ありませんよ」
「里田は何度も庭野と対戦していたから分かるが、坂巻?」
「ええ、試合形式の練習を何度もしているようです」
「そういえば、坂巻も庭野さんの所に移ったのだったな」
「それ以前から、坂巻は練習に参加していたようですが」
「それ以前から?」
「ええ、お互いの家が近所という縁で、小学生の時からたまに通っていたそうです」
「なるほど」
「それで、庭野環希には勝てないと、坂巻本人から聞きました」
「マジで?」
「ええ、マジで」
「坂巻はG5とはいえ、シンガポールで準優勝しているんだぞ?」
「ええ、そうですね」
「G4の兵庫国際でもSFまで残ったのだぞ? その坂巻が小学五年の庭野に勝てない?」
「逆説的に言いますと、庭野環希は既にITFジュニアでも勝てるということです」
「……解っていたつもりではあったが、改めて指摘されると本物のバケモノだな」
「バケモノって、環希ちゃんに失礼ですよ。まあ、否定はしませんけど」
「しかしこれで、日本人女子では小坂以来の超大物の誕生は確定だな」
「小坂はアメリカ育ちですから、純粋な日本育ちでは、母親のまどかさん以来ですよ」
「庭野まどか以来だと約二十年振りか。しかもそれが、庭野の娘だとか笑えないな」
「日本人選手では、なかなか一流や超一流には届きませんから、それは仕方ありませんよ」
「やはり、育成の問題なのかねえ……」
「体格の問題もありますけど、育成環境もあるのでしょう」
「はぁ~、一人の大物に期待するだけでは、その後が続かないのが問題なんだよなぁ」
「私たちだけが心配しても埒が明かないですよ」
「それはそうなんだが、愚痴りたくもなるんだよ」
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「どっせい!」
「ゲーム、庭野! 6-1、6-0」
サクッと勝ったどー!
明日は月曜日だから、大阪は素通りしてそのままお家に帰りますよ。
義務教育とは、教育を受けるのは子供の義務である。たぶん。
つまり、学校があるのだ。